35.筆魔法
出発3日前になった。
絵の依頼も全部終わった。
ここ最近は街の外にモンスターを討伐に行ったり、牧場でアガンに会いに行ったりして過ごしていた。
黒妖の性能はだいぶ良く、エリートゴブリンの攻撃を数回受けたが傷1つ付かなかった。
4人での戦闘にもだいぶ慣れてきた。
最近はシラユキではなくゴウキを召喚するようにしている。
なぜかというと、召喚絵巻に色付けできるのがレベル4からじゃないかと睨んでいたからだ。
レベル4になって色付け出来なかったら、また方法を考えるつもりだ。
アガンはだいぶ俺に慣れてくれた。
丸まってない時はプニプニでひんやりしていて気持ちいい。
乗るときは鞍を付けて乗るらしい。
ジル師匠曰く練習が必要らしいが、街中では難しいらしく出発当日にすることになった。
俺がアガンを撫でていると、ジル師匠がやってきた。
「今日も来たのか」
「はい!午後からは街の外で討伐です」
「そうか。まあゆっくりしていけ」
そういってジル師匠はこの牧場を管理している人の元へ行った。
▽ ▽ ▽
今日はいつもと違う洞窟から街の外へ出た。
「なんか洞窟の兵士増えたね」
「そういえばそうだね」
俺とメアが話していると、ミランが口を開いた。
「お父さんが言ってたんだけど、襲撃の件で各街に兵士を多めに配置しているらしいわ」
「なるほどね。ベボンさん達が王様に伝えるって言ってたから対応したんだろうね」
「また襲撃があると怖いしね」
話していると、目の前にホーンラビットが4匹現れた。
俺は召喚絵巻からゴウキを召喚した。
「よし。ゴウキ、頼んだ」
「ぎょいー」
ゴウキはホーンラビット達の元へ行き、雷を纏わせた金棒でチョンっと触れる。
するとホーンラビットは感電し、そのまま絶命した。
「ぎょいー」
上位種でもない限り、余裕で倒してしまうな。
そんなことを思っていると、目の前にウィンドウが現れた。
[召喚絵巻(剛鬼)のレベルが上がりました。筆魔法(旋風)・塗装を取得しました]
「よし。ゴウキのレベルが上がった!それに筆魔法?」
俺はステータスを開き、詳細を確認した。
〇筆魔法(旋風)
風を起こす。
〇塗装
武器や防具に色を塗ることができる。
武器や防具に筆魔法を付与できる。
「ん?どういうことだ?」
俺が頭を悩ませていると、ゴウキが近づいてきた。
少し背が伸びている。
レベルアップの影響だろう。
「ゴウキ。あとで色付けするから、ちょっと待ってて」
「御意―!」
ゴウキは召喚絵巻へ戻っていった。
「イツキ、どうしたの?」
メアが心配そうに聞いてくる。
「新しいスキルを手に入れたんだけど、ちょっと試してみようと思って」
「どんなの?」
「筆魔法」
「筆魔法?」
メアは首を傾げた。
「とりあえずやってみるよ」
俺は筆剣を筆モードにして構えた。
「旋風!」
何も起こらなかった。
恥ずかしさが凄かった。
「おい。何やってんだ?」
ホーンラビットの素材を取りに行っていたオータルとミランはにやにやしながらやってきた。
「新しく『筆魔法』ってスキルを取得したんだけど、うまく使えなくて」
「「筆魔法?」」
2人もメアと同じように首を傾げた。
「唱えて発動しないのか?」
「うん」
「じゃあ描くんじゃないか?イツキと言ったら絵だろ」
「描くか……」
俺は筆モードのまま、剣を使う時と同じくらいのサイズにした。
「平面じゃなくて立体だよな。旋風、つむじかぜ……」
俺は宙に筆を当ててみた。
「あっ!できそう」
俺は集中し、宙に立体的な旋風を描いた。
すると目の前にウィンドウが現れた。
[旋風を登録いたしました]
目の前に描いた旋風は消えていた。
「なんかできたみたい」
「で、どうやって発動するんだ?」
「唱えるのかな?旋風!」
するとオータルの足元に先ほど描いた旋風が現れ、オータルの身体は宙へ浮いた。
「お!?なんだこれ」
オータルは戸惑っている。
「できたのか?」
オータルは2mほど宙に浮き、旋風は消えた。
「俺を持ち上げられるくらいだから、ゴブリンは吹き飛ぶかもな」
「実戦で練習してみないとね」
筆魔法の使い方をなんとなく理解できた。
「他になんか取得したの?」
ミランが問いかけてきた。
「うん。なんか『塗装』ってやつ。武器や防具に色を塗れたり、筆魔法を付与できるらしい」
「すごいじゃん。私のサーペントブレードに筆魔法を付与してみてよ」
ミランはサーペントブレードを差し出してきた。
俺はそれを受け取り、筆剣を普通のサイズにして『塗装』をしようとした。
「ん?ダメだ。全然できない」
「残念。『塗装』も何か条件があるのかしら」
俺は頭を抱えた。
するとメアが口を開いた。
「イツキ。私のグローブも試してみる?武器じゃなくて装備ならできるかもよ」
俺はメアのグローブを受け取った。
「んーやってみるね」
俺は筆剣を握り、『塗装』をしようとした。
「あれ?できる」
メアのグローブには白のラインが入った。
「あれ?青は描けない。黒は描ける」
塗装にはもしかしたら相性のようなものがあるのかもしれない。
俺はメアのグローブを白と黒で塗装していった。
「はい。できた」
「わーありがとう!」
メアは嬉しそうにグローブを受け取った。
「イツキ!俺の鎧にも頼む!」
オータルが鎧を装備した状態でやってきた。
「わかった」
俺は筆剣を握り、『塗装』をしようとしたが、どの色も塗ることができなかった。
「なんか相性があるみたいだ」
「くそー。この鎧をよりかっこよくしてもらいたかったのに!」
オータルは悔しそうだ。
「もっとレベルが上がればできるかもしれないから、待っててよ」
俺はオータルを慰めた。
「キャ!」
メアが叫んだ。
「どうした?」
「ねえ。見てて」
メアはそういうと腕を構えた。
すると構えた腕から先ほど俺が描いた『旋風』が出てきた。
「魔力込めたら出てきたの」
「おい!ずるいぞ。俺も魔法使いたい」
「私も使いたいわ」
オータルとミランがメアに詰め寄っていく。
メアはミランにグローブを貸すが、『旋風』は発動しなかった。
何が原因かわからないがメアにしか使うことができないようだ。




