病室での一幕
「こ、此処は……………ぐっ!」
クラムは自分が何処にいるのか、身体を起こし辺りを見渡そうとした瞬間、身体中に電流が走ったように痛みが全身を襲った。
「あまり動かさない方がいい。」
「師匠………」
すぐ近くからアンライの声がして目だけを動かしてそちらに視線を向けた。
そこには果物を剥いているアンライの姿があった。
「貴方は良くやりました。」
アンライが目覚めたばかりのクラムに掛けた言葉は労いの言葉だった。
その時点でクラムは察した。
「俺は………負けたん、ですね。」
自分の全てを賭けてもオンリーに届かなかった事を理解したクラムの瞳には一筋の雫が流れていた。
「最後まで聞きなさい。」
今にもクラムの瞳ダムが決壊しそうになっているのをアンライが止めた。
そして、その言葉はクラムが予想だにしなかった言葉だった。
「結果は引き分けです。両者倒れて起き上がらなかったため、勝者なしで終わりました。」
試合内容としては誰もが息を呑む壮絶なものだった。
両者が血溜まりの中で倒れたままぴくりとも動かなかったので、急いで救急隊が出動する事態になっていた。
「ラッカアに感謝する事ですね。あれでなかったら治療不可能で死んでいましたよ。」
両者の怪我は予想より酷く救急隊の実力では身体を治す前に体が死んでしまう現状だった。
そこにラッカアが一瞬で治してオンリーを連れて去って行った。
「おれ、ものすごく痛いんだけど………」
クラムは聖女が治したにしては死ぬほど痛い事に抗議したい気持ちだった。
「あんな無茶してもその程度なんて認識させないためです。」
死ぬから死にそうになったんだから。文句を言うなとアンライは言っているのである。
「でも、そっか………」
クラムは自分の全てをぶつける事でオンリーに届いていた事を知って今度は嬉しさで瞳ダムが決壊しそうになっていた。
「はぁ、男がそんなに簡単に泣くものではないですよ。」
「……………なぁ、師匠。」
「なんですか?」
「ずっとなんとなく気配で分かっていたんだけど………皆何してるの?」
オンリーとの試合がクラムをさらなる高みへと押し上げた事によって気配だけで相手の現状が手に取るようになっていた。
だから、病室の敷居の奥でワヤ達が縄で縛られていることが分かった。
それも全員が違う方法で縛られていた。
「あれは何?」
明らかにワヤ達の現状について聞いた瞬間に目を逸らして果物を剥くのに集中し始めたアンライが犯人なのが分かったクラムは取り敢えず質問してみる事にした。
「ふっ、成長しましたね。クラム。視覚を使わずとも周囲の状況を把握できる。私達に一歩近づいたと言うところでしょうか。」
慈愛の笑みを浮かべて弟子の成長を喜ぶ師匠のように話すアンライだが、どう見ても話を逸らそうとしているのがクラムじゃなくても誰にでも分かった。
「…………なんか、話したそうな声と抜け出そうとしている音がするんだけど…」
「…風の音でしょう。武闘会も終わって色々騒がしくなってくる時間でしょう。」
支離滅裂な事を言う意味不明なコミュ障を発言しているアンライは誤魔化そうとしていることは分かりきっていた。
クラムが何より気になるのはなんで皆を縛っているのかである。
「多分、猿轡もしているよね。どう言う状況?」
ここまで話さないと言うことは本当はなにか重大なことがあるんではないかと判断し始めていたクラムだった。
「だって、クラムが寝ているから。知らない人と何話したら良いか分からなくて……………」
「…………………………………」
そこにいるのはいつも自分に見せている尊敬できる偉大な師匠の姿は何処にもなかった。
自分を引き取ったばかりの慌てまくってポンコツをしまくっている懐かしい師匠の姿がそこにあった。
「はぁ、とりあえずみんなを解放して…」
「………間違って3日くらい解けないくらい魔力を流したから。最低3日あのまま……」
敷居の向こうからこっちの声が聞こえていたのか抗議の声がくぐもって聞こえた。
「マジかー。どうすんだよ………」
「あの子達の実力なら3日経てば多分必ず解けると思うから。あとはよろしく……」
「ちょっと待てーー師匠ーーー!!」
こっちも身体が動かないのに何をどうしたら良いんだよ。とクラムは途方に暮れていた。
「そっちもそっちで師匠に苦労を掛けられているみたいですね。クラム君。」
「オンリー!えっ!お前は大丈夫なの?!!」
平然とクラムの病室に入室して来たオンリーの姿は平常時となんら変わらない様子だった。
「これでも体の節々が痛むんですよ。」
オンリーだけ元気なのを文句を言おうとしたクラムの言葉をオンリーは先に牽制した。
「それにこれでも聖女並みの実力ですよ。回復は得意なんですよ。」
クラムのベッドの隣に座ったオンリーはクラムの身体を見て聖術をかけた。
「すげぇ……」
オンリーの聖術がかけ終わったクラムは痛みはあるが身体を起き上がる事も立ち上がることも出来るようになっていた。
「ありがとうな。オンリー。」
「礼には及びません。クラム君は私の対等な人間です。これくらいしてあげますよ。」
そこにはクラムが今までに見たことのない優しい笑みを浮かべたオンリーの姿があった。
「礼を言うのは私の方です。これで私は先に進める。……あまり過激なことはやめた方がいいですよ。」
オンリーはそう言うと病室から出て行った。
「?なんなんだ。」
クラムはオンリーの言葉の真意を考えた後ある事に気がついた。
「誤解だーーー!いや、お前ならなんとかなるだろう!たぶん!待てーー!オンリーーー!!!」
ワヤ達の姿を見てクラムの趣味を想像したオンリーはお邪魔だろうと言う気遣いだったのだが、クラムからしたら全くの濡れ衣だった。




