1.イツキ専用アイテム
俺は拾った紙に目を通す。
[イツキくん。ノロッパだよ!何が起きてるかわからないだろうからいろいろ説明するね。
まずここは君がいた世界じゃないよ。いわゆる異世界ってやつ。好きでしょ?
10~30代の日本人男性は異世界に行きたがってるって聞いたよ。
実は僕は舞台美術をしているわけじゃないんだ。この世界の神様をやっているんだ!驚いた?
イツキくんに転移してもらった理由は何個かあるけど、それは時が来たら伝えるよ!
とりあえずは異世界ライフを楽しんで!あと80万円の代わりにいろいろいいアイテムを用意したから有効活用してね!使い方はもう1枚の紙に書いておいたから!またねー]
俺は頭を抱えた。
自称神様はお調子者の能天気野郎だった。
俺は落ちていた物と、もう1枚の紙を見てみた。
ノロッパが言っていたアイテムっていうのは、古い本と巻物みたいな物と例の筆だ。
俺は紙に目を通す。
[アイテムは見てくれた?まずは本があるよね?それは収納の書って言う本だよ。
まあイツキくんが分かるように言うとマジックボックスだよ。
本と収納したい物に触れながら、収納したいって念じると本の中に入れられるよ。
出す時はページを開いて念じれば出せるよ!
続いて、召喚絵巻!これに描いた生物が召喚されるから使ってみて!でも1度書いたら消せないから、ちゃんと何を描くか考えてから描きなよ!
そして最後にイツキくんが門を描いてくれた筆!なんか使ってた時と違いを感じない?
ちょっと小さくなってるよね?実はその筆はサイズが変わるんだ。
持ち運んだりするときはもっと小さくなるし、絵を描くときは最適なサイズになるよ!そしてこの筆の最大の特徴はなんと!筆管を見てみて、なんか切れ目ない?なんと仕込み刀になってるんだよ!すごいでしょ?その名も筆剣!大切にしてね!
このすごいアイテムを使って、異世界ライフを楽しんで!
ちなみにこの3つのアイテムはイツキくん専用だから、イツキくんのレベルが上がれば、アイテムの能力も増えるからね!
レベルとかを見たかったら、大きな声でステータス!って言ってね。憧れてたでしょ?
一応、ステータスも少しいじっといたからね!特別だよ!じゃあまたねー!]
俺はまた頭を抱えた。
お調子者で能天気な自称神様はどこで日本の文化を学んだんだ?
「はあー。まじかよ。てか帰り方とか教えてくれないのか」
俺は座り込み、放心状態になった。
▽ ▽ ▽
俺は数分の間、いろいろ考えた。
父さんの事、唯さんの事。
心配させてるだろうなー。何でこんなことに巻き込まれたんだろう。
「よし!こんなところで落ち込んで、死んでしまったらダメだ。異世界なんだからモンスターとかもいるだろ。気合入れ直せ俺」
俺は自分を鼓舞した。
「まずはアイテムとステータスの確認するぞ」
鼓舞するように声を出しながら動いた。
まずは収納の書をパラパラとめくった。
ページ数は大体10ページほどだった。レベルアップしたらページ数が増えたりするのだろうか。
1ページ目にコインのようなものが数枚、2ページ目には服が一式描かれていた。
俺はページを開いて念じると、金貨と銀貨と銅貨が数枚出てきた。
これがこの世界の通貨なのだろう。
これで違ったら、あのお調子者神様は馬鹿お調子者神様に名前を変更だ。
服も取り出してみたが、この世界に合った服なのだろう。
ベルトには特殊なものが付いている。ちょうど収納の書を入れられるブックホルダーのようなものだった。
俺は外だが気にせずに着替え、来ていた服は収納の書に入れておいた。
次に召喚絵巻を見てみた。
深緑の古い感じの巻物だ。
開いて見ると中は無地になっていた。ここに描いたものが召喚されるみたいな感じなのだろう。
とりあえず描くのは全部が終わってからにしよう。
最後に筆剣だ。
筆剣を持って、仕込み刀を確認したいと思っていたら大きなサイズになった。
紙に書いてあったとおり筆管に切れ目が入っていて、その部分を握って引っ張ると中から刃が出てきた。
これは剣ではなく刀だ。剣道場で日本刀を見たことを思い出した。
筆剣の刀身はとても艶やかで引き込まれるようだった。これは相当な業物に違いない。
俺は刀身をしまって筆剣を握ると、みるみるサイズが小さくなった。
召喚絵巻に絵を描こうと思っていたのが伝わったのだろう。
描こうと思ったが、なかなか題材が決まらない。
「召喚獣のようなものってことだよな」
俺は今まで自分が描いてきた作品を思い出してみた。
アニメのキャラクターや自作のキャラやVtuberの配信画面や新衣装。
どれも召喚獣っぽい物ではなかった。
「筆で書くんだし、やっぱり水墨画っぽく格好良く書いてみるか」
俺は図書館で見た水墨画の資料をいろいろ思い出し、召喚絵巻に筆を入れていく。
数分後。
召喚絵巻には雪山にたたずむ白虎を描いた。
「よし。やっぱり2色で強そうに見えるのは白虎しかないでしょ。さっそく召喚するか」
俺は召喚絵巻を持って念じるが、うんともすんとも言わない。
「何で召喚できないんだ?背景書いちゃダメだったとか?ってうわ!」
目の前に小さなウィンドウが現れた。
「なんだこれ?なんか書いてある」
小さなウィンドウには、
[召喚絵巻に名前を付け、その名前を書いてあげてください]と書かれていた。
「名前を書かないといけないのか。うーん」
俺は筆剣を手に取り、召喚絵巻に[白雪]と書くと召喚絵巻が光だした。
手に取り念じると召喚絵巻から煙が出てきた。
煙と言っても本物の煙ではなく、水墨画タッチの煙だった。
「なにこれ?どういうこと?」
持っている召喚絵巻が動きだし、何かが飛び出た。
煙が晴れると、そこには白虎が立っていた。
白虎だ。
白虎ではあるんだが。
俺が描いた成体の虎ではなく子虎だし、ちょっとかわいい。
一番予想外だったのは、3Dではなく2Dだった。
「え?どういう仕組み?ペラペラなのに身体の奥行みたいなのはあるし」
俺は恐る恐るシラユキに触れてみる。
撫でるというかなぞるに近かったが、なぜか毛並みを感じた。
グルルルルルル!
シラユキも気持ちよさそうにしている。
横から見ると完全に1本の線だった。
「これでモンスターと戦えたりするのか?」
俺は心配になったが、これが異世界だと自分を納得させた。
最後の確認をすることにした。
俺は周りに人がいないことを確認して叫んだ。
「ステータス!!!!!!!!」
目の前にステータスが描かれたディスプレイが現れた。
【名前】 イツキ
【年齢】 17
【職業】 絵師・剣士
【レベル】 1
【生命力】 2500
【魔力】 0
【筋力】 450
【防御力】 400
【俊敏力】 80
【スキル】
○エクストラスキル
異世界の絵師Lv1
→筆剣Lv1
→収納の書Lv1
→召喚絵巻(白雪)LV1
○通常スキル
剣術
抜刀術
観察眼
共通言語
自動翻訳
「なんかゲームみたいだな。とりあえず魔法が使えないのはわかった」
俺は自分のステータスを確認し終わると、シラユキを召喚絵巻に戻した。
「とりあえず、街を探すことから始めないとな」
俺は街を探すために、勘を頼りに歩き始めた。