6.自宅生活①
変化茶生活2日目。
昨日飲んだ変化茶の効果はまだ消えていなかった。
昨日の昼前に飲んだので、丸1日は平気そうだ。
メアが朝食を持ってくるついでに服も持ってきてくれた。
パンツとズボンの後ろに穴が開いてるのは最初抵抗があったが穿いてみるとしっくりきた。
ゴムはこの世界にないみたいで、ひもで結ぶタイプだ。
メアは日中は用事があるからと昼食も一緒に持ってきてくれた。
いろんな話を聞きたいから夕飯の時に長居してもいいかと聞かれたので了承した。
外に出れないので、メアとの会話が今後の楽しみになりそうだ。
俺はメアが来るまで、家を探索することにした。
ここに来てからは基本寝室とリビングにしか居なかった。
家は2階建てで、寝室は2階にある。
2階には何も置いていない空き部屋が1つあった。
そこそこ広いので、絵の依頼が来たらこの部屋を使おうと思っている。
1階に降りると、広いリビング。
テーブルに椅子が4つと大きなカーペットがあるだけのシンプルなリビングだ。
他にはキッチンとトイレと風呂がある。
トイレはぼっとん便所のようだが、臭いなどは気にならなかった。
風呂は薪で温めるシステムだ。小学校の時に何かの授業で見たことがあったが正直使い方はわからなかった。
電気もなく、夜はろうそくに灯をともすことになるので、夜作業はあまり出来なそうだ。
ベアトリスさんは何用でこの家を使っていたのだろう。
▽ ▽ ▽
夜になると、メアが夕食を持ってきてくれた。
「メアありがと」
「うん!私も食べてないから、一緒に食べていい?」
「是非!」
俺とメアは食事を始めた。
「そういえば、トビネズミの絵をお母さんとお父さんに見せたら喜んでたよ」
「それは良かった」
「2人とも見たことなかったんだって」
「そうなんだ。動物はそんなに絶滅してるの?」
「うん。そうらしいよ。私もウマとニワトリとブタしか見たことないもん」
「え?野生でいるの?」
「違うよ、街で育ててるの。食用だよ」
「え?それって平気なの?」
獣人が動物を食べると聞いて俺は驚いた。
「なにが?」
「ブタの獣人とかウマの獣人とかトリの獣人いないの?」
「あーなるほどね。獣人は動物と同族だと感じてないから普通に食べるんだよ」
「そうなんだ。もしかして失礼な質問した?」
「ううん。イツキの世界には獣人がいないんでしょ?しょうがないよ」
「ごめんね。ありがとう」
メアの優しさに救われたようだった。
「ちなみにトリは獣人ではなく鳥人って種族がいるよ。ちなみに魚人って種族も居るよ」
「その2つも元の世界には居なかった。他にどんな種族がいるの?」
「聞いたことがあるのは、エルフ族・ドワーフ族・小人族・巨人族・手長族・魔人族かな?」
「そんなにいるんだ。元の世界には人間と動物しかいなかったから、いつか会ってみたいな」
「いいね。私も会ってみたい―」
完全にファンタジーの世界だな。ドワーフと小人が別物なのには驚いた。
「そういえば、この街って山のどこらへんにあるの?山頂とか?窓から見える街並が山の中とは思えなくて」
「この山はダガル山って言うんだけど、この山には山頂がないの」
「山頂がない?」
「そう。山頂に続く地面が、どんどん反り返っていて、お花みたいになってるの」
「ってことは歩いて登れないってこと?」
「そう。街は山の内側にあって、周りは山の反り返ってる部分に囲まれてるの」
「なるほど。それじゃあどうやって街に入るの?」
「イツキが居た山の中腹に何個か洞窟が隠されてて、そこから出入りができるの」
「そうなんだね。他の獣王国の街も同じように隠れた場所にあるの?」
「私もそんなに別の街に行ったことないからわかんないけど、王都は普通の平野にあって城壁に囲まれてたよ」
メアに話を聞く限り、この街が特殊なようだ。
「王都も手続きしないと獣人以外は入れないの?」
「うん。手続きが必要だね。手続き無しで入れる街は3つしかないよ」
「手続き無しで入れる街あるんだ」
「あるよ!ダンジョンがある街があって、一般人の居住者がいないの。だからいろんな種族の冒険者がいるよ」
「なるほどね」
俺は気になることを質問攻めしてしまっているが、メアは嫌な顔せず答えてくれている。
優しい子なんだろう。
俺達は夕食を食い終わり、メアは家に帰った。
▽ ▽ ▽
変化茶生活3日目。
まだまだ耳も尻尾も消えてない。
今日もメアが朝食と昼食と頼んでいた紙を持ってきてくれた。
夕食の時にまた話したいと言われたので了承した。
午前中は暇だったので、ミランさんとオータルさんの絵を描いてみた。
『観察眼』のおかげで、記憶力も上がっているのかもしれない。
だいぶうまくかけたと思う。
これで少しはミランさんの嫌悪が無くなってくれるといいんだが。
コンコン
玄関のドアがノックされた。
「はい」
入ってきたのは、オータルさんだった。
「イツキ!なんか手伝うことあるか?」
「わざわざありがとうございます」
「お前が俺の先祖のお告げの人間だろうと俺の弟分には変わらないからな。いっぱい頼ってくれよな」
「弟分?」
俺は首をかしげた。
いつから俺は弟分になったのだろうか。
「命を救ったんだから俺が兄貴分だろ?それに俺の方が年上だし」
俺はデジャヴを感じた。
「オータルさんって何歳ですか?」
「ん?15だけど」
「なるほど」
「イツキは14くらいか?」
「…17です」
「え?」
「メアにもそう言われました。たぶん獣人の方から見ると若く見えるみたいです」
俺は地味にちょっとへこんだ。
オータルさんは申し訳なさそうに口を開いた。
「いやーなんかすみません」
「オータルさん。話し方戻してください。さすがに弟分になるのは嫌ですが」
「いいのか?」
「はい」
このまま敬語でしゃべられたら気まずくてしょうがない。
「なら、イツキも敬語をやめてもらわないとな」
「え?」
「それに呼び捨てだな。てかメアは呼び捨てなんだから俺も呼び捨てにしろ。俺達は兄弟分なんだから」
「え?兄弟分?」
「対等ってことだよ」
弟分から兄弟分に昇格したようだ。
「そういえば、なんか必要な物あったか?」
「あー2階の空き部屋を作業部屋にしようと思うんだけど、ちょっと見てくれる?」
「おう」
俺とオータルは2階へ上がった。
「この部屋なんだけど…。ここにテーブルとイスが欲しい。あと大きい絵を描くときは床で作業になるから、床の木の繋ぎ目があると書きにくいから、まっすぐで綺麗な大きい板が欲しいんだけど」
「わかった!」
オータルはすぐに返事をした。
「いいの?」
「おう!」
「お礼にならないかもだけど、これあげる」
俺はさっき描いたオータルの絵を渡した。
「え?くれるのか?」
「うん」
「まじか!超うれしいぞ。角がいい感じじゃないか」
「そういえばオータルは何の獣人なの?」
「俺はバッファローの獣人だ」
「そうなんだ。かっこいいね」
「だろ?」
オータルはすごく嬉しそうだ。
「じゃあ明日の午後には全部準備して持ってくるから」
「ありがとう!」
オータルは帰って行った。
俺はメアが来るまで、出会った獣人達やモンスターの絵を描いて過ごした。