竜種
「オラ!オラオラオラ!どうした!こんなものか?!!ザコが!」
「あの子〜?性格〜変わりすぎ〜」
「予想はしていましたが、予想以上ですね。」
オンリーは今、新しく来た奴隷のシィといつも眠たげな羊の獣人クーメェと一緒にシィの性能テストをする為に少し人里離れた山に来ている。
「あの強さも〜予想以上〜ですか〜?オンリー様〜」
「いいえ、そちらに関しては予想通りです。竜種は成長が不規則なので、幼い頃から大人以上に大きい人や逆に成人でも小さい人もいます。老人になってから急激に身体が大きくなったという事例も聞いた事はありますが、伝聞なので確証はありません。」
竜種の成長は個体差が激しい代わりに力の成長は通常一定である為、オンリーはシィの見た目が子供並みでも、その力は竜種らしい強さを持っていると考えていた。
「シィ、そのぐらいにしなさい。」
「………はい。」
「本当に〜戦闘中と〜それ以外の時で〜まるで〜人格が〜入れ替わっている〜みたい〜ですね〜」
オンリーの呼び声に反応して魔物の中でも硬さにおいて飛び抜けて硬い亀系の魔物を原型が分からないくらい笑顔でぐちゃぐちゃにしていたシィがまるで何もなかったように無表情に戻ってオンリーの元に戻ってくる姿にはさっきまで狂気を感じさせなかった。
そんな姿にクーメェは二重人格を疑い出した。それぐらい表情の緩急があった。
「それはありません。この子の魂は一つです。」
二重人格人格者には二通りある。
一つは先天的に産まれながらにして二つの魂を持っている場合、そして、もう一つは後天的に外的要因で魂を一つ作る場合である。
この二つに共通して言えることは魂が複数あると言う点である。
なので、オンリーはシィの中に魂は一つしか無い事を既に確かめているので、シィは二重人格者ではない事がわかっていた。
「シィの変化は戦闘によって本能が呼び起こされているのが原因です。」
「本能〜?」
「……………?」
シィとクーメェはよくわかっていないようなのでオンリーはより詳しく説明する事にした。
「竜種は元々、人が竜が住んでいた土地に適応する形で生まれた種族です。」
「そうなんですか〜」
クーメェの緩いトーンでは分かりにくいが、それなりに驚いていた。
今より、戦闘技術がない人間が自ら進んで危険な土地で生きようとするのが意外だったからだ。
「えぇ、昔々のはるか昔、人間がまだ一種しかいなかった頃の話です。魔物との縄張り争いに負けた一族が逃げ込んだ場所が竜しか住めない土地でした。」
「ほぇ〜そんな昔の話ですか〜オンリー様は〜本当に〜物知りですね〜」
クーメェはオンリーの知識量に感嘆していた。
「クーメェ、貴方は魔素の致死量は知っていますか?」
「それぐらい〜私でも〜知ってるよ〜20%〜〜」
「正解です。」
「えへ〜これくらい〜簡単〜」
魔素とは生物が魔力を回復するのに必要な元素であり、通常の空気には1%も入っていない。
「その魔素が竜が巣を作る場所には平均的に30%はあります。」
「え〜そんなの死んでしまいますよね〜」
30%の魔素の空気の場所に暮らすとは言うなら100度の熱湯に浸かりながら生活する様なものである。
すぐに死ぬ訳ではないが、じわじわ苦しんで死んでいく。
それが30%の魔素である。人体をすぐ死なせる力がないが、その分苦しみながら死んでいく。魔素の研究者の間では魔素30%こそが一番凶悪な魔素濃度であると言われている。
「そんな中でシィの先祖は一代一代寿命を縮めながら過ごしてきました。そして、徐々に適応し出したのです。」
「だから〜竜に似てるんですか〜?」
クーメェは竜の住む場所に適応したからこそ、竜種は竜に似ているのだと考えた。
「いいえ、違います。竜種が竜に近いのは竜こそがこの場所で生活するのが最適だと考えたからです。」
「?同じじゃないですか〜?」
オンリーの回答にクーメェは自分が言ったことと同じではないかと言ったのである。
「同じではありません。クーメェ、獣人の中に空を住む種族は何%占めていると言われているか知っていますか?」
「……………知りません〜」
「1%。」
「正解です。シィ。」
クーメェの質問を分からないクーメェの代わりにシィが答えた。
「頭良いんですね〜シィちゃんは〜」
「子供扱いしないで、私はあなたより年上。敬え。」
「あは〜ご主人様への奴隷歴は〜私の方が先輩ですよ〜」
竜種も獣人も上下関係にシビアな為、関係が近いとこの様なマウントの取り合いがよく起こるのである。
「落ち着きなさい。私にとって貴方達は等しく下です。下が下通しで争わないで下さい。」
そんな時は上の人が注意するのが一番早い。
オンリーみたいな注意をする人はいないのだが、身内以外であまり会話をしないオンリーに知る術はなかった。
「それより、話を続けますね。獣人にも空を飛ぶ種族はいますが、そういう種族は足が遅かったり、魔法をあまり使えなかったりします。」
「…………あれ〜でも〜シィちゃんは〜ちゃんと魔法も使えてましたよ〜それに足も早かったです〜」
シィは山に来る道中や戦闘中でも問題なく魔法を使えていた。
足に関しても魔物を発見したらいち早く近づいて戦っていた。
ので、どちらも発達している事が確認できたクーメェは疑問に思った。
「さん付けしろ。無駄乳が。」
「あは〜うらやましいんですか〜〜」
また、不毛な争いがはじまりそうになっていたので、オンリーはさっさと話を進める事にした。
「通常空を飛ぶ種は余分なエネルギー消費を減らす為、骨の軽量化や魔力消費を抑える進化をする代償に足が細く走り難かったり、魔力操作がしづらいせいで魔法が使いづらいもしくは使えない事があります。」
「私、使えてる。走れてる。」
オンリーの説明からシィは自分はどれも出来ると胸張って答えた。
「あは〜子供みたいで可愛いですね〜」
「噛み殺すぞ。」
クーメェがシィのその姿に対してほぼ煽り見たいな感想を述べた。
それに対してシィはキレそうになっていた。
「だから、竜種の進化は通常とは異なります。そもそも、竜と同じ進化する必要はありません。竜が飛ぶのはクジラと同じくらい大きい為、陸上での移動がしにくい上に他者に喧嘩を売る行為になる可能性が高い為です。」
竜の大きさは最小で2メートル、0.2トン、最大だと30メートル、50トンだと言われている。
最小だと陸上での移動は熊が移動する様なものだが、最大にもなるとその被害は他の生物にとって問題になり無駄な争いを生む為、生存戦略的に竜は空を飛ぶ進化をした。
「竜種の身長は大きい人でも3メートル超えるくらいです。最小の竜より大きいくらいです。このくらいのサイズなら飛ぶ選択する必要はありません。その場所に来る天敵も竜くらいです。竜に飛行勝負するのは場が悪すぎます。」
圧倒的に早くから飛ぶ事に進化してそこで暮らしてきた竜に空飛びビギナーの竜種は分が悪く、地上に逃げる方が簡単で安全である。
「それに天敵になるのは肉食性のハリュウのグループだけであり、魔食性のソラクジラのグループは人を食べる事は決してなく大人しい種しかいない為、こちらから攻撃しないか、繁殖期から子育て期間でない限り襲ってくる事はありません。」
魔食とは空気中の魔素を食べる食性の事を言います。この食性は巨大な生物や微生物に見られる食性である。
ソラクジラは名前にクジラは付くが列記とした竜である。ソラクジラを初めて見つけた人達が羽の生えたクジラに見えたから種名にクジラが付いているのである。
「なので、竜種とは………」
「マスター。」
「よって、竜には………」
「マスター。」
「なんですか?」
「クーメェが寝た。」
「……クゥ〜……クゥ〜」
「おや、長話をしすぎましたか。」
クーメェがオンリーの淡々とした説明をBGMにして寝ていた。
「それではこの話はまた今度にして下山しますよ。」
「クーメェはどうする?置いてく?」
「置いていきません。運んでいきますよ。」
「えぇー。」
おそらく自分が運ぶ事になるだろうと察してシィは嫌がった。
「引きずっていって良い?」
「良いですよ。クーメェは毛がモコモコしているので引きずっても傷つかないでしょう。行きますよ。」
「分かった。」
引きずれると分かって少し声に喜びが含まれていた。
この後、目覚めたクーメェが自慢の毛が汚れていて本気でキレてシィと街を巻き込んだ喧嘩をする事になるんだが、それはまた別の話である。




