10.天啓の導き
俺が起きると、メアとオータルがリビングに居た。
「おはよう2人共」
「おう!」
「おはよ」
「どうしたの2人揃って」
「私はいつも通りご飯の準備だよー。誰かさんが黙って外に食べに行く前に準備しとかないといけないからねー」
メアは少し怒っているように思えた。
「昨日の夜は本当にごめん。ジル師匠に食事に誘われたのが嬉しくて。一言メアに伝えてから行けばよかったよ」
「嘘よ。怒ってないよ」
「よかった」
俺は昨日の夜、ジル師匠と食事して帰宅するとメアがしっかり夕飯を用意して待ってくれていたのだ。
「まあお詫びとして、私の絵をまた描いてもらうからねー」
「わかったよ」
俺達は3人で食事を始めた。
「それでオータルはどうしたの?」
「絵の依頼があったから伝えて来いって親父が言うからさ」
「え?まじ?」
「おう。しかも2件」
「どんな依頼?」
「えーっと。1つは食堂[大口喰らい]の看板と献立表の制作」
「その店なら昨日行ったよ。カバの獣人が店主のところだよね?」
「そうそう。どういう看板が良いのかわからないから任せるってさ」
「昨日店主と少し話したんだけど、本当に依頼してくれたんだ」
食事をした際に、ジル師匠が俺をだいぶ売り込んでくれた。
ジル師匠とはまだ1日しか絡んでないが、寡黙というのは嘘じゃないかというくらい話してくれる人だった。
「もう1つは仕立て屋の[幸せの重ね着]の看板制作」
「ここはどんなお店?」
俺は2人に問いかける。
「うーん。ちょっと高めのお店だよね?」
「俺は行ったことがないな。確か羊の獣人の夫婦がやってるんだよな?」
「そうそう」
「なるほど」
「これもどんな看板がいいかわからないから、任せるって」
「わかった」
俺はいろいろ考えてみたが、吊り看板が良いんじゃないかと思った。
「オータル。この街には鍛冶をする人はいる?」
「いるぞ、鍛冶屋が何店舗かある」
「その中でオータルが交渉しやすい店ある?」
「うーん。ゲン爺の店かな」
「ゲン爺?」
「なんとかガメの獣人なんだが、ベアトリスのばあさんがこの街を作った時からここに住んでる人だ」
昨日は出会わなかったが、カメみたいな爬虫類の獣人も居るのか。
「お店の名前とかある?」
「みんなゲン爺の鍛冶屋としか言わないな」
「メア、ここにゲン爺の鍛冶屋って書いてくれない?」
「いいよー」
メアは紙に文字を書いてくれた。
俺は急いで吊り看板の金具の細かいデザインと設置した時のイメージ図を描いた。
「こういう看板にしたくて、ゲン爺にこの金属を作ってもらいたいんだ」
「「おー!すごい!」」
2人は驚いていた。
「これに引っ掛ける板も作ってもらわないといけないから、大変そうなんだけど頼めるかな?」
「うーん。ゲン爺ならやってくれると思うけどな」
「ゲン爺の店の看板を無料で作るから、頑張って頼んでくれないか?」
「わかった、頼んでみる!」
オータルは自信満々に言った。
「ありがとオータル。てか2人は俺に付きっきりだけど大丈夫なの?俺としてはありがたいけど」
俺がそう聞くと2人は真面目な表情になった。
「あーその話もしないとな」
「そうだね」
「え?」
2人は顔を見合わせていた。
「いろいろめんどくさいことを吹っ飛ばして話すんだが、イツキに俺達とパーティを組んでほしい」
「え?どういうこと?」
「元々俺達はお告げの人間が来た時にサポートできるように冒険者になったんだ」
「そうなの?」
「10年後くらいに来てくれれば、俺達もベテラン冒険者になってたかもしれないのにな」
「そうだね。私達も冒険者登録したばっかりだからイツキと同じGランクだしね」
オータルとメアは少し悔しそうにしていた。
「2人ともGランクなの?」
「うん。獣王国は15歳にならないと冒険者になれないんだよ」
「人間の国ならもっと低くても登録できるらしいけどな」
「あんまりわかってないんだけど、パーティを組むとどうなるの?」
「同じ依頼を一緒に受けられる。あとパーティメンバーの個人ランクがもしB・G・Gだったら、パーティのランクは平均のEランクになって、個人Gランクでも格上の依頼を受けれるんだ」
「なるほど」
「まあ私達はみんなGランクだから、パーティのランクもGになっちゃうけどね」
「俺はパーティになるのは良いんだけど、ミランさんが許してくれるか」
2人は顔を見合わせた。
「「それは…」」
なぜか少し気まずそうだ。
「ミランは当分の間ソロで活動するって」
「え?俺のせい?」
「違うよ。前話したけど子供の時に誘拐されかけて、人間が苦手になったって話したよね?」
「うん」
「人間が苦手なのに、子供の頃からお告げの人間のサポートを!とか言われ続けちゃったらもっと嫌いになっちゃうよね」
「そうだね」
「だからミランはお告げの人間より強くなるって子供の頃から頑張ってたんだけど、冒険者になって最初の目標だった上位種モンスターをイツキに倒されちゃって、変に意地張っちゃってるんだよ」
「上位種モンスター?」
俺は首を傾げた。
「イツキが倒した、エリートゴブリンよ」
あのひょろ長ゴブリンはエリートゴブリンというみたいだ。
「なるほどね、2人はミランさんと別々になっちゃっていいの?」
「大丈夫。ちゃんと話し合ったから」
「ミランもちゃんとわかってるんだ。イツキが悪い人間じゃないって。だから頭を冷やす期間としてソロで頑張るんだと」
「そうなんだ……。わかった。2人とパーティを組むよ」
「「本当?」」
2人はうれしそうだった。
「よし、そうと決まれば、俺はゲン爺のところに行くから、メアはギルドでパーティ登録を頼む」
「それは良いけど、パーティ名はどうするの?」
「それはイツキに任せた」
「え?」
俺は悩んだ。
「何でもいいの?」
「うん」
「俺らっぽい奴がいいけどな」
俺は頭を回転させまくった。
「えーと【天啓の導き】とかは?お告げのおかげで出会えてるから…」
俺は少し恥ずかしくなった。
「えっ!いいじゃん!」
「俺らそのものじゃん!よし、ぱぱっと飯食って行動開始だ」
俺達は食事を終わらせた。
2人は家を出て、俺は看板のデザインを考えることにした。