19.遠征開始
俺達は洞窟前で待ち合わせをしていた。
最初に現れたのはミランさんだった。
少し気まずそうにしていた。
「ミランさんこれから宜しくね」
「…うん」
多分俺が悪い人間じゃないことは理解してくれているようだが、人間を認めたくないのだろう。
オータルとメアが馬を連れてやってきた。
「ミラン!久しぶり‐」
メアはミランに抱き着いた。
「メア!やめてよー」
口では嫌がっているが、表情を見ると喜んでいるようだ。
「遠征楽しみだね」
「遊びじゃないのよ。しかも人間が居るかもしれないんだから。あっ!」
俺がいることを思い出したようだ。
「大丈夫気にしないから」
「…ごめん」
「話してないで、さっさと出発しようぜ」
「あれ?オータルが馬車を準備するんじゃなかった?」
どこを見ても馬車はなかった。
「イツキ、お前は山を馬車で降りたいのか?」
「えっ?」
「ここに入ってんだよ。麓で馬車を出すんだよ」
オータルは腰についてる巾着を叩いていた。
「なるほど」
「じゃあ行くか」
俺達は洞窟を抜けて、山の麓へ向かった。
▽ ▽ ▽
山の麓に付くとオータルが馬車を出し、馬を繋いだ。
「俺とミランが御者台に乗る。女の獣人だけに思われるといろいろ大変だからな」
「わかった」
オータルとミランさんが御者台に乗り、俺とメアは馬車に乗り込んだ。
「じゃあ出発するぞ!」
馬車は動き始めた。思ったより揺れるが、我慢できるレベルだった。
▽ ▽ ▽
2時間ほど進んだ。
俺とメアは他愛のない会話をして過ごしていたが、メアが急に気まずそうに口を開いた。
「そういえば、昨日ジルさんにギルドであったんだ」
「へー」
「この前の食事のお礼を言ったら、遠征では酒を呑むなって言われた」
「あっ、あー。そ、そうなんだ」
「詳しく聞いたら酔った私が毎回イツキに絡んでるって聞いて…」
「そんなこともあったね」
「やっぱり本当だったんだ」
「ま、まあ少しだけね。ほんの少し酔ってるなーって感じ」
「本当に?」
「うん」
メアはウルウルした目で俺を見てくる。
「迷惑かけてない?」
「全然!むしろご褒美というか…」
「え?」
「いやなんでもない。全然迷惑じゃないよ!メアもオータルも」
「良かった―」
メアは安心したようで笑顔に戻った。
「イツキ、メア!前方にモンスターだ。あれはオークだ」
オータルが叫んだ。
俺とメアは馬車から降り、戦闘態勢をとった。
馬車の前方には二足歩行のブタのようなモンスターが3体いた。
アニメで見たオークそのものだった。
「オータルとミランさんはそのまま馬車を、メアは鈍化薬を投げて」
「「わかった」」
「え?え?」
ミランさんはなぜか戸惑っていた。
俺は召喚絵巻を取り出し、シラユキとゴウキを召喚した。
「行くぞ!」
ガルルルルルル!
「ぎょいー」
俺は筆剣を取り出しオークに向かって行った。
オークは俺達に気付いた。
オークは持っていた木の棍棒を俺に振り降ろそうとするが、メアが投げた鈍化薬が当たって動きが遅くなった。
俺はゆっくり振り降ろされる棍棒を受け流し、筆剣で首を刎ね飛ばした。
「よし。レベルが上がって切れ味が増したな」
残りのオークを見ると、1体は首を噛み切られて、もう1体は頭部が潰れていた。
シラユキもゴウキも問題なく倒したようだった。
「おつかれ、ありがとう」
グルルルルルル!
「ぎょい―」
シラユキとゴウキは召喚絵巻に戻って行った。
「イツキ―お疲れ」
メアが走ってきた。
「鈍化薬ありがとう」
「どういたしまして」
俺はオークの死体を収納の書に入れ、馬車へ戻る。
馬車に戻るとミランさんがずっとこっちを見ていた。
「ん?」
「…なんでもない」
ミランさんは目をそらした。
「おい、イツキ!俺も次は戦いたいぞ」
「いいけど、じゃあ鎧を着て御者台に座ってくれよ」
「わかった」
オータルは馬車に入り、鎧を装備しに行った。
「メア、今って何を作れるんだっけ?」
「俊足薬と鈍化薬と新しく作れるようになった隠密薬だよ」
「一応ある程度の数はすぐに使えるようにしておいて」
「わかった!」
またミランさんの視線を感じた。
「どうしました?」
「あなた達ってイツキが指示を出してるの?」
俺達は今までの事を思い出してみた。
「あーそうかも。最初の頃は私かオータルが出してたけど、最近はイツキだね」
着替え終わったオータルが戻ってきた。
「俺とメアより早く良い案を考えてくれるしな。俺は頭を使わない方が楽でいい」
「フォレストウルフの時なんか完全にイツキの指示で動いてたね。そのおかげでEランクにもなれたし」
「Eランク?え?あなた達、Eランクなの?」
「え?うん。この前の大量発生の時に」
「…そうなんだ」
ミランさんは少し落ち込んだように見えた。
「おい!話してないで、さっさと行こうぜ」
「そうだね」
「…うん」
]俺達は馬車に乗り込み、馬車は出発した。
▽ ▽ ▽
夜になった。初めての野宿だ。
日中はゴブリンやオークと数回遭遇したが、オータルとメアだけで何とかなった。
メアとミランさんは料理の準備、オータルは火おこしをしていた。
俺は周囲の警戒だ。
「ちょうどいい岩場があってよかった」
「そうだな」
「夜はどうするの?」
「見張りを交代でやるぞ」
「わかった。メアとミランさんは1人で平気か?」
「あー考えすぎかもしれないが、ちょっと心配だよな」
「オータルは御者台に座っててもらわないといけないから、見張りは俺がやるよ」
「大丈夫か?」
「日中馬車で寝させてもらうけどな」
「問題ない。それでいこう」
俺とオータルは話し合い、夜の見張りは俺一人でやることになった。
▽ ▽ ▽
夜、俺は焚火を見ながらシラユキに寄りかかっていた。
ゴウキは周りを走り回っている。
「ゴウキ、モンスターが居たら教えてくれよ」
「ぎょいー」
シラユキは見た目には想像できないくらいふわふわだった。
グルルルルルル!
撫でるとうれしそうに喉を鳴らした。
「ぎょい―ぎょいー」
ゴウキがみんなが寝ている馬車のほうで俺を呼ぶ。
「どうした?」
ゴウキの方を見ていると、人影があった。
「誰?」
「…ごめん。少し話したくて」
そこにいたのはミランさんだった。




