29.ゼネバース皇国
レムチャの街はひどい有り様だった。
街の中でもモンスターが暴れていたことがわかるレベルで建物などが崩壊していた。
ベボンさんとコティさんは怪我をしている人達にポーションを渡していった。
俺達もその手伝いをした。
「もう少し僕達の到着が早かったらよかったんだけど」
ベボンさんは悔しそうにしていた。
「連日襲撃を受けていなかったら、ここまでひどいことにはなってなかっただろう」
コティさんがそうつぶやいた。
「え?連日ですか?」
「ああ。今日が3日目だ。兵士も冒険者もだいぶ数を減らされたし、拉致された人もいるだろう」
大きい街の割には城壁の外で戦っている人数が少ないと思っていたが、そういうことだったのか。
「僕達は1日目の襲撃の情報を得て、この街に来たんだ」
「なるほど……」
俺達が怪我人にポーションを渡していると1人の傷だらけ獣人が近づいてきた。
「ベボン、コティ!大丈夫だったか?」
声をかけてきたのはヒョウの獣人だと思われる人だった。
「ギルドマスター。大丈夫です、モンスターは排除しました」
「それはよかった。本当に助かったよ。ありがとう」
ギルドマスターは2人に頭を下げた。
「ギルドマスター。この4人なんですが」
「ん?」
「ダガルから依頼で来た……。パーティ名って聞いたっけ?」
ベボンさんは俺に問いかけた。
「いえ。まだ言ってなかったです。【天啓の導き】のイツキです」
「おお。話は聞いてるよ。まさかダガルやナーコンに引き続き、この街まで襲われるとは」
「はい。申し訳ないです」
俺はもっと早く情報共有ができたのじゃないかと悔やんだ。
「情報はもらっていたんだ。対策ができなかった我々の落ち度だから気にしないでくれ」
俺が負い目を感じているのに気付いたのか、ギルドマスターは優しい言葉をかけてくれた。
その様子を見ていたベボンさんが口を開いた。
「さっきイツキ達から話を聞いたんですが、ダガルを襲った人間はデルタヤでした」
「なんだと?ということは」
「はい。ゼネバース皇国の仕業です」
「くそ!何が人族至上主義だ!狂った思考を国民に植え付けやがって!」
ギルドマスターは分かりやすく苛立っていた。
「えーっと、どういうことでしょうか」
俺が声をかけると、ギルドマスターは苛立ちを抑えた。
「すまない。取り乱してしまった」
「いえ。大丈夫です。それで今話していた話はいったい」
「詳しい話は明日まとめてでもいいかい?君達の報告もその時に聞こう」
「わかりました」
「長旅とモンスターの戦闘で疲れているとは思うが、怪我人達の対応をしてもらえるか?」
「はい」
ギルドマスターはそういうとどこかへ向かっていった。
「明日の報告の時、僕らも同席してもいいかい?」
ベボンさんは俺に問いかけた。
「はい。俺達も聞きたいことがあるので」
「ありがとう。じゃあ街の人達の救援に行こうか」
俺達とベボンさんはポーションを持って、街へ散らばった。
▽ ▽ ▽
夜になり、俺達は城壁の外に居た。
街の宿屋はほぼ機能しておらず、野宿をすることになった。
「あー疲れたな」
オータルがぼやいた。
「そうだね」
「それにしても、全然戦えなかったな」
「ああ」
俺達は昼間の戦闘を思い出してテンションが下がっていた。
自分達の弱さとベボンさん達との実力差。
「なんかデルタヤの仲間を倒そうとか言ってた自分が恥ずかしくなったよ」
「そうだね。訓練が足りないのかもね」
「うん。ベボンさんが助けてくれなかったらやばかったかも」
「私も……」
俺達はさらに落ち込んだ。
グルルルル!
「ぎょいー」
シラユキとゴウキが俺を慰めようと近づいてきて。
俺は2人を撫でてあげた。
「強くならないと」
「「うん」」
「そうだな」
俺達は強くなることを心に決めた。
▽ ▽ ▽
翌日。
俺達は冒険者ギルドに来ていた。
部屋で待っていると、ギルドマスターとベボンさん達がやってきた。
「昨日は街の人を助けてくれてありがとう。私はギルドマスターのヒリルです」
「天啓の導きのイツキです。それとパーティメンバーのメアとオータルとミランです」
「事前にダガルとナーコンのギルドマスターから情報は来ていますが、改めて報告してもらえますか?」
「はい。わかりました」
俺はダガルの襲撃、ナーコンでのガースの件を話し、デルタヤとガースの絵を渡した。
「報告ありがとうございます」
ヒリルさんは頭を下げた。
「ダガルとナーコンのギルドマスターから情報が来て、警戒をしていたつもりだったんですけどね……」
ヒリルさんは悔しそうにしていた。
その様子を見たベボンさんが声をかける。
「悔やまないでください。ギルドマスターが3日間休まず戦ったから、被害もここまで抑えられたんです」
「ありがとうございます」
ヒリルさんはまだ少しへこんでいるようだった。
ベボンさんは真面目の顔つきで話し始める。
「獣王国の冒険者ギルドに共有すべきことがあるのでお伝えします」
「それは【夜闇の影】が手に入れた情報ですか?」
「はい」
俺達は話を全く理解していなかった。
「【夜闇の影】っていうのは?」
俺はベボンさんに問いかけた。
「それは僕達のパーティ名だよ」
「そうなんですね。てか凄い大切な話をしようとしていますが、俺達は聞いちゃって平気なんですか?」
「問題ないよ。君達にも関わってくるかもしれないことだから。それに伝えてほしい相手もいるしね」
「え?」
戸惑う俺達を気にせず、ベボンさんは話を進めた。
「天啓の導きもいるので、情報を細かく伝えますね」
「お願いします」
「ダガル襲撃の犯人デルタヤはゼネバース皇国の皇帝直属の部隊の人間です」
「えっ?国が犯人ってことですか?」
「そうだよ。ゼネバース皇国は人間至上主義で、国ぐるみで獣人を他国に奴隷として売るために頻繁に拉致を繰り返してるのは知ってるよね?」
「は、はい。知ってます」
俺が獣人の常識に詳しくないせいで、いろいろおかしいことになるところだった。
「ですがゼネバース皇国はここ1年。拉致した獣人を他国に売ることがありませんでした」
「え?」
「僕達はその原因を探っている中で、2つのことを知りました」
「それは?」
「まずは拉致した獣人を生贄に勇者召喚を行っています」
「え!勇者召喚って異世界の人を召喚するあれですか?」
「ああ」
「僕達が確認する限り、過去に2回以上は確実に行われています」
「なるほど」
ヒリルさんは神妙な表情をしている。
「そしてもう1つは大量のモンスターを操るマジックアイテムを複数所持していることです」
「それが今回使われたと?」
「はい。細かい効果もどこから仕入れたのかもまだわかっていませんが、ゼネバース皇国が複数所持をしているのは確実です」
「その話が本当なら、冒険者ギルドだけではなく国王にも報告する必要がありそうですね」
「実は僕達は国王に報告に行くところだったのですが、襲撃の情報を耳にしてこちらにきました」
「そうだったんですね」
「なので我々はこの後、すぐに王都に向かいます。それでイツキ達に頼みがあるんだ」
「なんですか?」
「ダガルに戻ったら今回のことをジルに伝えてくれ。お前の力を借りる時がいずれ来ると伝えてくれ」
「わ、わかりました」
ベボンさんと師匠は知り合いのようだ。
「デルタヤのようにモンスターを操るスキルを持っている者もいるようですが、大半はモンスターを操るマジックアイテムを使っているみたいです」
「そんなマジックアイテムが?」
「はい」
「じゃあまたすぐに襲撃が来る可能性がある?」
「わかりません。今回失敗したことで、相手も慎重になっているはずです」
「わかりました。そのことも共有しつつ、警戒は怠らないように各ギルドに伝えます」
「よろしくお願いします」
ベボンさんは頭を下げた。
ヒリルさんは俺達の方を向いた。
「天啓の導きの依頼はこれで完了です。他の街へこの絵を届けるのはこちらで引き取ります」
「わかりました」
「改めて、街のために戦ってくれてありがとう」
ヒリルさんは頭を下げた。
報告が終わり、俺達は馬車を置いている場所に向かった。




