33.シラユキ覚醒
「よーし」
俺は黒妖を装備し準備は完璧だ。
みんなを見ていると、メアがグローブのような装備を付けていた。
「それどうしたの?」
「ゲン爺に作ってもらったの。手を怪我したら薬を出せないからね」
「似合ってるよ」
「ありがとう」
メアは嬉しそうだ。
「ミランもオータルも準備良い?」
「大丈夫よ」
「完璧だ!」
「じゃあ行こう!」
俺達は街の外につながる洞窟を目指した。
▽ ▽ ▽
今日は山の中腹で軽くモンスターを倒したら、麓付近でモンスターを探す予定だ。
「イツキ、ゴブリン3匹だけどどうする?」
オータルは小さな声で聞いてきた。
「シラユキにやってもらってもいい?」
「おう。じゃあ任せた」
俺は召喚絵巻をと取り出して念じ、シラユキを召喚した。
やはり子虎の姿だ。
「シラユキ。ゴブリンを倒してくれ」
ガウガウ!
シラユキはゴブリンに向かっていった。
「え?」
ゴブリンに向かって走って行くシラユキの身体がどんどん大きくなっていた。
「どういうこと?」
ゴブリンの目の前に到着すると、前と同じくらいのサイズになっていた。
ガルルルルルル!
シラユキが唸ると、地面から氷のとげが飛び出してゴブリン達を串刺しにした。
「イツキ。やっぱりレベルアップしてるじゃねーか」
「うん。魔法も増えてるし、身体のサイズを変えられるようになってる」
俺とオータルが驚いていると、メアが口を開いた。
「膝の上に乗りたいから、子供の姿だったんだね」
「そうかも」
身体が大きくなって膝に乗れないと分かったときのシラユキの落ち込み方を思い出した。
シラユキは俺の元へ走ってやってきた。
「凄かったぞ」
ガルルル!
シラユキを撫でると、身体のサイズがどんどん小さくなっていった。
俺はシラユキを抱き上げた。
シラユキは嬉しそうに喉を鳴らした。
▽ ▽ ▽
山の中でのモンスター討伐は順調に進んだ。
初めて見るフォレストラビットやホーンラビットというウサギのモンスターも倒した。
魔物図鑑はどんどん埋まっていった。
この調子でいけば、ギルドの依頼もこなせるだろう。
「あそこに見たことないモンスターが居るわ」
「え?」
ミランが指差す方向を見ると、真っ黒なキツネのモンスターが数匹いた。
俺らに気づいているようだが、敵意を感じなかった。
俺は距離を保ったまま、魔物図鑑に絵を描いた。
「えーっとシャドウフォックスってモンスターみたい。争いを好まないが狂暴。影の中に入って移動するって書いてある」
「モンスターなら倒した方がいいんだよね?」
「そうだよね」
俺らが話していると、背後に気配を感じた。
ペロ!
何かに舐められた。
後ろを振り返ると、シラユキよりも大きくて身体に大きな傷があるシャドウフォックスだった。
「え?」
俺達はすぐに距離を取る。
だが、大きなシャドウフォックスからも敵意を感じられない。
「これはどうすればいいの?」
メアは混乱していた。
「倒さなきゃいけないのか?」
オータルも混乱している。
大きなシャドウフォックスは俺達を素通りし、シャドウフォックス達の元へ行った。
シャドウフォックス達は大きなシャドウフォックスの周りを楽しそうに走り回っていた。
「これは倒さなくていいよな」
「「うん」」
「俺には倒せない」
俺達は距離を取ってシャドウフォックス達の様子を眺めることにした。
「ここでお昼にする?」
「ああ。良いかもね」
俺達はそのまま距離を取って昼食の準備を始めた。
「キングシャドウフォックス。やっぱり上位種だ」
俺は魔物図鑑で大きなシャドウフォックスの情報を得た。
「戦ったら負けてたかもね」
「そうだね」
コンコーン!
昼食の準備をしているとキングシャドウフォックス達が近づいていた。
敵意は感じない。
「食べたいのか?」
コンコーン!
キングシャドウフォックスは俺の顔を舐める。
シャドウフォックス達も、メア達に寄り添っている。
「オータル。食事って多めにある?」
「あるぞ」
「じゃあシャドウフォックス達にも分けてあげてくれ」
「わかった」
俺達はシャドウフォックス達と昼食を食べることになった。
▽ ▽ ▽
「そろそろ麓に行くか」
昼食を食べ終わった俺達は麓を目指すことにした。
シャドウフォックス達は、食事が終わると影の中に入ってどこかに行ってしまった。
「危ないモンスターだけじゃないんだな」
「そうだね。テイムされてないモンスターでもあんなに懐いてくる子がいるなんて」
「モンスターだからって無作為に倒しちゃダメだな」
「「うん」」
俺達はそんなことを思いながら山を下って行った。
▽ ▽ ▽
「全然いないな」
「そうだねー」
山の麓に着いたが、モンスターはゴブリン数匹しかいなかった。
「鎧は動きやすいのは分かったんだけど、武器を使う敵とかと戦っておきたいな」
「そうだな。俺もまだ足りない」
オータルは腕を振り回しながら言った。
「まだ出発まで数日あるし、また来た時にでも試そう」
「うーん。そうだな。街に戻るまでにモンスターと遭遇するかもしれないしな」
俺達は泣く泣く街に戻ることにした。
▽ ▽ ▽
街に戻る途中、モンスターと遭遇した。
ゴブリン3体とエリートゴブリン1体だ。
「やっと鎧の性能を試せそうだ」
俺は筆剣を構えた。
「イツキ。エリートゴブリンは私がやりたい」
「え?」
ミランからお願いされるなんて珍しくて驚いた。
「こいつを倒すことを目標にしてたの。この前の依頼で上位種は倒したけど、やっぱりこいつを1人で倒したい」
ミランの気持ちを汲むことにした。
「わかった。じゃあエリートゴブリンはお願いするね」
「うん!」
「ゴブリンはゴウキにやってもらうけどいい?」
「いいぞ!」
「いいよ!」
メアとオータルの許可をもらえたので、俺はゴウキを召喚した。
ミランは笑顔でエリートゴブリンに向かっていった。
ミランはサーペントブレードを振りかぶった。
サーペントブレードの刃は一直線にエリートゴブリンに向かっていった。
グギャ!
エリートゴブリンは斧で刃を弾くが、勢いを殺せず後ろに飛んで行った。
ミランはゴブリンの横を素通りし、吹き飛んだエリートゴブリンに向かっていった。
ゴウキは取り残されたゴブリン達を棍棒で殴り、瞬殺させた。
「ぎょいー」
ミランは吹き飛んだエリートゴブリンの両手首を斬り落とした。
しっかり毒ナイフへの対応をしている。
グギャ!
何もできなくなったエリートゴブリンは叫びながらミランに突進してきた。
だがミランは焦らず、サーペントブレードを振った。
刃はエリートゴブリンに巻き付き、身体が切断された。
俺はミランの元へ行き、声をかけた。
「どうだった?」
「うん。旅のおかげで余裕だった。あの時イツキに謝って、天啓の導きに入ってよかった」
ミランは本当に嬉しそうだった。
俺達はゴブリン達の耳をはぎ取り、街へ戻った。




