16.大量発生の原因
俺は跳びかかってくるエリートフォレストウルフを見る事しかできなかった。
身体に力が入らない。
メアに貰ったポーションを飲めば、どうにかなるかもしれない。
だけどもう飲んでいる時間がない。
俺は諦めて目をつぶった。
ガルルルルルル!
シラユキの声がした。
目を開けるとエリートフォレストウルフは吹き飛んでいた。
シラユキがエリートフォレストウルフに突進をして俺を守ってくれたようだ。
「ありがとう。シラユキ」
俺は収納の書からポーションを取り出して飲み干す。
身体から少しだけ痛みが消えた。これなら少しは動けそうだ。
俺はさっきまでシラユキが戦っていた場所を見ると、ほとんどのフォレストウルフは倒れていた。
残りはゴウキだけで対処出来そうだった。
「シラユキ、俺1人じゃまだ倒せなさそうだから手伝ってくれるか?」
ガルルルルルル!
「ありがとう」
俺はシラユキと共に、エリートフォレストウルフへ向かって行った。
吹き飛ばされたエリートフォレストウルフは立ち上がる。
少しはダメージが入っているようだ。
シラユキが跳びかかり、首に噛みついた。
俺は両手で筆剣を握り、顔面に振り降ろす。
エリートフォレストウルフはシラユキを振りほどき、俺の攻撃を避ける。
ガルルルルルル!
空に雲が現れ、エリートフォレストウルフを狙うように氷塊が落ちてくる。
俺達を警戒しているせいか、氷塊にギリギリまで気付かず氷塊が身体を抉った。
俺はそれに合わせてエリートフォレストウルフに近づき、抉れた部分に筆剣を突き刺した。
グワアアアアアアアア!
エリートフォレストウルフは叫ぶ。
シラユキが首に噛みつき、エリートフォレストウルフは倒れこむ。
俺は力を緩めず、筆剣を刺し続ける。
身体が硬いせいで、深くに刺さらない。
俺は力を込め続ける。
「うおおおおおお!」
すると足元にゴウキがやってきて俺を引っ張る。
「え?」
「ぎょいー」
俺が引っ張られて筆剣から手を離した瞬間、ゴウキが金棒で筆剣の柄を叩いた。
筆剣はエリートフォレストウルフの身体に深く刺さった。
先ほどまで暴れていたエリートフォレストウルフはまったく動かなくなった。
「なんか締まらないけど、とりあえず勝利?」
グルルルルルル!
「ぎょい―」
「ありがとね、ゴウキ」
俺はゴウキの頭を撫でた。
ゴウキの口元は笑っていた。
▽ ▽ ▽
俺は親玉を倒したことで安心して、休んでいた。
「あとは残ってるフォレストウルフを倒せば終わりだ」
ガルルルルルルル!
シラユキが山の麓の方を見続けている。
ワオーーーン!
「え?」
フォレストウルフの群れが再び麓から現れた。
方角的に街の方へ向かうルートで山を登っている。
「さっきのが親玉じゃなかったのかよ。シラユキ、ゴウキ、ここであいつらを食い止めてくれ。あの量が街に行っちゃうとメアやオータルが危険だ」
ガルルルルルル!
「ぎょいー」
「俺は麓まで見に行くから、ここは頼んだよ!」
俺は急いで麓へ向かった。
▽ ▽ ▽
出来るだけ数を減らしながら麓へ降りていく。
「エリートがまだいるなら、俺1人じゃさすがに対処出来ないよな」
山を降っていくと視界に街道が見えてきた。
多分あそこが麓なはず。
「え?」
麓の道には、さっき倒したエリートフォレストウルフが4匹とそれより2回り大きいフォレストウルフが1匹いた。
俺はすぐに草むらに隠れて様子を見ることにした。
「さすがにあれは俺には無理だぞ…ってあれ?」
一番大きいフォレストウルフの近くには人間の男性が1人いた。
「まずい!」
俺は草むらから出て、フォレストウルフ達の目の前に出た。
「危ないから逃げて!」
俺が男性に忠告すると、男性はこっちを見て笑みを浮かべた。
「え?」
「ほう。あの数のフォレストウルフが居るのにここまで来れる獣人がいるなんて」
俺はだいぶバカな勘違いをしていたようだ。
冷静に考えればわかったはずなのに。
「お前は誰だ?」
「ヒヒヒ。私ですか?今から殺される貴方に教える必要がありますか?」
「お前がフォレストウルフを街に向かわせてるのか?」
「そんなに知りたいんですか?」
「答えろ!」
この長髪でローブのようなものを着ている男は、終始舐めた態度を取っている。
「うるさいですね。獣風情が。良く見ると、黒髪で若い犬の獣人ですか、高く売れそうですね」
「答えろ!」
「うーん。この子達じゃ、傷を付けちゃいますね。どうやって捕まえましょう」
ローブ男は俺を無視して喋り続けた。
「お?迎えが来ましたね」
ローブ男が空を見つめた。
俺はローブ男が見る方向を見てみると、遠くに羽の生えたオオカミのようなもの飛んでいた。
「うーん。ここで逃すのは惜しいですが、殺すしかないようですね」
俺はものすごい殺気を感じ、筆剣を構えた。
「じゃあみんな、殺していいですよ」
ワオオオ―――ン!!
4匹のエリートフォレストウルフが俺に向かってきた。
「クソ!やるしかないのか」
俺は覚悟を決めて、筆剣を強く握った。
その瞬間、目の前にいた4匹のエリートフォレストウルフが居なくなった。
「え?」
居なくなっていたというよりかは、バラバラの肉片になっていた。
肉片が散らばる地面に立っていたのは、ジル師匠だった。
「遅くなってすまない」
「師匠!」
ジル師匠はいつもの様子と違っていた。
身体は倍以上大きくなっていて、もの凄い大きなハンマーを持っていた。
ローブ男はジル師匠の登場に驚いていた。
「暴獣のジルがいるとは聞いてましたが、本当だったんですね」
「私を知っているのか?」
「はい。貴方は有名ですからね。さすがにキングフォレストウルフだけじゃ厳しいので、今回は退かせてもらいますね」
「逃がすと思うか?」
「思わないですが、逃げさせてもらいますよ」
空から翼の生えたオオカミが現れ、ローブ男を掴み飛んで行った。
キングフォレストウルフも、いつの間にかいなくなっていた。
「逃がさないと言っただろ!」
ジル師匠はどこからか槍を取り出して、逃げるローブ男に向かって槍を投げた。
槍は飛んでいるオオカミに当たりそうになるが、ローブ男の手から出てきた炎で弾かれてしまった。
ローブ男は物凄い勢いで飛んでいき、見えなくなってしまった。
「くそ。大丈夫かイツキ」
ジル師匠はいつものサイズに戻っていた。
「はい。助かりました。あいつは何者なんですか?」
「獣人を拉致しようとする人間だな。街を混乱させるつもりだったんだろう」
「にしては街に行こうとする気配がなかったですよね」
「憶測にはなるが、戦力を削ろうとしたんだと思う。フォレストウルフが大量発生すれば、対処するのは冒険者だ。冒険者が減れば街の戦力が減り、拉致もしやすくなると考えたんだと思う」
「なるほど」
「歩けるか?」
「はい!」
「疲れていると思うが、残っているフォレストウルフの処理をしよう」
「はい!」
俺とジル師匠は山を登りながら、フォレストウルフを倒していった。
▽ ▽ ▽
俺と師匠は、シラユキ達と合流をした。
地面には大量のフォレストウルフの死体が転がっていた。
「シラユキ、ゴウキ、ありがとう」
グルルルルルル!
「ぎょいー」
2人は召喚絵巻に戻って行った。
ジル師匠がエリートフォレストウルフの死体を見ながら質問してきた。
「このボスフォレストウルフはイツキが倒したのか?」
俺の名前予想は外れていた。
「俺1人じゃなく、シラユキとゴウキと倒しました」
「良くやった!こいつを倒せるなんて、成長したな」
「ありがとうございます!」
俺は褒められて素直にうれしかった。
「収納の書に死体は入れておけ」
「え?」
「いまからこの数の剥ぎ取りをしたいのか?」
「いやです!」
俺は収納の書に死体を入れていった。
「「イツキ―!!」」
街の方からメアとオータルが降りてきた。
2人もボロボロだった。
「街は大丈夫?」
「大丈夫。洞窟の周りも、街を対応していた冒険者が来てくれてなんとかなったよ」
「もう疲れたぞ。イツキはどうだったんだ?」
「ボスフォレストウルフを倒した。シラユキとゴウキと一緒にだけど」
「「え?」」
2人は驚いていた。
「よく死ななかったな」
「なんとかね。メアのくれたポーションがなかったら死んでた。ありがとう」
「渡しておいてよかったよー」
俺は麓で見たものを2人に伝えた。
「人間?」
「うん。かなり腹立つやつだけど、手なずけてるモンスターはすごかった。師匠が来てくれなかったら死んでた」
ジル師匠が口を開いた。
「3人共、この話は内緒にしておこう」
「「「え?」」」
「この話が広まれば街の住民が不安になってしまうし、今以上に人間に対しての警戒心が増えてしまう」
「でも…」
「ギルドマスターに報告をして、どう対応するか決めてもらえ。報告はイツキに任せる」
「わかりました」
俺達は道中の死体を回収しながら街へ戻った。