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9.看板と訓練

朝食を食べて終わると、オータルが迎えに来てくれた。


急いで変化茶を飲み干し、耳と身体が生えてくるのを待った。

数分待つと、頭と腰がかゆくなった。

このかゆみの対処法がないというのは前回でわかっていたので、耐えの時間だ。

俺はかゆみに悶絶しながら、収まるのを待った。


「ごめん。待たせた!」

「なんかイツキは獣人になってもあんまり印象が変わらないな」

「そう?」

「なんか変わったなーって感じない」

「俺的にはだいぶ変わってるんだけどな」

なぜかわからないが、少し悔しかった。


「じゃあ冒険者ギルドに向かうか」

「うん。案内よろしく」

俺とオータルは家を出て、冒険者ギルドに向かった。



街は思っていたより大きかった。


窓から得られる情報は少なすぎたと痛感した。

俺が借りてる家の周りは建物が全然なく、自然が多かった。

遠くに建物がちらほら見えていたので雰囲気はわかっていたつもりだったがそんなことはなかった。


「なんかうちの周りにだけ自然多くない?」

「あーここら辺は全部ベアトリスのばあさんの所有してる土地なんだよ」

「え?」

「お告げの人間が来た時、何が必要になるかわからないからいろんな面で準備してたんだよ。土地もその1つ」

「あーなんか申し訳ない。俺ではこの土地を有効活用できなそうだ」

「大丈夫。俺が生まれたころには、備えるのが趣味みたいになってたから」

「うーん。なんかできないかなー」

俺は頭をフル回転させたが、何も思いつかなかった。


少し歩くと建物が増え、海外の北国っぽい街並みになった。

「ここら辺は商業地区と言われてる場所だ。店が多いからそう呼ばれている」

「そうなんだ」


通り過ぎる建物を見ているが、店なのか家なのかわからない建物が多かった。

俺から見たらただの家、看板のようなものがあるところもあるけど何の店かわからなかった。


「商品が外から見えないお店は、何の店かわからないから看板の需要ありそうだね」

「わからないのか。俺はこれに慣れてたから気付かなかったが、言われてみればそうだな。今度イツキの絵の話をしに行くよ」


商業地区を抜けると目の前に少し大きめの建物が見えた。

「ここを右に曲がると農業地区、左に曲がると居住区。それで目の前のあの建物が冒険者ギルドだ」

「看板がなかなかの大きさだったから、建物も大きいんだなって思ってたけどこんなに大きいとは」

「この街で1番デカいんじゃないか?」

「そうなんだ」

話しているうちに、俺達は冒険者ギルドに到着した。


中に入ると装備をした獣人がたくさんいた。

「じゃあベアトリスのばあさんのところに案内するぞ」

「お願い」

俺はオータルについて行き、2階の奥の部屋へ入った。


「ここで待ってな。ベアトリスのばあさんもそのうち来るから」

「わかった」

「じゃあ俺は看板設置してくるわ」

「ありがとう」

オータルは部屋から出て行った。


少し待つと、部屋の扉が開いた。

入ってきたのは、ベアトリスさんとジャドルさん。

そして少し人間っぽいイケおじのゴリラだった。

たぶんこの人がジルさんなんだろう。

今まで見た獣人の中で、1番動物の特徴が残っていた。


「待たせてすまんのじゃ」

「いえ全然」

「まずは看板の依頼は完了なのじゃ。良い看板だと聞いておるぞ」

「はい。今オータルが設置してくれてます」

「そうか、じゃあ後で見に行くかの。依頼完了の手続きをするからジャダルにギルドカードを渡すのじゃ」

俺は収納の書からギルドカードを取り出して、ジャダルさんに渡した。

ジャダルさんはそれを持って部屋から出て行った。


「まず御主に剣術を教える者を紹介するのじゃ。この横におる、ジルが御主の訓練をする」

「よろしくお願いします!」

俺は頭を下げた。

するとジルさんは小さく頷いた。


「こいつはだいぶ寡黙なやつでの、怒ってるわけではないから気にするな」

「わかりました」

「訓練は出来るだけ内密にやってほしいから地下にある第3訓練場を使うのじゃ」

「わかりました」

ジルさんも頷いた。


「イツキは戦闘系のスキルは何を取得していたかのう?」

「通常スキルは剣術と抜刀術を取得してます。あと元の世界で剣道という竹でできた剣を使う武術を習っていました」

「ほう。そんなものがあるのか」

「ただ複数のモンスター相手だとなかなかうまく活用できなかったので、訓練をお願いすることにしました」

「なるほど。このジルという男は剣術はもちろんの事、拳術・棍術・盾術が使える凄腕なのじゃ。ジルの訓練を受ければ絶対に強くなれるはずじゃ」

「すごいですね。がんばります」

俺はまた頭を下げた。


「「「「うおーーー!!」」」」

外から叫び声が聞こえてきた。


「え?何事ですか?」

「わからんのじゃ。ひとまず外に確認に行くぞ」

「わかりました」

「はい」

ジルさんは頷いた。



俺とジルさんはベアトリスさんについて行き、冒険者ギルドの外に出た。


そこには人集りが出来ていて、そこにいる獣人達の目線の先には俺が作った看板があった。

「え?」

「あれはイツキが描いた看板か?」

「は、はい」


すると俺を見つけたオータルが近寄ってきた。

「イツキ、聞いたか?あの歓声」

「歓声?」

「そうだ。看板を設置したのを見ていた冒険者達が歓声を上げたんだよ」

「そうだったのか。何か事件が起きたと思って急いで外に出てきたんだよ」

「ははは。それでベアトリスのばあさんとジルさんも居るのか」

「でもよかった。好評みたいで」

「そうだな。これならいっぱい依頼が来るかもしれないな」


俺達は事件じゃなかったことを確認し、部屋に戻った。

「イツキ、あれは凄いのじゃ」

「ありがとうございます」

「これは早めに訓練を始めないと、イツキが忙しくなってしまうな」

「そうですね。あの看板は素晴らしかった」

「ありがとうございます」

寡黙と言われているジルさんに褒められたのはうれしかった。


「イツキの実力を早く把握したい。さっそく訓練場を使っていいですか?」

「いいぞ。ジル、後は頼んだのじゃ」

「はい」

「イツキは帰るときにギルドカードを受け取るのじゃよ」

「わかりました」


俺はジルさんと第3訓練場へ向かった。


▽ ▽ ▽


第3訓練場はバスケットコートくらいの大きさだった。


「改めて自己紹介をする。私の名前はジルだ。よろしく」

「イツキです。宜しくお願いします」

「イツキについては昨日オータルから聞いた。大変な状況だと思うが、私が出来る事なら何でも手伝ってやるから頼ってくれ」

「ありがとうございます」

ジルさんはとてもいい人だった。


「まずはイツキの武器を見せてくれ」

俺は収納の書から筆剣を取り出して、筆管を抜いた。

「ほう。刀か」

「ご存じなんですか?」

「使っている人間を1人知っている」

「そうなんですね」

「じゃあ一度模擬戦をしよう。寸止めは出来るか?」

「たぶん大丈夫だと思います」

「俺は小楯と短剣を持つから、ある程度は防げる。とりあえず始めよう」

「はい!師匠!」


俺とジル師匠は距離を取った。


俺は筆剣を構えた。

「始め!」

俺は走って師匠に向かって行った。


筆剣を振り降ろすが、小楯に弾かれる。

体勢が一瞬崩れたところを脚を払われて倒れてしまう。

俺はすぐに立ち上がり、筆剣の峰で短剣を持っている右手首を狙う。

右手首に当たる前に短剣で防がれるが、その勢いで回転斬りをしようとするが、勢いがついてない段階で筆剣を短剣で止められると同時に顎を一発殴られる。

回転に勢いがついてたら多分気絶していただろう。


再び距離をとり、上段に構え直す。

「集中、集中」

「ほう」


カウンター狙いの受けの姿勢にジル師匠は気付いたのか、俺に合わせるように向かってきた。

俺はリーチを最大限に生かして自分の範囲に入ってきたジル師匠に筆剣を振り下ろすが、またしても短剣に弾かれてしまう。

「くそ!」

ジル師匠は短剣で俺に攻撃をし続ける、俺は防ぐので精いっぱいだった。


「そこまで!」

「はい!」

俺は筆剣をしまった。


「まず身体能力や体力は申し分ない。まだ伸び代もありそうだしな」

「ありがとうございます」

「剣に関しては、基本は出来ているようだが斬ろうとしてるのではなく当てようとしてるように感じる。そのせいで攻撃が一辺倒になっている」

「なるほど」

「上から振り下ろすのが強力なのはわかるが剣筋が単調、せっかく手が両利きみたいに使えるのだから、脚の位置などを変えたりして自分の攻撃範囲を上手く変動させれば、相手が翻弄されるはずだ」

「わかりました」

「よし。大体の力はわかったから、俺が知ってる刀の使い方をまずは教えよう」

「よろしくおねがいします」


ジル師匠はそういうと、訓練場に置いてあった木の細剣を手に取った。


「イツキがやっている両手で剣を持つ構え方も訓練しつつ、片手で剣を持つ戦い方も鍛えて行こうと思う。まずは両手だ」

ジル師匠は木の細剣を刀に見立ててその場で振り回す。


「両手で持つのは力が入るから相手に致命傷が与えやすいが動きの幅が狭い」

ジル師匠の太刀筋は剣道では見たことない太刀筋だったがとても力強く綺麗だった。


「相手の攻撃を防ぐときも両手の方が防ぎやすい。こうやって弾いたり受けたりもできるが、受け流す練習もしていこう」

「はい!」

「次は片手だ。イツキは両利きなのか?」

「いえ、左利きです。元の世界でやっていた剣道は右利き用の構えが主流で必然と両利きっぽくなりました」

「右利き用が主流?」

ジル師匠は首を傾げた。


「左利きの先人が少ないので、左利き用の構えを習ったことがないんですよね」

「なるほど。じゃあ片手での刀の使い方を見せよう」

ジル師匠は片手で木の細剣を持ち、振り回す。


「こういう風に足の位置を変えるだけでリーチが変わる。これは攻撃にも防御にも使える」

「はい」

「こんなところか、木の細剣を使って軽くやってみよう」

「わかりました!」


俺と師匠は訓練を続けた。


▽ ▽ ▽


「ありがとうございました」

ジル師匠は小さく頷く。


今日の訓練のおかげで、だいぶ動けるようになった。

多分『剣術』のおかげもあるのだろう。


「師匠、次はいつ空いていますか?」

「当分はこの街で簡単な依頼しか受けないつもりだ。もし訓練をしたいならいつでも言ってくれ」

「俺もまだ特に大きい依頼などはないので、3日に1回稽古をつけてもらえないですか?」

「構わんぞ」

「ありがとうございます!」

俺と師匠は訓練場を出た。


「イツキは酒は呑めるのか?」

「いえ、呑めないというか元の世界の法律で20歳になるまで飲んではいけないんです。俺はまだ17なので」

「そうなのか。この国では15で呑めるぞ」

「え!そうなんですか?でもやめておきます。」

「そうか。じゃあ美味い飯にでも連れて行こう。新しく弟子が出来た祝いだ」

「はい!お供します!」


俺はジル師匠に連れられ、夕飯を食べに行った。



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