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20.ミランと和解

夜の見張り中にミランさんが現れた。


俺は焚火に近くに座らせて話を聞くことにした。

「どうしたの?」

「…」

ミランさんはいつも通り気まずそうにしていた。

俺はミランさんが喋りだすのを待った。


「…あの」

「ん?」

「ごめんなさい」

「え?」

ミランさんが頭を下げた。


「全然いいよ。いろいろ話は聞いたから」

「で、でも」

「俺が逆の立場なら同じことしてたと思うし」

「あ、ありがとう」

ミランさんは目を潤ませていた。


「私、昔人間に拉致されそうになったの。馬車に入れられて、馬車の中には既に拉致された子供達がいっぱいいたの。中には血だらけになってる子や怪我をして泣いてる子もいて」

「うんうん」

「それを見て、人間って怖いんだって思ったの」

「そうだね」

「それから何年か経って、両親に私はお告げの人間の助けを出来るように鍛えなきゃいけないって言われて、なんであんな怖い人間のために頑張らなきゃいけないのって思ったの。それから厳しい訓練を受けるたびに人間を恨んでいったわ」

お告げがこういう形で影響を与えていたのか。


「お告げのことをちゃんと理解するようになって、私はお告げの人間より強くなって、お告げの人間なんて必要ないってみんなにわからせてやるって思うようになった」

「なるほどね」

「冒険者になって、もっと強くなる!ってやる気が出てるところにあなたが現れたの。しかも私が目標にしていた上位種のモンスターを倒していた。私はあなたを認められなかった。メアやオータルが懐いているし、2人からも話を聞いていたから良い人間だってわかってはいたの。だけど認められなかった」

「うん」

「それから、オータルからあなたとパーティを組む話を聞いて、私はソロでやることを決めた。認めてない私が入っても意味ないって自分に言い聞かせた。それからはメアとオータルとも会わない様にして、1人で頑張ったわ」

「そうなんだね」

ミランは身体を震わせながら話を続ける。


「でも、フォレストウルフの時の話を父に聞いたの。人間がフォレストウルフを操っていて、それを食い止めたのがイツキだと。そして今日、あなたの強さを目の前で見た。一緒にいたメアとオータルもものすごく成長していた。私は情けなくなった。意地を張って、認めないでいたせいで私は自分の成長を止めていた。本当に情けなくなったわ」

ミランさんはそういうと改めて俺の目を見て口を開いた。


「イツキ。いまさらな話だし、あなたへの態度も許されるものじゃない。だけど私も仲間にしてくれないかしら」

ミランさんは強く拳を握っている。

勇気のいる行動だったのだろう。

俺はこの勇気を認めてあげないといけないと思った。


「うん。俺からもお願いするよ」

ミランさんは笑顔になった。

「本当に?」

「本当に」

「ありがとう」

「でもメアとオータルも心配していたからちゃんと謝るんだよ」

「うん。なんかイツキって年下なのにお兄さんみたいだね」

「ん?」

「ん?」

俺は似たようなやり取りを思い出した。


「ミランさんいくつ?」

「15だけど」

「俺17」

「え?」

変な空気が流れた。

ミランさんはさっきの笑顔が一瞬に曇り、気まずそうにしている。


「ぎょいー!」

ゴウキがまた俺を呼んだ。

ゴウキのほうを見ると馬車の後ろに人影が2つあった。


「盗み聞きをしてたのがばれないように、今起きたふりをしながら出てくるのがいいんじゃないかなー」

「え?」

俺の言葉を理解したのか、メアとオータルが馬車の後ろから出てきた。


「イツキ、それを言われると逆に出にくいんだが」

「そうだよー。盗み聞きも起きたふりもばれちゃうじゃん」

「2人共聞いてたの??」

ミランさんは顔を赤らめた。


メアはすぐにミランさんに近づいて抱きついた。

「よかったー。これでミランも天啓の導きの仲間だね」

「ごめんねメア。気にかけていてくれたのに」

「いいんだよ。友達でしょ!」

「オータルも、会いに来ても門前払いをしちゃってごめんね」

「いいよ。彼氏だからな」

「え?」

俺は驚いて声が出た。


「ん?2人は付き合ってるの?」

「あれ?イツキに言ってなかったっけ?」

「き、聞いてないぞオータル!裏切り者!」

オータルは気まずそうに頭を掻いた。


「いや、イツキが街に来てからほとんど会ってなかったからさ、それ聞いたらイツキは気にするだろ?」

「気にするけど言えよ!」

「悪い悪い」

俺は衝撃情報を聞かされて、頭が混乱した。

なんか腹立つ。思春期男子は裏切りに厳しいんだからな。


「話は明日の朝にしない?ミランも御者があるし」

「そうだね。ミランさんには寝てもらった方がいい」

「イツキ、ミランでいい」

「わかったよ」

「よし、じゃあ寝るか」

3人は馬車に戻って行った。


俺は再びシラユキに寄りかかって、焚火を見つめた。

シラユキを描いたインクが油性でよかった。



数分後。

「ぎょいー」

「どうした?」

ゴウキの方を見ると、メアがいた。


「どうしたの?寝ないの?」

メアは俺の横に座った。

「ミランといっぱい話したから、オータルのために二人っきりにしてあげようと思って」

「え?そういうこと?」

「さすがにそんなバカなことはしないよ」

「はーよかった」

俺の思春期脳がキャパオーバーせずに済んでよかった。


「まあだから今日はイツキと話してようかなーって」

「いいけど、ちゃんと寝なよ」

「うん」

俺はメアと焚火を見ながら話をした。


そしてメアは俺の膝で寝てしまった。

転移してから、思春期の俺を何回殺したのだろう。

俺は本当に偉いと思う。


朝までメアを起こさない様にしていたせいで身体がバキバキになった。




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