EX1.ゼネバース皇国の勇者達①
いつもと変わらぬ景色。
私は親友の芽衣と話していた。
明日から夏休みだが、ものすごく暑い。
教室ではクラスメイト達が楽しそうに騒いでいた。
教室の扉が開いた。
「おーい!HR始めるぞ」
担任の藤井先生と副担任の紬ちゃんが教室に入ってきた。
それを見たみんなは席に着き始める。
教室の後ろの扉が開いた。
入ってきたのは滝田くんと綿矢くんだ。
「おい!滝田!綿矢!遅刻だぞ。3年にもなって」
「うるせーな!いちいち突っかかってくんな」
滝田くんは藤井先生に暴言を吐き、席に座った。
「じゃあHR始めるぞ!まず今日の予定だが」
藤井先生が話始めると急に寒気を感じた。
「あれ?」
教室がどんどん暗くなる。
「え?」
「何?」
「誰だよふざけてるやつ」
みんなも異変に気付いて騒ぎ始めた。
教室が真っ暗になると床が光り始めた。
「何これ?」
「え?」
「こ、これは魔法陣じゃないですかー!」
浅井くんは嬉しそうに叫んでいた。
「なんだ?ドッキリか?」
「せんせーこれなんだよ!」
「みんな落ち着け!」
「何が起きてるかわからないので、席について!」
藤井先生と岩佐先生が叫ぶがみんな聞いていない。
私は隣にいる芽衣の手を握る。
「大丈夫だから。大丈夫だよ」
私は自分に言い聞かすように芽衣に言った。
すると魔法陣が消えた。
それと同時に私の意識はなくなった。
▽ ▽ ▽
目が覚めると見知らぬ空間にいた。
先生もクラスメイトもみんないる。
私達の周りを、甲冑を着た人達が囲んでいた。
「おー成功したか」
「はい。大漁でございます」
豪華な服を着た太った男性とガリガリのおじいさんが話している。
2人のニヤニヤした表情には虫唾が走った。
豪華な服を着た男性が私達を見て口を開く。
「お前達は私達が勇者として召喚した。ここはお前達が居た世界ではない」
「え?」
「どういうこと?」
「異世界転移きたー!」
みんなは騒ぎ始めた。
「静まれええええ!!!!!!」
ガリガリのおじいさんの声に私は身体を縮ませた。
「皇太子殿下の御前だぞ」
「構わん。早く進めろ」
「わかりました」
豪華な服の男性が皇子みたいだ。
私はどうにか逃げ出せないか辺りを見回すが、甲冑を着た兵士から逃げれそうにはなかった。
手を握っている芽衣は震えている。
ガリガリのおじいさんが一歩前に出て、口を開く。
「お前達には1人ずつこの水晶に触れてもらう。それで配属先を決める」
そう言うと藤井先生が口を開いた。
「わ、私達は元の世界に戻れるんですか?」
ガリガリのおじいさんはニヤッとした。
「当然だ。我が国のために尽力してもらうんだ。帰れない者を呼ぶわけないだろう」
「じ、尽力とは?」
「民のために働いてもらうだけだ」
働く?
私達は高校生。
なんで別世界のために働かないといけないの?
私はガリガリのおじいさんに一言言ってやろうと思ったが勇気は出なかった。
それを聞いた藤井先生は安心したような表情になった。
「わ、わかりました。生徒の安全が第一なのでまず私が水晶に触れます」
「ほー教師か。生徒思いの良き教師だな」
ガリガリのおじいさんは感心したように言った。
藤井先生が水晶に触れると台座から紙が出てきた。
おじさんはそれを手に取り読み上げた。
「フジイトシハル。年齢は48。エクストラスキルが『パパ活』。パパ活とはなんだ?」
「「「「「え?」」」」」
みんなは声をあげた。
藤井先生関係でそんな単語を聞くとは思っていなかった。
藤井先生は人気の先生ではなかったが、嫌われているわけでもない。
無害という言葉がぴったりな先生だった。
『パパ活』と言われた先生は動揺しながらも口を開く。
「え、えっと。まずエ、エクストラスキルとは何なんでしょうか」
「エクストラスキルはこの世界の者が得られる特別なスキルだ。本人の特徴や過去の経験、それに今後の可能性を加味したうえで神が与えてくれるものだ。召喚された者も同じようにエクストラスキルを取得できる」
空気が凍った。
藤井先生のエクストラスキルが『パパ活』。
私の先生を見る目が変わった。
他のクラスメイトもそうだろう。
女子は軽蔑のまなざしを先生に向けた。
「あはははは!藤井!お前パパ活なんてしてたのか?」
「………」
滝田くんの問いかけに藤井先生は黙ってしまった。
「なるほど。そっちの世界ではあまりいい意味ではないようだな」
「……」
「フジイよ。ステータスと口に出せ。そうすると自分のステータスが見える」
「ス、ステータス。わっ!」
藤井先生は何かに驚いたようだった。
「自分のエクストラスキルに触れてみろ。そうすれば詳細が分かるはずじゃ」
藤井先生は宙に手を伸ばし、何かに触れた。
「読んでみろ」
「い、異性に……」
「聞こえん!ちゃんと読め!」
「い、異性に接触し、対価としてステータスの一部を授ける」
「それだけか?」
「せ、接触する内容が過激なほど、授けるステータスの量が多くなる」
「なるほど。だからフジイのステータスの数値が高いのだな。だが残念ながら魔法適正は無しのようだ」
ガリガリのおじいさんは悩み始めた。
「うーん。フジイは右の扉へ入れ」
「え?え?」
「すぐに行け!」
「は、はい!」
藤井先生は急いで右の扉に入っていった。
私は不安になった。
さっきガリガリのおじいさんは配属先を決めると言っていた。
ガリガリのおじいさんの後ろには扉が2つある。
見知らぬ世界でバラバラされる?
私は不安からか自然と芽衣の手を強く握っていた。
「次の者!」
ガリガリのおじいさんがそう言うと、副担任の紬ちゃんが前に出た。
紬ちゃんは笑顔で私達を見るが、顔が引きつっているのが分かった。
「イワサツムギ。魔法適正は聖。『癒やしの総長』。これはどういう詳細だ?」
「え、えっと。身体能力が上がり、回復魔法を使えるって書いてあります」
「ほぉー。良いではないか!お前は右の扉に行け」
「は、はい!」
2割ほどの割り振りが終わった。
やっぱり2グループに分けられるみたいだ。
右の扉には先生達やクラスの中心人物の小田切くんなどが入った。
左の扉にはまだ数人しか入っていない。
これは右の扉に行ったほうがいいかもしれない。
ガリガリのおじいさんは右の扉に行く人は褒めていた。
エクストラスキルというものの能力が高いと思わせれば、右の扉に行けるかもしれない。
私は芽衣に近づいて、耳元でささやく。
「エクストラスキルの詳細を読むときに、できるだけ強そうに伝えよう」
「え?え?」
芽衣は困惑している。
「紬ちゃんが一緒の方が安心だと思うの。だから嘘つき過ぎないレベルで盛るべき」
「わ、わかった」
芽衣は困惑しながらも頷いた。
「次の者!」
ガリガリのおじいさんは私達を見るが、誰も前には出なかった。
「そこの女、来い!」
指名されたのは芽衣だった。
芽衣は震えながらガリガリのおじいさんの元に行く。
「スズハラメイ。魔法適正は風。『新星コスプレイヤー』。これはどういう詳細だ?」
「え、えっと、私達の世界の架空の存在に変身して戦えるみたいです」
「架空の存在?」
「はい。今は悪魔に変身できるみたいです」
「うーん」
ガリガリのおじいさんは悩んでいた。
「まあいいだろう。お前は右の扉に行け」
「はい」
芽衣は右の扉に向かって行った。
「次はそこの女!」
ガリガリのおじいさんは私を指差した。
「はい」
私はガリガリのおじいさんの元に向かい、水晶に触れた。
「アモウサク。魔法適正は聖。エクストラスキル『裏アカ委員長』。どんなスキルだ?」
私はスキルの詳細を見て、逃げ出したくなった。
「えー。いろんな人格になれるみたいです。人格によって使える魔法が変わると書いてあります」
「おー面白い。お前は右の扉だ」
「わかりました」
私は急いで右の扉に向かった。
最悪だ。
私がSNSで裏アカウントを持ってることがクラスメイトにばれた。
でも詳細を話す時に濁したから、まだ大丈夫なはず。
「さすがにこれはみんなにバレたくないな」
私は再度ステータスを開いて詳細を見た。
【スキル】
○エクストラスキル
裏アカ委員長
→鍵垢
→エロ垢
○通常スキル
共通言語
自動翻訳
習字
バレエ
水泳
ピアノ
暗記
速読
○裏アカ委員長
自身が持つ別人格に変わることができる。大人数を指揮する能力が上がる。
→鍵垢
身体能力が大きく向上。恐怖心が無くなる。暴言を吐けば吐くほど身体能力が上がる。
火魔法と闇魔法を使える。
→エロ垢
敵に異性が居ると身体能力が向上。露出度が高くなると俊敏力が向上。異性に発情する。
水魔法が使える。
私は頭を抱えた。
「芽衣は鍵垢のことを知ってるけど、もう1個の方はちゃんと説明しないとダメだよね……」
私はクラス委員でみんなに委員長って呼ばれてる。
だからスキルに委員長の文字があるのは問題ないんだけど。
裏アカという文字がダメ。
幼い時から両親のように優秀になれと言われ続けて、休みなく塾や習い事に通った。
そのストレスのせいか高校生になったときに、周りの目を気にせずに本音を言う鍵垢を作った。
別に本心じゃないとは言わないけど、鬱憤を晴らすために大袈裟に悪口や暴言を投稿していた。
もう1つのアカウントは本当に興味本位で作っただけ。
ちょっとエッチな写真を投稿するだけでみんなが喜んでくれる。
そんな一瞬の承認欲求のためのアカウントがこんなことになってしまうなんて。
このアカウントが私じゃないとは言わない。
だけど違うんだよ……。
私は後悔と恥ずかしさで苦しくなった。
それにまだまだあるなんて口が裂けても言えない。




