11.嬉しい悲鳴
昨日はあれから怒涛だった。
ゲン爺は吊り看板のイメージ図を見せたら、金具作りをノリノリで受けてくれたようだった。
メアがパーティ登録から帰ってきて、絵の依頼が追加で3つ来たと聞き、すぐに追加分のデザインも考えた。
出来上がったデザイン案をオータルとメアに頼んで依頼主に見せに行ってもらい、その間に追加分のデザイン案を作った。
夜になるまでには全ての依頼主にデザインの了承を得られ、看板の木の板の発注を済ませることができた。
看板は吊り看板だけではなく店の入り口の上に設置する分も作ることにした。
そのせいでゲン爺の店の分も含めて、看板12枚と献立表を作ることになった。
▽ ▽ ▽
朝目覚めると、いつものように2人はリビングにいた。
「おはよう。メアは鍵を持ってるのは知ってるけど、オータルも持ってるの?」
「持ってるぞ!ちなみにミランの家にも1つある」
「そうなんだ。まあ便利だしいいか」
俺の秘密を知ってる人達なら何にも問題ないと思った。
「今日は発注しておいた木の板を取りに行ってくるね」
「わかった。ありがとう」
「俺は金具の方の確認してくる。ちゃんと設置できるか心配だしな」
「そうだね。危険があると困るからよろしくね」
「おう」
メアとオータルのサポートは本当に助かっていた。
「俺は木が届いたら作業開始するね。本当は街の外にモンスターを倒しに行こうと思ったんだけどな」
「どの依頼も急ぎじゃないから明日にでも行くか?」
「明日は師匠と訓練」
「じゃあ明後日?」
「そうだなー。今来ている依頼を終わらせてからにしたいな」
「わかった。じゃあ俺達はそれに合わせるよ」
「ありがとう」
俺達は朝食を食べ、各々動き始めた。
▽ ▽ ▽
10日経っていた。
あれから俺は師匠との訓練を4回行った。
「やっと依頼が落ち着いたよ」
「そうだね、あれから毎日追加で依頼が来るとは思わなかったよね」
「そのおかげで、討伐依頼を数件こなせばFランクの昇格できるみたいだからよかったよ」
「イツキのおかげだけどね」
メアは申し訳なさそうにしていた。
「メアとオータルのサポートがなかったからこんなに依頼を完成できなかったよ、ありがとう」
「それならいいんだけど」
メアは少し嬉しそうだった。
「今日は街の外に出るのでいいのか?」
「うん。モンスターの情報をまとめるって依頼があるからね」
「じゃあ朝食を食べたら街の外へ向かおう」
「うん」
「わかった」
俺達は朝食を食べ、家を出た。
▽ ▽ ▽
街を歩いていく。
街には俺が作った看板がいたるところにあった。
「なんかイツキの看板のおかげで、街の雰囲気が変わったね」
「そうだな」
「やって良かったよ」
歩き進めると、洞窟が見えてきた。
洞窟の前には武装した獣人が1人いた。
俺達は洞窟を通って外に出た。
「洞窟の前にいた人は何?」
「あーあれは王都から派遣されてる駐屯兵だよ」
「え?」
「不法入国しない様に警備してるんだ。獣人以外が入ろうとすると止められる」
「なるほどね」
俺達は山の中腹へ向かった。
▽ ▽ ▽
俺達の目の前にはオオカミのモンスターが2匹いた。
「なんてモンスター?」
「フォレストウルフってモンスターだよ」
「こいつは6匹倒したら依頼1回分か」
「そうだね、じゃあ今回は私達で倒しちゃうから、イツキは見てて」
「わかった!」
2人は戦闘態勢になった。
オータルは全身真っ黒い鎧を着ていた。
「メア、兜をくれ!」
「うん!」
メアは腰についている巾着のようなマジックバックから、2本の角が付いたフルフェイスの兜を出した。
それを受け取ったオータルは兜をかぶった。
兜を付けたオータルは体格のデカさも相まって、見た目は重機だった。
「行くぞ!」
オータルが角をフォレストウルフに向けて突っ込んでいく。
フォレストウルフはオータルの突進を避けた。
オータルは岩にぶつかるが、岩はボロボロに砕けた。
「あー外したか。もう1回!」
オータルはもう1度突っ込んでいく。
次の突進で角がフォレストウルフに当たる。
「おりゃ!おら!おら!」
角でフォレストウルフを掬うように跳ね上げ、落ちてくるのをまた跳ね上げ、最後には角で突き刺した。
「よーし!」
メアを見てみると、フォレストウルフの攻撃をものすごい速さで避けていた。
「精製!」
手には小さな小瓶があった。
その小瓶をフォレストウルフに投げた。
当たった小瓶は割れ、中の液体がフォレストウルフにかかった。
フォレストウルフの動きが遅くなった。
メアは腰につけていたモーニングスターを振りかぶり、フォレストウルフの顔面をぐちゃぐちゃにした。
「はい!終わり―」
オータルもメアも強かった。
メアなんか小型のモーニングスターみたいな武器を使っていた。
獣人は筋力がすごいんだと確信した。
「おつかれ2人共」
「おう!楽勝」
「そうだね」
「何で2人はそんなに強いの?」
「冒険者になる前から、両親に鍛えられてたからね」
「そうそう。イツキのために鍛えられてたってことだな」
2人はどや顔でこっちを見ていた。
「なるほど」
「もっとモンスターを探すぞ。次はイツキとシラユキに戦ってもらわないとな」
「わかった」
俺達は探索を続けた。
▽ ▽ ▽
俺達はかなりのモンスターと戦った。
フォレストウルフ7匹、スライム5匹、ゴブリン12匹、サンドスライム10匹。
サンドスライムの死体はガラスの材料になるらしく、高く売れるようだ。
この街の討伐依頼は常設のものしかないらしく、今回の探索で5回分の依頼をこなしたことになった。
俺は売れる素材と魔石を収納の書に入れた。
「あと5回分でFランクになれるぞ」
「まだ探索する?」
「うん。まだ暗くならなそうだし続けよう」
俺はレベルアップしてるか気になりステータスを見ることにした。
「ステータス!!!!」
目の前にディスプレイが出てきた。
なぜか視線を感じた。
オータルとメアが変な目で俺を見ている。
「どうしたの?」
「何で叫んだの?」
「え?ステータスを見ようと思って」
「いや、なんでそんな大声なんだ?」
「は?」
俺は戸惑った。
「ステータス。これくらいでいいじゃない」
「え?神様のメモに大声でって書いてあったんだけど」
「「え?」」
「え?」
俺は試すためにステータスを消した。
「ステータス」
目の前にディスプレイが出てきた。
「あのクソ神が!!騙された」
「良かったね。街でやらなくて」
俺は苛立ちながらもステータスを確認した。
【名前】 イツキ
【年齢】 17
【職業】 絵師・剣士・冒険者
【レベル】 9
【生命力】 2900
【魔力】 0
【筋力】 490
【防御力】 445
【俊敏力】 90
【スキル】
○エクストラスキル
異世界の絵師Lv1
→筆剣Lv1
→収納の書Lv2
→召喚絵巻(白雪)Lv2
○通常スキル
剣術
抜刀術
観察眼
共通言語
自動翻訳
速筆
「レベルが上がってる。それにスキルも増えてる」
「よかったね」
「絵の依頼をこなしたおかげかな?『速筆』ってのが増えてる」
「だはは。これでまだまだ依頼を受けられるな」
「そうだね」
俺は2人に質問した。
「エクストラスキルって2人も取得してるの?」
「当然。5歳から10歳の間にその人に合ったスキルが取得できるの。それがエクストラスキルだよー」
「そうなんだ。2人はどんなエクストラスキル?」
「俺は『猛進の獣』っていって、まあ突進が強くなる感じだな」
「私は『精製の獣』っていって、特殊な液体を精製できるんだよ。鈍化薬っていうのと俊足薬っていうのを作れるよ」
「2人ともすごいね」
「まあイツキのほうがいろいろできるからすごいんだけどね」
俺達は探索を続けた。