34.ロックフロッグ
似顔絵の依頼はハードだった。
依頼者に冒険者ギルドに来てもらい、目の前で絵を描いていった。
依頼数が多かったので、1日缶詰状態だった。
だけどやりがいは凄くあった。
依頼者の人に直接絵を渡し、直接お礼を言われる。
SNS上でお礼を言われることは多々あったが、直接言われるのもいいものだ。
それに喜んでいる表情が何よりも活力になった。
「イツキ、お疲れ。これでだいたい終わったのか?」
「うん。明日の午前中に何組かやれば終わり」
「わかった。ジル師匠が明日会いに来てほしいって言ってたから、午後にでも行くか」
「ジル師匠が?わかったそうしよう」
オータルは先に家に帰り、俺はベアトリスさんの元に向かった。
いつもの部屋で待っているとベアトリスさんがやってきた。
「イツキ、どうしたのじゃ?」
「この街の周りに生息しているモンスターをまとめたものを追加で持ってきました」
「おお!そうか。ごくろうじゃ」
俺は魔物図鑑から複写したものを取り出した。
魔物図鑑の文字は日本語で書かれているので、詳細などはメア達に聞いてこっちの文字で書き直している。
ベアトリスさんは俺が渡したものを確認している。
「お?」
「どうしました?」
「キングシャドウフォックスが居たのか?」
「はい。凄い人懐っこいモンスターでした」
俺はキングシャドウフォックスの身体の傷を消し、魔物図鑑が間違っていると思って詳細を人懐っこいと書き換えた資料を渡していた。
「本来、シャドウフォックスは狂暴なんじゃ」
魔物図鑑は間違っていなかったようだ。
「だがワシも人懐っこいシャドウフォックスを知っておるのじゃ。身体に大きな傷はなかったか?」
「ありました。キングシャドウフォックスの身体に大きな傷が」
「なるほどのう。まだあの子はここら辺にいるのか」
ベアトリスさんは嬉しそうなに笑みを浮かべた。
▽ ▽ ▽
翌日。
午前中に依頼を終わらせ、ジル師匠の家に4人で来ていた。
「来たか。じゃあ移動するぞ」
「え?」
俺達は訳も分からずジル師匠に付いて行く。
「どこに行くんですか?」
「俺が借りている牧場だ」
「牧場?」
「ああ」
ジル師匠はどんどん歩いていく。
「牧場に何が?」
「俺がテイムしているモンスターがいる。ペタロドにはそいつに乗っていくぞ」
「『テイム』を取得してるんですか?」
「ああ。人間の国にいたときにな。そいつらとも人間の国で出会って、この街に連れ来たんだがあまりにもデカいから牧場で暮らしてもらっている」
「なるほど」
話していると建物が減り、開けたエリアに入った。
「ここらへんは初めて来たな」
「ここは畑とか牧場がある地区だよ。前に話した動物もこの地区で育ててるんだ。旅で馬車を引いてくれたウマもここの地区から借りたんだよ」
メアは丁寧に教えてくれた。
話しているとジル師匠が止まった。
「ここだ」
「え?ここですか?」
柵に囲われているが中には何もいない。
それに他の牧場と違い、岩がたくさんある。
「ああ」
ジル師匠は柵の中に入っていった。
「こいつらが俺のテイムしたモンスターだ」
そういいながらジル師匠は岩に手を触れた。
ゲコゲコ!
「え!?」
大きな岩だと思っていたものはカエルのモンスターだった。
「ボスロックフロッグのゲーダとゲーラだ」
ゲコゲコ!
ひと際大きなゲーダとゲーラの周りには4匹の小さなカエルがいた。
「あの他のモンスターは?」
「こいつらはロックフロッグでゲーダとゲーラの子供だ。テイムはしてないが、ゲーダとゲーラの言うことを聞くからここで暮らさせている」
俺達はロックフロッグに近づいてみた。
それに気づいたロックフロッグは身体を丸くして岩のようになった。
「こいつらは臆病でな。危険だと思うとそういう風に岩のようになってしまうんだ」
「これはどうすれば?」
「優しく撫でてやってくれ。そうすれば心を開いてくれるはずだ」
俺達は丸くなったロックフロッグを撫でた。
ロックフロッグはものすごく硬く、本物の岩と同じくらい堅かった。
「ペタロドには俺がゲーダに乗り、イツキ達にはその4匹に乗ってもらうつもりだ」
「わかりました。頑張って懐いてもらうようにします」
「そうしてくれ。あとそいつらはまだ名前を決めてないんだ。だから名前も決めてくれると助かる」
「え?つけてないんですか?」
「ああ。まとめて子供達って呼んでいたからな」
ジル師匠は申し訳なさそうにしていた。
俺は自分が撫でているロックフロッグの名前を考えることにした。
「岩のカエル。岩蛙、蛙岩……。アガン、アガンにしよう」
撫でているロックフロッグをアガンと命名した。
3人も思い思いの名前をつけているようだ。
「出発までに何回か会いにきてやってくれ」
「わかりました」
俺達は夕方になるまで、牧場でロックフロッグを撫で続けた。




