繰り返される悪夢
いつだって同じだ
マンションの部屋が隣同士で同じ幼稚園・小学校・中学校とくれば嫌でも家族と同じレベルになる。中学生にもなって異性と登校していれば最初は冷やかされたものだったが、小学校の際に既にその洗礼は終えていたので無視していれば次第になくなっていった。
8:00
目を覚まし時間を確認して息を吐く。
今回こそは。
8:28
扉をあけて外にでれば、右側から驚いたような声がかかる
「あれ、早く出てくるなんて珍しいね」
「たまには良いだろ」
腹を壊したふりをして遅らせようとした時は先に行かれてしまってダメだった。それならばと少し早く出てみたが今回はどうだろうか。
8:32
マンションのまわりは住宅地が広がっている。大企業がこの地に誘致された際にマス目を引くように綺麗に立てられ始めたそれらにはやはりその企業の職員や関連企業の職員・家族が住んでいて。小学校や中学校も一気に大きくなったそうだ。
「今日の2限の英語の授業、まじやだよねぇ。ランダムに当てるから気抜けないし」
「抜かなきゃ良いだろ」
「毎時間気張ってたら死んじゃうよ!」
けらけらと笑ってスマホを振り回す彼女に毎回呆れながらも腹の底にじわりとした不安感が広がるのを抑えられない。
8:39
整備された広い4車線の道路脇を歩く。周りにも徐々に生徒が増えてくる。朝の出欠に厳しい教科の生徒はやや小走りになる時間だ。
「今日ねぇ、卵焼き甘くしてもらったんだ」
「珍しいな」
珍しくない。今日のこいつの弁当が甘い卵焼きだなんてもう知っている。
「ほら、好きって言ってたじゃん?ふと思い出してたまには食べてみよーかなって。1個分けてあげるね!」
その未来が、俺がずっと欲しいと願ってやまないもの。
8:44
時計を確認してマスクの下で奥歯をかみしめる。今回はどうくるのだろうか。何回か前は手前の弁当屋の看板が落ちてきた。だがもうそこは過ぎている。今回こそは。
「あ、信号変わっちゃう!」
「別に急がないだろ?」
『だめだめ!〇〇ちゃんに2限の宿題見せてあげるって約束したの!』
「?!待て!」
前回になかった台詞に反応が遅れた。駆け出した腕を掴もうとするがするりとすり抜ける。陸上部で長距離メインとはいえ、帰宅部の俺が単純に勝てるわけもなく。
8:45
クラクションの音と急ブレーキ音。それに続く重いものがぶつかるにぶい音。かん高い悲鳴。ざわめきが広がっていく。
「おい、トラックに撥ねられたぞ」
「あそこまで飛んでってる」
「無事か?」
「いやだめだろ」
今回もダメだった。どうして。何回も繰り返してるのに。
「次こそは助けるから」
次第に薄れゆく視界の中、ずっと助けられない君の名前を呼んだ。
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お題
「いつだって同じだ」で始まって、「君の名前を呼んだ」で終わる物語を書いて欲しいです。
可哀想な話だと嬉しいです。
作成:酒