手加減と悪い癖
「やっぱり、お前がご主人を負かしたなんて信じられねぇ。」
「勝ってねぇよ。引き分けたんだ。」
ゼクターはカオリと戦って疲れ果てているクラムに物申した。
それをクラムは訂正した。
「でも、ゼクター。クラム君。物凄く強くなっているよ。もう私なんて正攻法では倒せないよ。」
「カオリに圧勝出来ていない時点でご主人が負ける訳ねぇんだよ。それにお前如きに引き分けた時点でご主人にとっては負けと一緒なんだよ。」
カオリのフォローもゼクターには何も届かず、苛立ちだけが積もっていた。
カオリが久しぶりにクラムと戦いとと申し込んでいると聞いて来てみたら戦闘の終盤だった。
クラムの全てを見た訳ではないが、それを加味してもクラムがオンリーに届いた事が信じられなかった。
「まぁ、どうせご主人の悪い癖が出て負けたんだろ。」
「悪い癖?」
オンリーの悪い癖と言って思い当たりはしたが、それとは違うと自分の勘が言っていたため、つい聞き返してしまった。
「あぁ?知らねぇのか?ご主人は真っ向勝負以外しない事だよ。」
「?」
ゼクターが言った事をクラムは理解できていなかった。それとは打って変わってカオリはゼクターが何を言いたいのか理解出来た。
「お前が強いのは分かった。でもそれは一時的だ。全力を出せる時間が少な過ぎる。その程度ならアタイでもギリ凌いで倒せる。」
ゼクターのいう通り今のクラムに最も足りないのは継戦能力である。
少し格下の相手や防御や回避に特化した相手でもクラムのエネルギー切れを狙って倒すことができるのだ。
搦手が苦手なカオリでもギリギリの戦いが出来るぐらいには削る事が出来ていた。
「だから、ご主人がまた相手の土俵でギリギリまで戦っていたのが目に浮かぶ。ご主人はその気になればどんな相手でも相手の天敵になる事ができる。あの人は世界で最も厄介な万能型なんだよ。」
「あれって万能で片付けて良い強さじゃないと思うけど。」
ゼクターの発言にカオリはオンリーの底知れぬ強さを思い出して呆れていた。
「相手の天敵になれるってどういう事だよ。オンリーは確かに難敵だが、天敵ではないぞ。」
オンリーの全ての技が必殺になるほどの脅威度を占めているが、クラムにとっての天敵はさっき言っていた。こっちに切り札を切らせた瞬間、逃げに徹するような人間や能力である。
「お前はまだご主人を過小評価をしている。あの人がその程度ならアタイがもう倒している。」
ゼクターは苦い敗北の記憶を思い出しているのか苦虫を噛んだような顔をしている。
「ご主人は相手に合わして最も厄介な人物になる事が出来るんだよ。」
「コピー?」
昔戦った敵の中に過去に戦った中で現在戦っている敵に最も苦手とする人物の戦闘法で戦えるというコピー人間がいたので、それと同じか近いものかとクラムは考えた。
「コピーなんて矮小なものじゃない。相手にとって100%天敵な人物を作り出せるんだよ。」
ゼクターはクラムの発言を鼻で笑って嘲笑した後で訂正した。
オンリーの長所は相手を見抜く洞察眼である。
それにより自分自身でも気づかない苦手とする者になれるのである。
それを可能にするのが、オンリーの万能な能力値である。
「あいつまだ、手加減していたのか。」
「それは違う。」
その事を知ったクラムは追いついたと思っていたオンリーがまだまだ先にいる事を知って悔しさに打ちひしがれていた。
そんなクラムをゼクターは否定した。
「ご主人は手加減なんてしてない。」
「?手加減したから。クラム君に真正面から戦いを挑んだんじゃないの?」
傍観者に徹して冷静に整理していたカオリはクラムと同じ結論に至ったのだが、どうやら違うらしい。
「言っただろう。ご主人の悪い癖だって、これは昔からある癖らしい。自分では気がついていないそうだ。」
オンリーは自分が相手に合わして能力を選択している自覚がなかったのである。
聖女護身術を手加減用として積極的に使っていた時期は合わせる能力を無意識に使っていなかっただけなのである。
「ご主人はいわゆるスロースターターだ。全力を出すのが物凄く遅い上にその事に気がついていない。それに加えてあの強さだ。多少格上でも勝利をもぎ取れる能力がある。」
オンリーは自分自身の弱点に気がついてなかった。
ラッカアのような圧倒的な格上には多少の小細工で倒せるほど安い相手ではない事から。気づくきっかけにはなっていなかった。
勿論、ラッカアはこの事を知っているが、オンリーに教えるつもりはなかった。
オンリーなら自力で解決できるという信頼と試練として与えているのである。
「だから、教えんなよ。アタイがしばかれる。」
ゼクターもこれを知った時に同じ口止めをされていた。
そして、これは教えた人物に必ず教える決まりである。
「だから、あの人の本当の全力を知りたいなら天敵のない奴になるくらいしか思いつかねぇよ。」
ゼクターはこれまでオンリーに最初から全力を出させようと試行錯誤したが、結局のところ天敵のない人物になるという無理難題しか思い浮かばなかった。




