24.盗賊
翌朝、宿屋のチェックアウトを終わらせ馬車に乗り込んだ。
昨日のうちに宿屋の食堂に数日分の食事を頼んでおいたので、レムチャの街までは余裕で持つだろう。
「よし、じゃあ出発しよう」
「行くぞ!次はレムチャの街だ!」
馬車は出発し、ナーコンの街を出た。
ナーコンの街から出て1時間程経った。
「モンスターがいないから暇だね」
「そうだね」
俺とメアは馬車の中で暇を持て余していた。
「暇じゃなくなりそうだぞ」
「え?」
馬車は急に止まった。
俺は馬車を下りた。
「イツキ。あれはどうする?」
オータルが指差す先には武器を持った10人の獣人が居た。
「また盗賊か、ご丁寧に顔を隠してるよ」
10人の獣人は布を顔に巻いている。
「とりあえず拘束して、ナーコンに戻るか」
「そうね。それがいいかも」
「メア、ポーションはどれくらいある?」
「いっぱい持ってきてるから、20本以上はあるよ」
「じゃあ殺さないように。怪我くらいならポーション使うから気にしないでいいよ」
「「「わかった」」」
俺は召喚絵巻からシラユキとゴウキを召喚した。
「2人とも、よろしくね」
ガルルルルルルルルルル!
「ぎょい―」
俺達は盗賊達に向かって行った。
▽ ▽ ▽
オータルは盗賊の中でも1番体の大きいのカメの獣人と殴り合っている。
「オータル、何やってんの?」
「ははは。ストーンゴーレムに捕まれて動けなくなったのが情けなくてな、とりあえず力が強そうなやつで鍛えることにした」
「調子乗り過ぎて負けるなよ」
「おう!」
オータルは殴り続けている。まあ圧倒してるから大丈夫だろう。
メアとミランは武器を振り回して6人の盗賊と戦っている。
敵は特徴的な耳が付いているから、イヌとかネコの獣人だろう。
鈍化薬が効いているのか相手の動きが鈍く、ミランのサーペントブレードが脚を斬り、モーニングスターが胴体を凹ましていく。
「2人共!ポーションあるからってやり過ぎるなよ。節約はしたいからな」
「わかったよ」
そう言いながらメアのモーニングスターが盗賊の顔面に当たる。
顔を隠している布がずれた。あれはハイエナの獣人だな。
「一応注意はしたからな」
「「はーい」」
「「「ああああああああああああああ」」」
効いたことのある悲鳴が聞こえた。
「あれ?」
声がする方を見ると、3人の盗賊が倒れていた。
ゴウキが雷を当てたのだろう。
それにしても聞き覚えがある声だった。
俺は倒れている盗賊に近づき、顔を隠している布を外した。
倒れている3人は昨日捕まえた盗賊だった。
「え?もう釈放されたの?罪軽すぎない?」
俺は獣人国の法律を理解していないので、捕まえたやつがすでに外に出ていることに驚いた。
「メア、こいつら昨日の盗賊なんだけど!」
「え?なんで?」
「やっぱりおかしいよね。犯罪者がすぐに自由になってるわけないよね」
「うん。おかしいよ」
キン!
何か金属音がした。振り向くと地面には矢が刺さっていた。
「え?」
矢と俺の間にゴウキが立っている。ゴウキが矢を弾いたみたいだ。
ガルルルルルルルルルル。
矢が飛んできた方向にシラユキが走って行った。
「まだ盗賊が居たのか?」
シラユキが戻ってきた。
口には気絶をした獣人が1人、咥えられていた。
「遠距離を警戒しなさすぎたな。ありがとう2人共」
俺は咥えられている獣人の顔の布を外した。
「え?」
矢を放った犯人はガースさんだった。
▽ ▽ ▽
盗賊は残り1人になっていた。
オータルと殴り合ってるカメの獣人だけだ。
それ以外の盗賊とガースさんを縛り上げて、オータルを待っていた。
「おーい。もういいだろ?」
「え?俺待ちか?」
「そうだよ」
「くそー殴りだけじゃ倒せないか」
オータルは悔しがりながらカメの獣人に突進すると、カメの獣人は吹き飛んで行った。
「飛ばし過ぎ!急いで連れてきて!」
「わかったよ」
オータルはカメの獣人が飛んでった方へ走って行った。
俺は縛り上げたガースさんに水をかけた。
「うわっ」
「起きましたか?ガースさん」
「…」
「しゃべらない気か?このまま冒険者ギルドに連行するんでいいんですけどね」
俺がそう言うと、ガースさんの表情が変わった。
「お前達がいけないんだ」
「は?」
「お前達があの方の情報をギルドマスターに渡さなければ!」
「あの方の情報?あ!もしかしてローブ男の事か?」
「お前が!お前が!」
ガースの俺達への憎悪の感情を感じた。
「イツキ、オータルが帰ってきたんだけど…」
「どうしたの?えっ!」
オータルは先ほど吹き飛ばした盗賊を担いで走っていた。
オータルの後ろには大量のサソリのモンスターが居た。
「あいつまた厄介なことを。メアとミランは盗賊達を馬車に乗せて!」
「「わかった!」」
「シラユキとゴウキはオータルを助けに行ってくれ」
ガルルルルルル!
「ぎょいー」
シラユキとゴウキはモンスターに向かっていった。
「ガース。あとでローブ男の事を聞かせてもらうからな」
俺はガース達を馬車に乗せて、オータルの元へ向かった。
オータルを追ってきているモンスターは50体ほどいた。
ランススコーピオン・アックススコーピオン・ハンマースコーピオン、それに1回り大きい上位種だった。
「オータルは担いでるのを馬車に乗せたらすぐに戻ってきてくれ」
「すまない。わかった!」
「全員、戦闘開始だ。上位種の尾に毒があるかもしれないから気をつけてくれ」
「「はい」」
ガルルルルルル!
「ぎょいー」
▽ ▽ ▽
俺達はモンスターとの戦闘を終わらせた。
「オータルは何でこんなにモンスターを引き寄せるんだよ」
「違うぞ。俺が狙われてたんじゃないって!」
「は?どういうこと?」
「俺が盗賊を拾いに行ったときには、あいつらはこっちに向かって進行していたんだよ」
「オータルに気付いて追いかけてきたんじゃないの?」
「いや、確実にここに向かって進んでた」
「どういうことだ?」
俺はオータルの言ってることが勘違いにしか思えなかった。
「イツキ!」
メアが俺を大声で呼んだ。
「どうした?」
「ガースが居ない!」
「え?」
俺は馬車の中を確認するが、ガースの姿はなかった。
俺は意識を取り戻している盗賊に聞く。
「おい!ガースはどこ行った!」
「知らねーよ。俺達を置いて1人で逃げやがって!」
「1人で逃げた?どうやって?」
「まだわかんねーのかよ。あのモンスター達はガースが操ってたんだよ。1匹が馬車まで来て、あいつの縄を斬ってそのまま逃げて行ったよ」
「クソ、やられた!お前達はガースの仲間じゃないのか?」
「金払いが良いからいろいろと付き合ってただけだ。残念だったな、俺達から得られる情報は少ないと思うぞ」
盗賊がニヤニヤと笑っている。
「ゴウキ!」
「ぎょいー」
ゴウキが金棒を盗賊に当てた。
「ああああああああああああああ」
金棒から雷がでて、盗賊の身体を走る。
「もういいよ。ゴウキ」
「ぎょいー」
俺はローブ男の情報を持っているであろうガースを取り逃がしてしまった。




