EX3.ゼネバース皇国の勇者達③
私達が案内されたのは、お城の敷地内にある一軒家だった。
部屋も人数分あり、家具もしっかり置かれていた。
「お食事はメイドが準備致します。すべてが準備できるわけではありませんが必要なものがありましたらメイドにお伝えください」
「わかりました。ありがとうございます」
紬ちゃんが代表して答えた。
「明日はお昼過ぎに私がこちらに伺います。その時に今後のお話をさせていただきます」
「わかりました」
兵士は頭を下げ、城に戻っていった。
私達は家に入って休むことにした。
▽ ▽ ▽
コンコン!
扉をノックされた。
「は、はい」
扉を開けると紬ちゃんと永田くんが居た。
「どうしたんですか?」
「永田くんが話したいことがあるらしくて……」
私は永田くんを見た。
「鈴原さんと霧崎さんとに話す前に2人には先に話しておこうと思ったんだ」
「紬ちゃんが先なのはわかるんだけど、私も先なの?」
「ああ。委員長は信頼している」
なぜか私は永田くんの信頼を得ているようだ。
それが少し嬉しかった。
「わかった。じゃあ私の部屋で話す?」
「いいのか?」
「うん。入って」
紬ちゃんと永田くんを部屋に入れた。
「それで話って?」
「滝田が殺された」
「「え!?」」
永田くんから伝えられた情報はすぐに信じられる内容ではなかった。
「どういうことなの?」
紬ちゃんは動揺していた。
「滝田は水晶を触って右の部屋に行くように言われたんです。だけど滝田はその指示を無視して、綿矢が入った左の扉に向かったんです。すると俺達を囲っていた兵士に殺されました」
「本当なの?」
「はい。殺されたのを見たのは俺と凪、それ以外は全員左の扉に行きました。俺と凪は最後まで残っていたので間違いはないはずです。さっき凪の顔色が悪かったのは滝田の死を見たからだと思います」
「なるほど……」
紬ちゃんは黙ってしまった。
「俺はこの国を信用できない。どうにかいいタイミングで逃げ出すべきだと思います」
「この国から出たら元の世界に帰れなくなるかも」
「元の世界には元々帰る方法はないと思います」
「そんなこと……」
「いろいろ納得がいかない。民のために尽力って?民が苦しんでるのに皇子は成金みたいな風貌だし、城は豪華だし」
「そう言われたらそうだね」
今まで何の疑問も感じなかったが、言われたらそうだ。
「だから俺はこの国から凪を連れて逃げ出すと決めました」
私と紬ちゃんは黙ってしまった。
「協力してもらえませんか?」
「一晩考えさせてもらえる?」
「私も考えたい」
「わかりました。明日兵士から説明もあるみたいですから聞いてからでも構いません」
「芽衣と霧崎さんには明日伝えるの?」
「それで良いと思う」
私はなんで紬ちゃんと同じタイミングで話されたか疑問に思った。
「なんで私にもこの話をしたの?信頼してくれてるのは嬉しいんだけどさ」
永田くんは少し考えて口を開いた。
「クラスメイトで協力できるのは委員長と久米くらい。人を良く見ている委員長にも俺の気持ちがわかるんじゃないか?」
「うん。なんとなくだけど」
私も芽衣と紬ちゃんを除けば、永田くんと久米くんを信頼する。
「それに2人は召喚されたあの場でどっちの扉に行くべきか考えていた」
「ということは久米くんも右の扉に入ったの?」
「いや、なんか思惑があって左に行ったみたいだ。あと桃園さんも意図的に左に行ったみたいだった」
「そうなんだ」
永田くんは私が人のことを見てるというが、永田くんの方が遥かに見ていた。
「とりあえず明日兵士の話を聞いてからでいいから考えてくれ」
「うん」
「岩佐先生もお願いします。俺は岩佐先生も信頼してますので」
「わかったわ」
話し合いは終わり、2人は部屋から出ていった。
▽ ▽ ▽
翌日、予定通り兵士がやってきた。
「えー昨日は自己紹介が出来ずにすみません。私はサバママと申します」
サバママさんは頭を下げた。
「まずは聞きたいこともあると思いますので、返答可能なものは答えさせていただきます」
サバママさんがそう言うと永田くんが手を挙げた。
「ゴウ様。なんでしょうか」
「他のみんなはどうしてる?特に左の扉に入った奴らはどうしてる?」
「勇者様達は配属先に合った場所で皆様と同じように生活してもらっております。左の扉に入った勇者様は主に別の国で活動をする予定です」
「別の国?」
「はい。勇者様を必要としているのは我が国だけではありません。左の扉に入った勇者様達は何組かに分かれて他国に向かっていただく予定です」
「なるほど」
永田くんの質問が終わると紬ちゃんが口を開く。
「藤井先生は?」
「フジイトシハル様はエクストラスキルが強力なため、数日間の訓練ののちに我が国の冒険者と一緒に活動してもらう予定です。スミダタケシ様やウラノコウジ様なども同じです」
「そうですか……」
再び永田くんが手をあげる。
「俺達はこれからどうするんだ?」
「皆様には6人で冒険者パーティを組んで頂きます」
「冒険者パーティ?」
「はい。主にモンスターの討伐やダンジョン内でアイテムを回収するのが活動内容になります」
「モンスターやダンジョンっていうのが俺の想像している通りなら、なかなかきついんじゃないか?」
「はい。大変だとは思います。ですので皆様が安全に活動できるように我々が訓練を付けさせていただきます」
「じゃあここ数日間は訓練が主な活動内容ということか」
「その通りです」
サバママさんはそう言って私達に笑顔を向けた。
「わかった。訓練に関して俺達は素人なので、しっかり訓練してもらえるとありがたい」
「わかりました」
「それと、俺達はこの国の常識を知らない。本などがあれば読ませてほしい」
「構いません。この家にメイドが数名配属されます。その者に言えば城の書庫に案内するように伝えておきます」
「ありがとう」
「いえ、これくらいのことでしたら問題ありません」
サバママさんは笑顔を崩さない。
「それと最後に滝田はどうなった?」
「タキタヒデキ様ですか?ゴウ様は見ておられたのですね」
「ああ」
サバママさんの表情は全く崩れていない。
「我が国の魔法使いが治癒魔法で蘇生を行いました。今はタキタヒデキ様のご要望通り、ワタヤノボル様と合流しております」
「そうか。安心した」
亡くなったと思っていた滝田くんが生きていると聞けて、私も安心した。
「質問はまだありますか?」
「いや。今のところはない」
「では、明日から訓練を始めますので今日は自由にお過ごしください」
そう言ってサバママさんはお城に帰っていった。
永田くんを見ると険しい表情をしている。
「なかなかめんどくさそうだ」
▽ ▽ ▽
家に戻り、永田くんがみんなを集めた。
「鈴原さんと霧崎さんに話しておきたいことがあるんだ」
「え?」
芽衣は首を傾げていた。
永田くんは昨日話してくれた話を2人にした。
「え?でも滝田くんは治療したってサバママさんが」
「あれは嘘だ」
「なんでそんなことがわかるの?」
「俺のエクストラスキルでわかった」
「え?」
「これが俺のエクストラスキルだ。ステータス!」
永田くんの目の前にステータス画面が現れた。
「え?人に見せられるの?」
「ああ。凪は喋るのが苦手だから、ステータスを他の人見せる方法がないかあのジジイにいろいろ聞いたんだ」
「人に見せられるなら、なんでみんなに口頭で言わせたんだろ」
「たぶんだけど異世界の単語が理解できないから、説明させた方が早いと思ったんじゃないかな?」
「なるほど」
永田くんの言う通り、芽衣の『新星コスプレイヤー』とかはこの世界の人には理解できないだろう。
「ステータス見ていいの?」
「いいよ」
私達は永田くんのステータスを見た。
【スキル】
○エクストラスキル
無慈悲なウエポンマスター
→剣術
→槍術
○通常スキル
暗記
洞察力
○無慈悲なウエポンマスター
様々な武器を使いこなすことができ、武器を使ってるときは身体能力が上がる。
「『無慈悲なウエポンマスター』って強そうなスキルだね?」
「え?あー違う。元に戻してなかった」
「どういうこと」
永田くんがそう言うとステータス画面の文字が変わっていく。
【スキル】
○エクストラスキル
秘密主義な神童
→隠蔽
→看破
○通常スキル
共通言語
自動翻訳
柔術
拳術
暗記
読唇術
洞察力
統率力
予測力
水泳
○秘密主義な神童
あらゆることの習得速度と成長速度が速くなる。
→隠蔽
ステータスの内容を書き換えられる。
→看破
会話をしている相手が嘘をついているかわかる。
私は永田くんのステータスを見て驚いた。
「凄くない?この『隠蔽』でステータスを書き換えてたの?」
「うん。他のやつのスキルを参考にして書き換えた」
「でもなんでそんなことしたの?」
「このスキルだと左の扉に行くことになりそうだったからね」
「なるほど……。サバママさんが嘘ついてるってわかったのは『看破』ってやつ?」
「そう」
永田くんは頷いた。
「サバママさんが言っていた内容の一部が嘘だった。どういう嘘かまではわからないけど、滝田は生きてないだろうし、左の扉に行った奴らは俺らと同じような生活はしてないみたいだ。たぶん右の扉の方が優遇されてるんだと思う」
「そんな……」
芽衣は心配そうにしていた。
永田くんは改めて私達に真剣なまなざしを向ける。
「わかっている情報は全部共有したけど、俺に協力してもらえそうかな?」
「わ、私はみんなに合わせます」
霧崎さんはつぶやいた。
「うーん。咲はどうするの?」
芽衣は私に問いかけた。
「私は永田くんを信じてもいいんじゃないかって思ってる」
「じゃあ私もそうする!」
「3人共ありがとう。岩佐先生はどうですか?」
紬ちゃんを見ると悩んでいる様子だった。
「永田くんのことは信じてるんだけどね。教師としてどう選択すべきなのかわからなくて」
紬ちゃんはすごくつらそうな表情をしていた。
なぜか私は紬ちゃんの手を握っていた。
紬ちゃんは驚いた表情をしている。
私もなぜこんなことをしたのかわからないが、紬ちゃんは私達よりもつらい立場にいるように感じた。
「わかりました」
紬ちゃんは永田くんを見つめた。
「永田くんに協力します。仲間として、教師として、間違えそうなときは正しますがいいですか?」
「はい。よろしくお願いします」
永田くんは頭を下げた。
私達は協力してこの国から逃げることを決めた。




