2.モンスター遭遇
俺は森の中を歩いていた。
辺りを見渡したが、まったく何も見えなかったので森を抜けることにした。
だがその判断は失敗だったようだ。
森はうっすら斜面になっていて、森というか山に近かった。
「こんなに歩ける体力なんて、なかったはずなんだけどな」
お調子者神様がステータスをいじったってこういうことなのか。
ステータスの筋力が体力に直結してるとはどうも思えないけど…。
山を登り続けた。
ガサッガサ
目の前の草むらが揺れた。
「ん?なんかいるのか?」
草むらの中から、何かが出てきた。
その姿は見覚えがあった。ゴブリンだ。
ギャギャギャ!
目の前に現れたゴブリンは3匹。
俺は気付かれないように隠れたが、無駄だった。
ゴブリン達は俺に向かって走ってきた。
「まずい!」
俺は召喚絵巻を使ってシラユキを召喚した。
グルルルルルル!
「シラユキ!ゴブリンを倒して」
ガウガウガウ!
シラユキはゴブリンに向かって走り出した。
ギャギャギャ!
ゴブリンはシラユキに気付く。
シラユキはゴブリンに近づくと叫びながら前足をゴブリンに向ける。
しかし身体が2Dのせいでまったく攻撃が当たっていない。
噛みついたり前足で攻撃をしているようだけど、俺から見たら紙のようなものが体当たりしてるようにしか見えなかった。
シラユキの攻撃はゴブリンにはまったく効いておらず、ゴブリンに囲まれて攻撃され続けていた。
「シラユキ!大丈夫か?」
シラユキはゴブリンの拳に当たると、身体から煙が出て姿が消えてしまった。
召喚絵巻を見ると、中にシラユキの姿があった。
「やられ過ぎると召喚絵巻に戻るのか。それにしてもこの状況はやばい」
俺は筆剣を取り出し、刀を抜く。
「筆剣は鍔がない日本刀。筆剣は鍔がない日本刀」
俺はそう自分に言い聞かし、筆剣を上段に構えた。
剣道をやっていたころ、なぜか上段の構えを練習していた。
上段の構えを対策するには突きが有効と聞き、中学生では突きは禁止されていたから最強の構えだと思っていた。
実際はそんなことはなかったのだが、左利きの俺にはだいぶ合った構えだった。
俺の懐に入ろうと飛び込んでくるゴブリン。
俺は長いリーチを生かして、自分のエリアに入られる前に顔面に打ち込む。
グギャ!
ゴブリンは真っ二つに裂ける。
俺は演武で見たことがあった血振りをし、構え直す。
飛び込んでくるゴブリン2匹を先ほどと同じように叩き斬る。
ゴブリンは綺麗に2つになった。
「ふぅー。何とかいけた。てかけっこうグロいな」
俺は筆剣をしまおうとすると、刃には血が付いていなく初めて見たときと同じ綺麗な姿だった。
特別なアイテムだからなのか手入れいらずみたいだ。
俺は筆剣をしまって、ゴブリンの死体を見てみた。
グロ耐性があるタイプじゃないのに全然平気だ。
これもステータスをいじられた結果なのか?
ゴブリンの死体の中に綺麗な石があることに気付いた。
「たぶん使えるやつだろ、素材?みたいなもんなはず」
俺はゴブリンの体から綺麗な石を取り出し、収納の書にしまった。
俺は山を登り続ける。
山は結構高いようで、数時間は歩き続けていた。
腹も減らないし喉も乾かない。
空は暗くなり始めていた。
寝込みをモンスターに襲われるのは嫌なので、木の上で寝ることにしよう。
俺は木に登り、安定する場所を探し仮眠を取った。
▽ ▽ ▽
俺は人の声で目覚めた。
少し遠くからだが、複数の人の声が聞こえる。
俺は木から降りて、気配を消しながら声が聞こえる方向に向かった。
隠れながら声の主を探していると、遠くで人影が3つ見えた。
「え?」
人影の姿を見た俺はつい声が出てしまった。
その3つの人影は人のような姿だったが、動物のような耳や尻尾が付いていた。
「獣人?」
男性1人と女性2人。
男性は黒髪の頭に大きな角が2本ついていて、がたいが良い。たぶんバッファローとかウシ系の獣人。
女性の1人は茶色い髪で背が小さい。頭に外を向いた耳が付いていて、長細い尻尾が付いていたからネズミ系の獣人。
もう1人は金と黒の髪で頭には耳が付いており、手と足にもうっすら縞模様のようなものが付いているからたぶんトラの獣人だろう。
スキルの『観察眼』のおかげか、3人の姿がよくわかった。
俺はある程度距離を保って、3人の後をつけて会話を盗み聞きすることにした。
「魔石取ってもいい?」
「いいよ。それとゴブリンの耳を剥いでおいて。その2つをギルドに渡したら、少しはお金になるから」
「わかったー」
トラの獣人に言われ、ネズミの獣人はゴブリンの死体を触り始めた。
それにしてもいい話が聞けた。
昨日取った石は魔石というのか。耳もお金になるなら、今後は剥ぎ取らないとな。
「おい。ゴブリンをちまちま倒して、昇格できるのかよ」
ちょっと離れたところから牛の獣人が戻ってきた。
「しょうがないよ。町の近くはこの地形のおかげであんまりモンスターが出ないんだから」
「俺はもっとすごい討伐依頼がやりたいぞ」
「そんなすごい討伐依頼なんて滅多にないわよ!うちのギルドは討伐依頼が少ないの。その代わりに街の中での雑務依頼があるんじゃない」
「雑務って冒険者の仕事か?何でも屋じゃないんだぞ!」
ウシの獣人は少しイライラしていた。
「じゃあ、山の麓にでも行くわけ?モンスターはここら辺よりは多いけど、人間がいる可能性が高いんだから」
「人間が居てもいいだろ!人間も悪い奴ばかりじゃないだろ」
「バカ言わないで!良い人間なんて滅多にいないわよ」
「そんなこと言ってたら俺達の使命はどうするんだよ」
「うるさい」
「はいはい。わかったよ」
ウシの獣人は拗ねてしまい、どこかへ行ってしまった。
「できたよー」
ネズミの獣人がゴブリンの魔石と耳を掴んでいたが、手が血でびちょびちょになっていた。
「もう、なんでそんな血が付くのよ。匂いで他のモンスターが来ちゃうかもしれないじゃない」
「ごめんね。でもちゃんと剥ぎ取ったよ!」
「それはありがとう。じゃあ一旦街に帰って、血を洗い落としに行きましょ」
「うん」
3人の獣人は山頂方面に歩いて行った。
俺は尾行するのをやめた。
「人間はあんまり歓迎されてないのか?」
先ほどのウシの獣人とトラの獣人の会話から、少し不安がよぎった。
「うーん。トラの獣人は人間嫌いそうだったよな。ウシの獣人は少し理解があった感じがするけど、この世界のことが分からないから怖いな」
俺は獣人を追わず、山の麓へ向かって人間がいる街を探すことにした。
麓の方がモンスターが多いと言っていたので、山の中である程度レベルを上げてから行くことに決めた。
俺はすぐにその場を離れ、モンスターを探した。