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31.黒妖

地獄だった。


疲れていたせいか、オータルはすぐに泣きだし、メアは俺の腕にしがみついた。

それだけならいつもと変わらないのだが、昨日はジル師匠まで酔っていた。


俺達が無事に帰ってきたことがうれしかったのか、ダンジョンに行くことになったのがうれしかったのかわからないが、終始熱く語っていた。

俺が酔った時はこんな感じだったのだろう。


ミランが全然酔ってなくて助かった。

ミラン曰く、オータルと飲むときは酔わないようにする癖がついたらしい。

オータルをミランに任せ、俺はメアとジル師匠を家まで運んだ。


ベッドはメアに貸し、ジル師匠を床に転がし、俺も眠りについた。



▽ ▽ ▽



目覚めると太陽は登り切っていた。

俺も疲れてたみたいだ。


部屋にはジル師匠の姿はなかった。

机に置手紙があった。

ジル師匠からの手紙だろう。


だが文字が読めない俺には内容がわからなかった。

メアが起きたら読んでもらおう。


そんなことを思っていると、オータルが家にやってきた。

「イツキー。起きてたか」

オータルの顔色がよくない。二日酔いだろう。


「今起きたところ。オータル、これ読んでくれる?」

俺はオータルに置手紙を渡した。

「ん?なんだ。あー迷惑をかけてすまん。ペタロドに行く予定が決まったら教えてくれ。また食事をしよう。だって」

「なるほど。想像通りの内容だった」

「おーそうか」

「それでオータルは何しに?」

「そうだそうだ。ゲン爺が装備ができたから取りに来いだってさ」

「え?ほんと!?」

俺は思わぬ朗報に心が躍った。


「すぐ準備するから待ってて」

「おう。俺は横になって待ってるから、ゆっくり準備しろ」


俺はメアを起こさないように寝室に入り、準備を始めた。


▽ ▽ ▽


俺とオータルはゲン爺の鍛冶屋に到着した。


「おー待っておったぞ」

ゲン爺は出迎えてくれた。


「鎧ができたって聞いたんですが」

「ああ。自信作じゃ。相当金を預かっていたからな、最新のものを仕入れることができたぞ」

「最新のもの?」

素材に最新なんてものがあるのか?


「まあ見てみればわかる。今持ってくるからの」

そういうとゲン爺は店の奥へ入っていった。


戻っていたゲン爺は何も持っていないように見えた。

「あれ?」

「焦るな焦るな。お前さんの鎧はこれじゃ」

ゲン爺はそういうと手を開いた。

手の中に入っていたのは2つの指輪だった。


「え?鎧は?」

「まずはこの指輪を付けてみろ」

俺はそういわれ、指輪を嵌めた。


「オータル。この指輪に魔力を入れてやれ」

「え?わかった」

オータルは指輪に触れた。


「オータルからイツキは魔力が少ないと聞いてな、それを補助する指輪じゃ。この指輪に魔力を貯めておけば、その魔力を使ってマジックアイテムを作動させることができるぞ」


実際は少ないのではなくまったくない。

なのでだいぶ助かるアイテムだ。


「そしたらこっちの指輪に触れて、魔力を込めてみろ」

「わ、わかりました」

魔力の込め方なんてやったことがないからわからないが、とりあえずやってみた。

すると指輪から身体の中に何かが通るような感覚があった。


「お。こんな感じか」

魔力と思われるものが俺の身体を通り、指輪に注がれるのを感じた。


ボンッ!


すると指輪から俺がデザインした甲冑が出てきた。

「うわ!すご!」

俺が驚いているとゲン爺がニヤニヤしながら口を開いた。


「どうじゃ。ワシの自信作じゃ」

甲冑は俺のデザイン通りのものだった。


全体的に黒ベースで、白の挿色が入っている。

兜は鼻まで覆う形で犬のようなデザイン。


「おお。良い」

持ち上げてみると、想像以上に軽い。

何かの鱗?殻?なのかしっかり強度がある。


「オブシビアンウィービルという虫型のモンスターの殻を使っている」

「最新ってこの素材がなんですか?」

「あー最新なのはこの指輪じゃ。今は指輪をはめずに魔力を込めたが、嵌めた状態で魔力を込めると自動で装備してくれるんじゃ」

「なるほど。すごいですね」

「遠い国でドワーフの夫妻が作ったものらしい。ちょっと嵌めて使ってみろ」

「はい!」


俺は魔力を入れた指輪と逆の手に嵌める。

そして魔力を込めた。

ボンッ!


「おおーすごい」

先ほど見ていた甲冑がしっかり装備された。

「似合っておるぞ」

「ありがとうございます」

指定していたブックホルダーもしっかりついていた。


「ゲン爺。俺のもこれやってくれ」

「ああ。そういうと思って指輪はもう1つ用意してある。だが払えるのか?」

「あっ!」

オータルは俺の方を見た。


「嘘じゃ。イツキにワシを紹介してくれたお礼だと思え」

「ありがとうーゲン爺!」

オータルは喜んでいた。


「ところでイツキ、この鎧の名はどうするのだ?」

「名前ですか?」

「ああ。本当はワシが付けようかと思ったんじゃが、デザインを考えたお前さんが付けた方がいいじゃろ」

俺は悩んだ。


「うーん。黒、甲冑、犬…」

俺はかっこいい名前を付けたかった。

頭の中にある黒と組み合わせてかっこいい漢字を探した。


「黒妖。黒妖にします」

「ほお。どういう意味なのじゃ?」

「えーっと、意味は特にないんです」

「は?」

「音というか文字の並びがかっこいいかと思って」

「そ、そうか」

ゲン爺がちょっと引いてるように感じた。


「イツキ。さっそくそれを装備して、モンスターを倒しに行こうぜ」

オータルはニコニコでそういった。

「いやさすがにそろそろ夕方になるぞ。それに二日酔いは大丈夫なの?」

「あっ!」

オータルは二日酔いだったことを思い出したのか、顔色が悪くなった。


「明日は絵の依頼を片付けるから、明後日にでもモンスターを退治に行こう」

「お、おう。そうだな」


俺とオータルはゲン爺にお礼を言い、鍛冶屋を後にした。




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