産声
でも、どうする。
今の俺のイメージではオンリーの技術を習得できない。
「…………また、何か悩んでいるようですね。…そんな時、私の師匠は何をしたと思います。」
「いきなりなんだ?」
突如として師匠話をされたクラムは思考に集中したいのに困惑していた。
「正解は相手をより追い詰めるです。」
「っ!」
リリスはそう言うと戦闘を再開し始めた。
「生物は追い詰めれば追い詰めるほど思考します。生き残る為に!」
そこからはまたクラムの防戦一方が始まったが………
「随分と焼けるのが上手くなりましたね。」
「そりゃぁ、あれだけ食らえばな……」
クラムは事前に聞いていた見えない聖縛の仕組みは精霊から聞いていたが、それがあっても一二回避けるのが精一杯だった。
しかし、今では三回、四回と避ける数を増やしていった。
「私の癖を読んでいますね。」
「あぁ………」
クラムはもう返事をするのも苦しくなっていた。
「やっと、聖力が尽きてきましたか、流石の量でしたね。」
リリスが言うようにクラムの聖力は底が見えてきていた。
「本当に厄介な技だな………」
「えぇ、聖術を学んでいない人からは何の抵抗もなく、聖力を使えますから。聖力も魔力と同じで底が尽きれば気絶します。そこに根性などの理論は通じません。」
クラムは苦しんでいたが、それと同時にこの苦しさが何か考えていた。
これは疲労による苦しさじゃない。
クラムが行ったのはまず、今持っている常識の破壊である。
聖力枯渇による苦しさを疲労に例えていたらオンリーの真似はできない。
それは空腹は減って起きるのに対して疲労は蓄積して起きる為である。オンリーのクラムに与えたイメージは器があり源泉から器に流れ込むイメージである。
これ自体にはクラムは疑問はなかった。魔力のイメージは正にこれに近しいものを元々クラムは持っていたからである。
「息苦しそうですね。クラムさん。さっさと私にやられて楽になりますか?」
「はっ!誰が楽になるかよ………」
と言ってもクラムはすでに息絶え絶えだった。
くそー苦しい。いくら呼吸をしても頭に酸素が回らねぇと心の中で悪態をついていると…………
「そうか……」
クラムの中でイメージが構築された。
「呼吸だ………」
「それが?どうしました?」
リリスにはクラムの言っている事が分からなかったが、クラムにはもうそれに答える気力もおしかった。
器に空っぽになるイメージ。
源泉から器に流れ込むイメージ。
「っ?!どういう事ですか?」
聖縛でクラムを捕縛している力が明らかに弱まった事がわかった。
クラムの聖力が無くなったわけではない事が経験から感じる事が出来るのに、聖縛の力が弱まった事にリリスは困惑していた。
「すぅぅぅぅぅぅ。」
クラムはよりイメージを確実にする為に空気を大きく吸った。
そして……………
「オギャャャャャャャャャャャ!!!!!!!」
「「「「「………………………………………」」」」」
盛大にやらかしてしまった。
会場にはキーンとシーンが流れている。
「さぁ、始めようか。」
「いえ、クラムさん。流せませんよ。何もなかったように始めるなんて不可能ですよ。なんですか?いきなり、赤ちゃんプレイならクラムさんの仲間に頼んでください。私にそんな欲望ぶつけないでください。」
「「「ざわざわ。ざわざわ。」」」
先までの気まずい静かさとは打って変わってギャラリーがざわついていた。
「誤解だ!!あれは……初めて呼吸するような気持ちで………」
「おぎゃりたかったと………クラムさん……変態だったんですか?」
「違う!」
リリスのクラムへの誤解は増すばかりであった。
「まぁ、でも、何かを掴んだのはわかります。」
それでも、クラムの中で何かが変わったことは感じていた。
「降参です。」
「へぇ?」
「だから、降参です。最初に言った通り基本スペックはクラムさんの方が上です。理由は分かりませんが、聖縛が弱体化しました。このまま戦っても無駄に手の内を晒すだけです。」
リリスも学園祭の武闘会に出場する為、学年が違うクラムはともかく、同じ学年の人も此処にはいるので、自分の手の内は出来る限り知られたくはなかった。
「それでは。」
クラムのせいで針の筵状態だったリリスはいち早くこの場を去りたかった。
「え?」
一切勝った気がしないクラムだった。
その後、一年生相手におぎゃり倒して勝った変態のとしてクラムはより有名になった。
「誤解だーーー!!!!」
クラムの声は虚しく空に消えていった。




