EX4.ゼネバース皇国の勇者達④
召喚されてから数日経った。
俺達は運動部のような体力作りと木剣を使った戦闘訓練をさせられていた。
戦闘訓練の指導をするサバママは将軍という役職らしい。
位が高いはずなのに、あの物腰の柔らかさは信用ならない。
うちのメンバーは今の所塞ぎこんでいる人はいない。
それも委員長こと天羽咲と岩佐先生のおかげだろう。
俺はみんなからステータスの共有をしてもらっている。
逃げ出す計画を考える上で必要だからだ。
天羽咲『裏アカ委員長』。
元の世界の委員長からは想像できないが、実際にSNSのアカウントが複数あるらしい。
スキルとして現れたのは『鍵垢』と『エロ垢』らしい。
聞いた時にリアクションを取るべきなのか迷ったが、取らなくて正解だった。
能力としては、アカウントごとに人格というか性格が変わり、使える魔法や戦い方が変わるスキルらしい。
まだ使っていないから不明点はあるが、説明欄にはそう書いてあったらしい。
鈴原芽衣『新星コスプレイヤー』
元の世界ではあまり関わっていなかったが、よく委員長と一緒に居たイメージだ。
コスプレを趣味でやっていたらしく、それがスキルになったみたいだ。
能力はコスプレしたキャラクターの能力が使えるらしい。
いまは[サイキックヒーローズ]というアニメの女の子のコスプレができるらしい。
あまりアニメは詳しくないので、今度見せてもらおう。
霧崎澪『寂しがりやの雪女』
霧崎も元の世界であまり関わっていなかった。
本人曰く、人見知りらしい。
俺もクール系でクラスメイトなんて眼中にないタイプだと思っていた。
能力は氷を操るらしい。
今は触れた物を冷やすだけだが、氷で攻撃できるようになれば強いはずだ。
神山凪『無の存在感』
凪は幼馴染。
無口と思われているが、そんなことはない。
無駄なことが嫌いなだけ。
めんどくさい人間関係とかを遮断するために話していなかっただけだ。
能力は存在感を消す。
隠密系なのだろう。
どう使うかはまだ分かんないが、最悪凪だけ逃がしてもいい。
岩佐紬『癒やしの総長』
副担任の岩佐先生。
生徒思いの良い先生だと思う。
まさか元ヤンだとは思ってなかった。
能力は人を回復させることと、身体能力が上がること。
そして専用武器を出せることらしい。
このまま訓練を続けていたら、いつか外に出るはずだ。
その時までに力を付けないといけない。
城にいる間は、情報収集を続けよう。
他のクラスメイトも心配だ。
▽ ▽ ▽
コンコン!
「入っていいよ」
入ってきたのは凪だった。
「なんかわかった?」
「…うん」
「教えてくれ」
俺は凪が『無の存在感』を使って、ここ数日で情報仕入れてもらっていた。
「…まず、もう1つの扉に入った人は見つからなかった。たぶんお城にいない」
「別の場所に移動させられたか」
「…たぶん。同じ扉に入った人達は見つけた。私達みたいにパーティを組まされてるのが小田切くん達」
「小田切か」
小田切はクラスの中心人物だが、能天気な性格で俺は苦手だった。
「うーん。小田切くん達はやる気が凄かった」
「は?」
「なんか体育祭とかの雰囲気を感じた」
「マジか」
小田切だからあり得る話だった。
「小田切のパーティは誰が居た?」
「浜谷くんと笹原さんと奈良沢さんと隅田くん」
「そのメンツなら小田切に流されるな」
俺は頭を抱えた。
「あと小田切くん達の家には豪華な家具がたくさんあった」
「え?」
「たぶんこっちより優遇されてる」
「あっちが本命ってことか」
俺達が本命じゃないのはありがたいが、使い捨てにされるのは御免だ。
「あとパーティじゃなくて1人でいる人も何人かいた」
「は?」
「先生とか鶴海さんとか5人くらいいたよ」
「なんでだ?その5人でパーティを組ませない理由はなんだ」
俺は色々考えたが情報が足りない。
「凪、悪いけど調査を続けてくれるか」
「うん。豪ちゃんが必要な情報を持ってくるよ」
「ありがと」
俺は凪の頭を撫でた。
早く脱出計画を立てないとな。
滝田みたいな被害者が出る前に。
▽ ▽ ▽
この世界に来て何週間経っただろうか。
私はなぜか目の前にいる兵士から戦闘訓練を受けている。
生徒は無事だろうか。
召喚されてから、会えていない。
いや、会わない方がいいのか。
元の世界でパパ活をしていたことが、何故バレなきゃいけないんだ。
バレた時の生徒達の目はひどかった。
「おい。トシハル!」
「は、はい」
「お前の配属先が決まった」
「え!」
私はこの世界で何をさせられるんだ。
「女性冒険者パーティ【魔女の四重奏】に入ることになる」
「え?」
私は思わず女性冒険者と聞き、にやけてしまった。
「リーダーのミュワーズ・デフェルガ様が、お前のことを気に入ったらしい。ぜひパーティに入ってほしいと言っていたらしい」
「え!」
「ミュワーズ様はデフェルガ将軍の娘さんだから、粗相のないようにしろよ」
「は、はい」
女性4人との冒険か。
正直、不安よりも楽しみの方が勝っていた。
「足を引っ張らないように、訓練を続けるぞ」
「はい!!」
私の人生はここから始まったのかもしれない。
▽ ▽ ▽
「え?先生が?」
「うん」
凪からの報告に俺は驚いた。
「どこに行くの?」
「わかんない。だけど明日からどこかの冒険者パーティに入るみたい」
「1人でか…」
俺は先生が心配になった。
さすがにパパ活には引いたが、異世界でモンスターに殺されたりはしてほしくない。
すぐには救えないが、所属先などは知っておきたい。
「あと小田切くんのパーティの指導役?があのデブ皇子の息子と娘みたい」
「へー。やっぱり力入れてるのか」
「うーん。なんか色仕掛けっぽい」
「え?」
凪の発言に俺は驚いた。
「あのデブオヤジの子供だよな」
「うん。でも小田切くん達が2人の話をする時、恋バナのように話してた」
「まじか」
「男性陣の会話の内容は正直ドン引きだった」
男同士で下ネタでも話してたのだろう。
凪の表情が本気で引いていた。
「サバママの情報は?」
「サバママには1度見つかりそうになったから近づかないようにしてる。サバママの部下からは少し情報を聞けた」
「なんて?」
「何日か経ったら、私達をモンスター討伐に行かせるつもりみたい」
「まあ予想はしてた」
「最終的にはダンジョンに行かせたいみたいだよ」
「ダンジョンか…」
漫画やアニメでは知っているが、この世界のダンジョンがどんなものなのか知っておかなきゃいけない。
「わかった。ありがとう。俺の方でもダンジョン関係の本を探してみるよ」
「うん」
凪が頭を向けてくるので、撫でてあげた。




