17.報告
街に戻ると、慌ただしい空気だった。
ジャドルさんが居たので話しかけた。
「街の外のフォレストウルフはほとんど倒しました」
「そうか!ありがとう」
「報告したい事があるんですが…」
「すまない。報告は明日でもいいかい?一般人にも怪我人が出て、ギルドマスターもそれの対処に行ってしまっているんだ」
「わかりました。明日、午前中にはギルドに行きますので」
「申し訳ない。ありがとう」
ジャドルさんは走ってどっかに行ってしまった。
俺はメアとオータルを見る。
「2人はどうする?」
「さすがに疲れたが、報告する内容をまとめた方がいいかもな」
「そうだねー」
「じゃあうちに行くか」
俺達はうちに向かった。
▽ ▽ ▽
「それでこいつが、フォレストウルフとその上位種を操ってたのか?」
オータルは俺が描いたローブ男の絵を見ながら言う。
「操るというか、完全に懐いてたように見えたけどね」
「『テイム』持ちなのかもね」
「『テイム』ってモンスターを仲間にできるってやつ?」
「そう。結構取得している人は多いらしいけど、100体以上テイムしているのは異常かもね」
「とりあえずこいつが何者かだな」
俺達は、俺の描いた絵を見ながら推理を繰り広げた。
「そういえば、こいつが逃げるときに手から炎を出したんだけど、魔法?」
「人間なら魔法の可能性が高いな」
「俺、この世界に来てから魔法ってシラユキの氷しか見たことがないけど」
「獣人は一部の種族しか魔法を使えないからだよ。まあ魔法というか魔術って言うらしいんだけどね」
「え?そうなの?」
「そうだよ。でも獣人でも魔力はあるから、魔力を込めて使うマジックアイテムは使えるんだけどね」
「街の街灯とか火じゃねーぞ。あれもマジックアイテムで交代で魔力を込めてるんだよ」
「知らなかった」
「イツキみたいに、魔力がない人間はだいぶ珍しいと思う」
俺は心の中で自分の『観察眼』を責めた。
「この街には魔術?を使える人はいるの?」
「ベアトリスのばあさんだな」
「そうなんだ」
「狐人族は魔術に優れてるらしいからね。回復魔術を使えるから、報告が明日になったのよ」
「あーなるほど。唯一の回復できる人ってことか」
俺はまだまだこの世界について知らないことが多すぎると痛感した。
「ところで、魔物図鑑は使ったの?」
「うん。ボスフォレストウルフとキングフォレストウルフとボスウィングウルフだった」
「そのボスウィングウルフってやつが大量に街に来たらやばいな」
「そうだね。この街は空の防御は薄いからね」
「明日はそこら辺の報告もちゃんとしとかないとな」
メアとオータルと話していると目の前に小さなウィンドウが出てきた。
[異世界の絵師・筆剣・収納の書・召喚絵巻(白雪)・召喚絵巻(剛鬼)のレベルが上がりました]
「あっ。なんかいろいろレベル上がってたみたい。筆剣のレベルが上がってるんだけど、何が変わったんだろう」
俺はステータスを開き、筆剣をタップした。
○筆剣Lv2
筆にも剣にもなる素敵な武器。
念じることで筆と剣を切り替えることが出来る
念じることでサイズ変更が可能。
使用可能塗料(黒・白・赤)
「筆管を抜かなくても剣に出来るようになって、使える色が増えたのか。戦闘には使えなさそうだな」
俺は筆剣をしまい、召喚絵巻を取り出してシラユキとゴウキを召喚した。
グルルルルルル!
「ぎょいー!」
シラユキはまだ成体とは言えないが、だいぶサイズアップしていた。
今まではかわいい成分多めだったが、迫力を感じられるようになった。
ゴウキは10歳くらいになっていた。
背も高くなり、美少年の面影が出てきた。
「2人も成長しているから、今度ローブ男が来たら少しはやり合えそうだな」
「そうだね。まあ私から見たら2人ともまだまだかわいいけどね」
メアはそういいながら2人の頭を撫でた。
グルルルルルル。
「ぎょい―!」
2人とも喜んでいるようだ。
「とりあえず明日は、ローブ男についての報告と操っていたモンスターの報告だな」
「空から攻撃される可能性もあるって伝えないとね」
「あーさすがに今日は疲れたぞ」
「じゃあ私は夕飯を取りに行ってくるね」
「俺はゲン爺に鎧を預けてくるわ。なんだかんだボロボロになったからな」
2人はそういうと家を出て行った。
俺はローブ男の絵をもう少し詳細に描こうと思い、筆を走らせた。
▽ ▽ ▽
翌日、冒険者ギルド内は静かだった。
いつもは賑わしいが、さすがに昨日の今日だと大半が休んでいるようだ。
俺達は案内された部屋で待っていると、ベアトリスさん達がやってきた。
「昨日はだいぶ助けられたようじゃな。ありがとうなのじゃ」
「いえいえ、一応使命の可能性も感じたので」
「ところで報告したいこととはなんじゃ?」
「えー言いにくいんですが、大量発生の原因を突き止めました」
「なんじゃと!!」
ベアトリスさん達は驚いていた。
「それで原因はなんだったのじゃ!」
「人間です」
「人間じゃと?」
俺は昨日の事をこと細かく説明した。
「昨日、洞窟の外で防衛をすることになったんですが、もし大量発生の原因があるならそこをつぶしたいと思って、メアとオータルに洞窟の防衛を任せて単独行動をとりました」
「それで?」
「フォレストウルフが山の麓の方から現れているのに気づき、麓に向かいました。向かっている途中、フォレストウルフを統率しているボスフォレストウルフが1匹いたので戦闘になりました。ギリギリでしたが倒して、発生源を止めたと思ったのですが、麓からまたフォレストウルフが大量に現れたので、再度麓へ向かいました」
「ほう」
「麓の道があるところまで降りると、そこには4匹のボスフォレストウルフと1匹のキングフォレストウルフが居ました」
「キングフォレストウルフ!?」
「はい。そしてその5匹の近くにローブを着た長髪の人間が居ました。これがそいつの絵です」
俺は昨日描いた絵を渡した。
「ローブ男と対話を試みたんですが、話が通じませんでした。俺を殺そうとしたんですがジル師匠が来てくれて間一髪助かりました。ローブ男はジル師匠を知っているみたいで、分が悪いと思ったのかボスウィングウルフに掴まって逃げて行きました」
「なるほど」
「師匠の憶測ですが、ローブ男は獣人の誘拐が目的で街の戦力を減らすために今回の騒動を起こしたのではないかと言っていました」
ベアトリスさん達は静まり返った。
「これは対策を考えなきゃいけなそうじゃな」
「はい。あとこれも憶測ですが、ボスウィングウルフを手なずけているのであれば、ウィングウルフも手なずけている可能性があります。フォレストウルフと同じぐらいの数が空から攻めてきたら…」
「まずいのう。このローブ男は自分の事を何か言っていたか?」
「いえ、まったく」
「わかった。情報感謝するのじゃ。だがイツキ、御主は危険なことをしすぎじゃ。御主に何かあったら我々はどうすればいいのじゃ」
「すみません」
俺は頭を下げた。
「まあ今後、気をつけてくれればいいのじゃ」
「はい」
「今後のことは冒険者ギルドで決めてから発表するのじゃ。なので他言無用で頼むのじゃ」
「「「わかりました」」」
「それと今回の功績で3人のランクはEになり、天啓の導きのランクもEになるじゃろう。まだ正式発表ではないが、ほぼ確実じゃろう。今後も精進してくれなのじゃ」
「「「はい!」」」
俺達は冒険者ギルドをあとにした。