負け犬
「さぁて、邪魔者は居なく無くなったし、早速修行を始めるわよ。」
「えっ?!いまから??!」
ラッカアとの戦いで疲弊していたクラムは師匠の発言に驚いていた。
「そう。だから、貴方達はさっさと帰って。」
アンライはカハナ達に目線を合わせずに言った。
「なっ!なんでですか?」
明らかに邪魔者扱いされた事にカハナは疑問に思った。
「私、人嫌いって話聞いていたでしょう。貴方達が居るともうすぐ…………」
「もうすぐ?」
「貴方達を自動的に殺してしまうは死体も残さず。」
「なぜ??!」
カハナ達はいきなりの殺人予告にびっくりしていた。
「昔から嫌いなものは消す事にしてから癖づいているのよ。」
「なんだ??!その傍迷惑なくせ!」
アンライの手はよく見たら震えていた。
今すぐ、自分らをこの世から消し去りたいのに弟子の友人だから我慢していたのだ。
「分かりました。帰ります。」
これ以上粘るのは命の危険があると判断してカハナ達は大人しく帰った。
「ようやく、肩の荷を落とせる。」
「師匠はもっと人になれた方がいいよ。」
「暗黒時代から生きてるエルフの私にそんな事を出来ない。」
暗黒時代、人が他種族争い、強制的に奴隷として使っていた時代をそう言う。
その頃から生きる長寿な種族は今でもその頃の恨みは消えていない。
アンライはその中でもまだマシな方である。
「まぁ、その方が師匠らしいですね。」
人に優しくコミュニケーションとれている師匠を想像したクラムはあまりに現実的ではない光景に笑いが込み上げていた。
「それでは、修行を始める。」
「おう!それで何するんだ?新しい魔法でも教えてくれるのか?」
アンライは魔法が得意なエルフ族の中でも最高峰に位置する為、クラムは新しい魔法でも教わるのかと思っていた。
「いえ、その前にクラム……」
「なんだよ。」
今までにないぐらい神妙な顔をする師匠に対して不思議に思うクラムであった。
「貴方とオンリーには圧倒的に足りない点があります。何か分かりますか?」
「……………実力か?」
クラムは考えた結果、やっぱり総合的な実力の差が足りていない結論に至った。
「それもありますが、貴方がオンリーに勝てないのを絶対としている点は違います。」
アンライはオンリーとクラムの間に実力の差はあるがそれが絶対的なファクターではないと言っている。
「貴方がオンリーと戦う上で絶対的に足りない点。それは手札の少なさです。」
「?」
オンリーと自分の絶対的な差が手札の差と聞いてピンと来ていなかった。
「分かっていないようなので説明しますが、貴方がオンリーと戦っている時ラッカアの聖女護身術しか使っていませんね。」
「そうだけどそれが?」
確かにオンリーがそれ以外使っている姿をクラムは見た事がなかった。
「オンリーは学園に通っています。」
「いや、知っているよ。」
同級生なのだから当たり前に知っている事を言われて余計に分からなくなっていた。
「つまり、貴方はオンリーの得意な魔法属性を知らないのですね。」
「!!」
そこでクラムはアンライがなにが言いたいのか分かった。
「あちらはクラムの得意属性も精霊の属性も術者としての練度も知っている。それなのに、クラムはあちらの得意属性も精霊も知らない。これがどう言うことか分かりますね。」
オンリーはクラムが自分に対してどう対策するのかをクラムの手札から予想も想像もできるのに対して、クラムはオンリーが自分に対してどう対策するのか、一切わからなかった。
「ようやく、理解しましたか。貴方がどれだけそのまま強くなってもオンリーの中では想定の範囲内でしょう。それだけ貴方を評価していると言うことでもありますが。」
オンリーは決してクラムの事を格下扱いはした事が無かった。今は自分より弱くても、その成長速度は凄まじくすぐにでも自分と同じ領域に来ると考えているからである。
「別に手札が少ない事がいけないとは言っていません。問題なのは敵が貴方の手札を全て知っている事です。」
「全て………クラムはあれから強くなった。私との練度もオンリーが知っている時より圧倒的に。」
アータはアンライの意見を否定した。
「そうでしょうね。ですが、貴方の成長は私の想定内です。」
つまり、既にクラム達の成長を予測できている時点でダメなのである。
「オンリーと戦って理解しました。確かにラッカアが気にいるのが分かります。あの子は強い上に賢い子です。私のオリジナル魔法を瞬時に理解し最小限の手札で対処していました。」
「……………」
自分の師匠が別の師匠の弟子を褒めているのが、クラムは気に食わなかった。
「なので、貴方に手札を増やせとは言いません。」
「???」
オンリーの知らない手札を作って武闘会に向けての切り札にすると思っていたクラムにはアンライの発言は理解できていなかった。
「今から作れる手札では奇襲には使えてもオンリーの切り札には練度不足で切り札にはなりません。」
「ならどうするんだよ。」
もう訳が分からなくなったクラムは思考を放棄し始めた。
「簡単です。札が増やせないなら今ある札の練度を上げます。オンリーが想定しない程の域にします。」
「???」
クラムはそれこそ無理だろうと思った。練度の上げるのがそんな簡単ではないことは分かっていた。
「そんな事は分かってます。なので、ここからやるのは覚悟が要ります。なので、クラム。貴方に問います。」
アンライは悲しそうに告げる。
「貴方は人の身を辞める覚悟はありますか?」
「人の身を辞める覚悟………」
アンライやラッカアが歳からは考えられない見た目年齢をしているのは全てに人とは逸脱した存在になっているからである。
「あるよ。負け犬の人生は嫌なんだ。」
これはクラムが唯一持っている信念であった。
「……………貴方ならそう言うと思っていました。いいでしょう。師匠として貴方を導きます。」
クラムの覚悟は本物だと分かっていたアンライ前々から用意はしていた。




