クラム対ワヤ 中
「本気を出しなさい。クラム。」
「あぁ?俺が本気出してない?」
ワヤの斬撃をかろうじて避けたクラムがワヤの物言いに疑問を思った。
さっきの攻撃は確実に本気の力を込めていた。
「別にさっきの攻防が本気じゃないなんて言ってないわ。私はね。アンタが本気は出しても全力は出していないって言っているのよ。」
ワヤの目はアンタ、何か隠しているのでしょう?って言っていた。
「…………」
ワヤの言う通り、クラムはこれまでの試合、手の内を隠して戦ってきていた。
それはオンリーとの勝率を0.1%でも上げる為のものだった。
「私に対してもそんな舐めた真似して勝てると思ったら大間違いよ。」
ワヤは密かにキレていた。言葉ではなんと言っても心の中ではクラムは自分に全力で戦ってくれると思っていたからだ。
だから、クラムに対して怒っていた。
「アンタが全力を出さないって言うなら別に良いわ。こっちは全力でアンタを倒してオンリーも私が倒す。それだけよ。」
ワヤはそう言うと、全力の炎を剣に纏わせてクラムに攻撃し出した。
「くっ!」
「何度やっても無駄!!」
クラムはさっきと同じく氷の刃で受けようとしたが今度は拮抗することもなく溶かされ壁まで吹き飛ばされた。
「っ!」
瓦礫の中からクラムは立ち上がった。
「こっちは手を抜かない。」
クラムが立ち上がるときには既にワヤは目の前にいた。
そして、クラムに一閃喰らわそうとした瞬間、クラムの剣が弾いた。
「…………切ったわね、札を。」
クラムの持つ剣はいつもの氷ではなかった。明らかにそれより低温のドライアイスで出来ていた。
剣の周りには空気が冷えて白く下に流れていた。
「お前が火力を上げたならこっちは下がるだけだ。」
別の札を見せたクラムだったが、ワヤの表情は今も晴れていなかった。
明らかにクラムの切った札は予想がしやすい物だった。
ドライアイスは二酸化炭素を冷やした物。風魔法と水魔法を混ぜて出来る氷魔法からしたら原理が似ている為、難易度はともかく思いつきそうな物ではあった。
「悪いがこれ以上手札は見せない。」
「だから、舐めるな!って言ってんのよ!」
ワヤの炎は剣から全身に燃え広がった。
「私の炎がこの程度だと思うな!」
まるで火炙りにあっている人のような姿になったワヤは足裏の炎を爆発させた。
ワヤはそれを推進力にして今まで以上のスピードでクラムの背後に回って一閃を入れた。
「舐めてるのはそっちだ。」
「なっ!」
「俺の切り札の一つがただのより低温にするわけ無いだろう。」
クラムの背後に回ったワヤの身体が次第に炎ごと凍っていっていた。
「俺の氷はもうただ氷じゃないんだよ。」
クラムの剣は周りを冷やし、空気が気体から液体に変わってきていた。
「はぁ?」
ワヤは間近で見たクラムの姿に驚いていた。
濡れていたのである。汗ではない。別の何かで。
「液体窒素だ。」
ワヤの疑問にクラムは答えた。
液体窒素の温度はマイナス196度の超低温。それがクラムの体から流れていた。
「でも、これくらい!?」
「無駄だ。」
ワヤが更に火力を上げて自身の纏わりつく氷を溶かそうとしたが、急な頭痛と吐き気に襲われたて倒れてしまった。
「なに…をした…の?」
「見れば分かる凍らせた。」
クラムは今のこの闘技場で起こっている事を言ったが、今のワヤにはそれを理解することはできなかった。
「……もう、そこまで症状が進んでいるのか……分かっていないようだから。もう一度言う凍らせたんだよ。この闘技場を。」
「そんなの…わかっ…てる………」
「いや、分かっていない。」
クラムはそう言うと氷でできた鏡をワヤに渡した。
「なっ、にこ、れ。」
そこには顔が真っ青になったワヤが写っていた。
でも、寒さで真っ青になったわけではなかった。
「チアノーゼだ。」
「ちあ、のー、ぜ?」
「酸素欠乏症の事だ。」
会場中が疑問に起こった。
この闘技場は常に結界は張ってはいるが、空気は常に外と循環している為、闘技場内の酸素が無くなることなんてないのだ。
「この技はただ氷の剣を低温にして周囲を凍らせるのが目的じゃない。これは闘技場を凍らせて闘技場の空気循環を停止させるのが目的の技だ。」
クラムの魔法により空気は液体に変わっている。
それは窒素だけではない。呼吸に必要な酸素も液体酸素に変わっていた。
「つまり、今もこの闘技場の酸素は無くなってきているんだよ。」
「………………っ!」
ワヤはそれを聞いて急いで炎で氷を溶かそうとしたが………
「言ったはずだ。無駄だ。気付かないか?もう既に自分自身の集中力も思考も落ちてきている事に。」
クラムの言葉に対する反応速度も次第に落ちてきていた。
ワヤがクラムの氷を溶けなくなったのも背後に回って奇襲したのに攻撃できなかったのも全て酸素欠乏による集中力と判断能力低下による攻撃速度と攻撃能力低下である。
その為、上手く火力上げる事が出来ていなかった。
「だから、もう降参しろ。まぁ、そろそろ気絶して自動的に終わるけどな。」
「ふ、ふ、ふ。」
ワヤの笑い声がか細い笑い声が聞こえてきた。
「なんだ?」
ワヤの笑い声はクラムに負ける絶望からくるものではように感じていた。
「ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ。」
ワヤはか細く大笑いしていた。
「ばく、はつ、だ。」
「っ!!」
ワヤの声と一緒にそれまで垂れ流されては凍らされていた炎が一斉に爆ぜた。
そして、爆炎が闘技場を包んで強固な結界にヒビが入った。




