ウシの首
家紋 武範様主催の『牛の首企画』参加作品です。
家紋 武範様、宜しくお願い致します。
夜。 ウシ等全く似付かわしくない街中にソレは居た。
唯のウシではない。
顔面だけがニンゲン。 人面ウシであった。
ソレが男女の前に立ちはだかり。
嘲る笑みを浮かべて語る。
「お前達は死ぬ!
うひゃひゃwひゃひゃwwひゃwひゃひゃwww!」
「お前呼ばわりするな」
即座に人面ウシに言い返した。
女性の方が。
「智恵さああぁぁぁぁあん?!
何異様な存在に言い返しちゃっってんのおおおお?!」
男性の方こそ情けない声を上げる。
男女は。
中高生、位であろうか。
女性は「智恵」という名前の様だ。
其して。
二人共がマスクを着けて
買い物らしきエコバッグを男性……少年? が持つという
令和現在仕様であった。
少年少女が夜出歩くのは推奨はされないが。
買い物袋を下げている辺り
止むに止まれぬ事情が有ったのだろう。
不吉な事を言い不快な哄笑を上げていた人面ウシは。
不意にキュッと締められでもしたかの様に
ぎょろっとした目にだらしない半開きの口に成り。
首がポロッと落ちた。
しかも首が地面に落ちると
動画を早送りでもしたかの様に
全身が高速で朽ちて土へと還る。
「おあああぁあぁあぁあああっっっ??!!」
少年が悲鳴を上げ。
智恵はぽそりと呟く。
「斬新ね」
「何がああああああああああああああ??!!」
少年は智恵に絶叫で突っ込む。
智恵は眠そう? な、表情に乏しい目でありながら
蔑みを含めて言う。
「寛太知らないの」
「何をおおおお?!
っていうか兄を呼び捨てするの止めようかあああ?!」
少年は兄で寛太という様だ。
「近所迷惑だよお兄ちゃん(笑)」
「どうしてだろうなあ?! 智恵さん無表情なのに
迚もおちょくられている気がするんだ俺え?!」
「良く分かったね」
「平然と言うの止めてっっっ?!」
兄は既に泣きが入っていた。
所で人面ウシだが
既に跡形も無かった。
「何だったんだ? アレ!」
寛太が気味悪そうに訊く。
「ニンベンにウシと書いて「件」。
不吉な事を言って勝手に死ぬって妖怪ね。
多分だけど間違いないでしょ。
けど……
成る程ね……」
智恵は声が平坦な割には饒舌に語る。
「成る程って何が……?」
寛太は兄と言いつつ
智恵に引っ張られて気力を保っている様だ。
が。
「勝手に死なれるって。
凄くモヤモヤが残るのね」
智恵は声こそ平坦だが
眼光鋭く右拳を左掌に打ち付けて言う。
「俺智恵さんが恐えんだけどっっ?!」
寛太は絶叫突っ込みする。
「なあに。 さっきから。
お兄ちゃん(笑)ヒロイン枠なの」
「だから智恵さん
兄の心をズタズタにするの止めてっっっ??!!」
お兄ちゃん(笑)はもう本泣きであった。
「んで勝手に死ぬって話には聞いていたけど。
首が落ちるとは予想外だったから斬新ね、と。
斬首なだけに」
「上手い事言った積もりかあっっ?!」
兄妹は帰途に就き。
妖怪「件」の話を続けていた。
「だから近所迷惑だって……」
が。
智恵が言葉を止める。
「うっ……!」
寛太が呻くが。
行く手に「件」の首が浮いていた。
やや後ろが透けて見える。
「えいやあああああああああっっっ!!!!」
智恵は気合一閃!
上段足刀蹴りを放つ!!
「何やってんのおおおおおっっっ??!!」
兄は絶叫を放つ!
「やっぱり透けるか……」
因みに智恵の服装は
ゆったりTシャツに短パン、スニーカーだ。
迚も動き易いと言えるだろう。
「だから俺智恵さんが恐いんだけどっっっ!!」
兄は絶叫しっ放しだった。
「妖怪退治は武道家の務め」
「何処の『らんま1/2』だよっっっ!!
ソレ令和に分かってくれるヒト居ねえよっっっ!」
「寛太は分かっているじゃない(笑)」
「俺は変な妹に鍛えられてえ?!
ってだから呼び捨てえ!!」
妖怪の透けた首が浮いているというのに
賑やかな兄妹だった。
因みに寛太がどう智恵に鍛えられたかというと
高速でネット検索して調べている様だ。
便利な世の中である。
智恵は真面目な雰囲気に成る。
「寛太くん」
「いやだから俺兄!」
「何時ホームラン打つの」
「『一発貫太くん』かいっっっ!!!!
ソレ昭和っっっっっ??!!」
妖怪が居るというのに
何やら兄は違う風に絶叫していた。
兎に角。
「アレどうにかしないとね」
と智恵が言うのは勿論人面ウシの首だが。
突然智恵はウシの首を指差し叫ぶ。
「寛太! 噛み付く攻撃!!」
「絶対嫌だろ!!!!」
寛太は即反発したが。
「くうっ。 きっと効果抜群なのにっ」
「ポケモンか何か?!
効果抜群な理屈もよく分からんし
ポケモンはゴースト? によく噛み付けるよなっ?!」
惜しむ智恵に
寛太は割と乗り良く突っ込む。
「物理的なものでなくて
「喰ってやる!」という気迫が効くんじゃないかな。
最初はノーマル技だったんだけど……」
智恵が尤もらしい様な事を言えば。
「聞く方が苦労する様なネタは止めようかあ?!
「ゲームボーイ」の「カントー地方」なあ?」
寛太がきっちりと補足する。
「最初ノーマル技だったと言えば」
「だからどれ位のヒトに通じんの?! ソレ!」
「「風起こし」なら嫌じゃないでしょう」
「どうしろとお??!!」
智恵はどんなに寛太に突っ込まれても
マイペースであったが。
「ウチワが有るじゃない」
とうとう案が決定したか。
丁度買い物袋に
何処かの店のチラシ代わりか。 な団扇が有った。
「寛太! 「風起こし」!!」
「其のノリ止めろお!」
寛太はぼやきつつ
智恵の指示通り(笑)団扇でウシの首を扇ぐ。
と。
「効いている。 抜群ではないけど」
智恵が言う様に
ウシの首の姿が歪む!
「寛太! 行っけえええ!!」
「だからあ!!
ってうおおおおおお!!」
兎に角寛太がウシの首を懸命に扇ぐ。
段々。 ウシの首の姿が崩れてゆく!
が。
「ぜえっぜえっ……!」
寛太が息切れして
扇ぐのが止むと。
「ひゃひゃひゃwひゃひゃwwひゃwひゃwwww!」
「ぶふっ……w」
ウシの首の姿は元通りであった。
「いや何笑ってんの……?」
噴き出したのは智恵であった。
「笑かすなあっ」
「俺が悪いのっっっ?!」
智恵が噴き出したのは寛太の所為だった様だが。
「もう良いから帰ろうよ」
満足した? らしき智恵は促す。
しかし寛太は嫌そうに。
「アレどうすんだよ……!」
行く手に塞がる人面ウシの首に目を遣る。
が。
「扇ぎながら行けば良いじゃない」
智恵はもう本当に何気なく言う。
「えぇえ……? 其んなので……
って効くな?!」
寛太が扇ぎながら歩くと
ウシの首は歪みつつ後ろに飛ばされる。
「うひゃひwゃwwひゃwひゃw……ww……」
歪んだ嗤いを浮かべながらであるが。
「気色悪いな……!」
「お兄ちゃん(笑)よりはマシだから大丈夫」
「ホント止めてくれるぅうぅうっっっ??!!」
寛太がウシの首を嫌がると
智恵は即座に寛太を泣かせに掛かる。
「寛太が本気で泣くのが可愛いな♡ って」(笑)
「煩えよドSっっっ!!!!」
寛太は智恵に本気で泣かされていた。
ウシの首を扇ぎながら帰ると。
家が見える頃には消えてしまった。
「……本当に何だったんだ? アレ?」
ウシの首は消えたら消えたで
寛太に不快感を残したが。
「多分……」
智恵は語り出す。
「外でまごついていたら
命に関わる何かが有ったんじゃあないかな。
其れも暴走トラックか何か。
歩道でも青信号でも安心出来ないーみたいなの。
誰か襲ってくるとすると
「件」の首にビビるだろうし」
「って意地悪いな?!
外でまごつくも何も
彼の首立ち塞がっていたじゃあないか!」
寛太が愚痴ると。
「寛太。
首は立ち塞がれない」
智恵は即座に指摘する。
「揚げ足取らないでくれるうう?!」
寛太は妹に泣かされっ放しであった。
「……けど本当に彼の首消えたんだろうな?」
寛太は未だ安心出来ない様だが。
やはり智恵が補足する。
「多分。 「家」は誰もが絶対安心と思う空間だから
不吉なモノは存在出来ないとか。
けど実際は
家迄入り込むのが凶悪犯ってモノだけどね」
「……一番恐いのはニンゲンだなあ……?」
寛太が智恵の言に結論付けると。
「よく言われる事だあね。
結局「件」はキモチワルかっただけだし。
何か事が有ったとして
やっぱり原因はニンゲンだっただろうねえ」
智恵は更に応えて語る。
「家迄入り込む凶悪犯と言えばね。
オンナノコは玄関を開ける時には
必ず。
後ろを確認しないといけないんだ。
犯罪者が待ち構えていないかって」
「待ち構えるって……?」
寛太が嫌そうに聞き返すと。
智恵が答えるには。
「鍵を開けちゃったら。
家が逃げ込めない場所、に成っちゃうじゃない」
「……嫌な凶悪犯だな……?」
寛太は其う結論するしかないが。
「嫌だから凶悪犯なんでしょう。
寛太も気を付けなよ」
と智恵は注意する。
「いや俺男……!」
「ヒロイン枠(笑)のクセに」
「だから男は
其ういう事言われると心が抉られるからねえっっ?!」
智恵は平坦な声でいて鋭く急所を突き
やっぱり寛太は泣かされ続けていた。
兄妹が無事玄関を潜ると。
「あらお帰り♡」
レディーススーツの女性が出迎える。
女性も帰ってきたばかりの様だ。
「お母さんもお帰り」
智恵は基本無表情だというのに。
蕩ける様な甘い雰囲気が有った。
其のまま流れる様に抱き合う。
「一緒にご飯作ろ」
「ふふふ♡ 其うしましょう♡
……寛太くんは?」
母は片腕に智恵を抱いたまま
もう片腕を広げる。
母は。
艶やかな黒髪を肩甲骨迄伸ばしていて
女性としては長身な様だ。
寛太よりも背が高い。
腕を広げられた寛太は顔を顰める。
「男が其んな所に加われる訳ないだろ?」
すると母は微笑む。
「ふふふふふふふふふふふふふふふふふふ♡」
「何か恐いんだけどおおおおおおお?!」
寛太は恐怖した。
小話。
「智恵」とネット辞書で調べると何故か
「般若」へと転送されます。
「般若」って恐い顔の鬼じゃないの?!(大爆笑)
はいw! 「般若心経」なんて有る位なので
恐い鬼なだけじゃないのデスよね!
迚も賢いヒト? なのでしょう。
という訳で。
お後が宜しい様で。