ゲテモノ 毒編
「それにしても、クラムがご主人に引き分けるとはにゃ。」
「当然よ!私のご主人様よ!」
手紙を読みながらニナニナがクラムの執念に感嘆していた。アミアは自分のことのように喜んでいた。
それでも、アミアの内心は驚きで満ちていた。クラムは強い事は理解しているが、それでもアミアの中でもオンリーは規格外の強さとの認識だった。
「貴方達、そんなに話してないでちゃんと集中して下さい。」
「大丈夫にゃ。ちゃんと気配に気を配ってるにゃ。」
アンナが話に集中して本命の釣りが疎かになっていないか危惧していたが、ニナニナはしっかり役目は全うしていた。
「それなら良いのです。」
アンナはそう言い切ると、釣りに集中し出した。
「やけに今回は張り切っているにゃ。」
「今回のターゲットはアンナがリクエストしたゲテモノ食材だもの。それにお祝い事には縁起がいいらしいから。オンリーに贈りたいのでしょう。」
今回のゲテモノ旅行が終わったらアンナ達はオンリーとクラムの元に戻る予定になっていた。
だから、アンナはいつも以上に力を入れて今回の漁に賭けていた。
「今回のターゲットは確かある魚の精巣にゃ。私でもそんなところ食べないにゃ。」
猫として魚は粗末にしないをモットーにしているニナニナでも精巣付近は口にしていなかった。
そもそも捌く時必ず取り除く部位だった。
「なによりわざわざ毒魚で有名な魚の精巣だものね。」
「その魚の身は1グラムで五人の大人を殺せると言われるほど強いそうですが、その精巣だけは食べる事ができるそうです。」
しかも珍味。
滑らかでクリーミーであり、口に入れた瞬間にとろけるような味わいが広がると言われている。
地元の領民からは高級食材として知られている。
「なんでも他の種類では精巣も食べられないようなので、素人が誤った種を食べて死んだ話は毎年あるそうです。」
そうまでして食べたいのかと話を聞いていた二人は呆れていた。
でも、死ぬ覚悟で食べたいと思うほど美味いと言う珍味を是非食べてみたいと二人は思った。
「でも、分かるの?」
素人が誤って食べて死ぬ。
正に自分らの事ではないかとアミアはふと思った。
「それは大丈夫よ。此処では食べないから。」
「どう言う事にゃ?」
魚は釣ったその場で食べるのが最高に美味い。
中には例外は存在するが、それでも釣った時も美味い。
逆に釣って不味いものは試行錯誤しても美味いものより劣る。ニナニナはそう考えていた。
だから、今回も釣って味見してオンリー達に持って帰るものだと思っていた。
「此処で食べて間違っていたら死ぬじゃない。」
アミアはまだ分かっていなかったが、ニナニナにはアンナがどう言うつもりなのか察した。
「つまり、間違って食べてもご主人に解毒してもらおうってことにゃ。」
「あぁ、そう言えばオンリーって聖女候補だったわね。」
あまり話題になっていなかったので、軽く忘れていたが、オンリーは聖女候補筆頭である。解毒などお手のものである。
その魚はどんな毒か知らないが、自身が解毒した後なら他の毒も解毒可能になるのだ。
「えぇ、そうすれば毒があろうが無かろうが食べる事ができます。それにご主人様が解毒できるなら普段は食べる事ができない身を問題なく食べることができるかもしれません。」
「それはしばらく飼っていた毒魚から毒が抜けていた話の事?」
その毒魚にはその話から飼い主の愛情によって浄化されるのではないかと言う眉唾物な話があった。
しかし、アンナは愛情で解毒などと言うそんな現実的ではない話を信じたわけではない。問題なのは解毒可能と言う事実だけである。
「基本毒腺などの毒の生成する機能を持つ生き物を解毒して食す事は非効率すぎて現実的ではありません。」
オンリークラスになるとそれくらいの事は力業で解決できると思うが、今回はそんな話がしたいわけではなかった。
「もしかしたら、その毒魚は普段食べている餌から毒を蓄積する性質を持っている可能性があります。」
アンナはそう言う仮説を立てた。
この仮説が正解だった場合、食すことができない種の毒魚も食すことが可能になる訳である。
「それは楽しみだにゃ。」
「なので、集中して釣って下さい。」
「引いてるわよ。」
「!!」
アンナの釣り糸が明らかに引っ張られていた。
「思っていたより軽いですね。」
手応え的には今までの珍味達に比べたら弱かった。
でも、確実に糸の先には獲物がかかっていた。
「これは?」
「別の魚?でも、柄は似ているような?」
市場で前日に確認した目的の毒魚とは柄は似てるが形が明らかに違う魚が釣れた。
「くんくん。?この魚から市場で確認した毒魚と同じ匂いがするにゃ。」
おかしな事にその魚からは目的の魚と同じ匂いが漂っていた。
「同じ毒を持っているだけじゃないの?」
アミアは釣った魚が目的の毒魚と同じ毒を保有している話ではないかと考えた。アンナの仮説が正しいのなら毒魚と全く同じ毒を持った魚がいてもおかしくなかった。もしかしたら、この魚が目的の毒魚の毒の元の可能性すらあるとアミアは考察した。
「そんな単純な間違いしないにゃ。この魚からは確実にあの毒魚と寸分違わず同じ匂いがするにゃ。」
「うーん、もしかしたら………」
アンナは何を思ったのか。
その魚を軽く突いて刺激を与えた。
すると………
「にゃ?!膨らんだにゃ!」
「本当ね。市場で見た毒魚にそっくりになったわ。」
そこにいたのはさっきまでガリガリみたいな姿だったとは違って丸々と太ったような市場で見た毒魚の姿になっていた。
「さっきの姿がこの毒魚の本当の姿だったのね。外的刺激などを感じると膨らむ仕組みみたいね。」
市場で見た毒魚の姿は仮初の姿のまま死んだ為に固定されてしまった姿だった。
地元の漁師ならこの本当の姿も常識として知っている為、初めて見る人にこの毒魚を説明する時に忘れる事が良くある話なのだ。それによって毒魚を誤って食べてしまうこともあるのだが、証言者が死んでいるので、発覚していない事実である。
「さぁ、釣っていくわ。」
このポイントで釣れることが分かったため、より多くの魚をもって帰るために気合を入れ直す三人だった。




