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第二話 ふわふわの魔法

「会長ー、極楽院雪之丞生徒会長ー」

「フルネームで呼ぶの止めろや」

「じゃあ何て呼べばいいんですかー?」

「雪会長とでも呼べ」


こんにちは、栗尾根くりすです。

今日も私は生徒会室に来ています。別に生徒会が気に入った訳ではありませんが、基本的に会長しかおらず、うるさい人がいないのが良いですね。

「本が読みたいなら図書室に行きなよ……」

「図書室は図書室でうるさいんですよ」

そんな訳で、私は非常にまったりとした休み時間を過ごしていた。悪くないですね。

「あ、そうだ、くりす君、今日の放課後は時間あるかい?」

「別に、特に予定はありませんけど」

「だったら、今日はちょっと踏み込んだ魔法の研究をしないかい?一度徹底的に調べておきたいと思ってね」

魔法。それは私が今ここにいる主な理由だった。前回、猫を助けたことや何やかんやで発現したこの力だったが、確かにまだ分からないことも多かった。

「分かりました、やりましょう」

「決まりだね、それじゃあ、放課後待ってるよ」


「で、最初は何をやるんですか?」

「まぁまぁ、そう焦らないで」

放課後、私は再び生徒会室で会長と二人きりになっていた。相変わらず生徒会の他のメンバーには会えてません。まぁいいですけど。

「君の魔法を調べる前に、まずは私の魔法について知ってもらおうと思ってね。まだちゃんと話したこと無かったよね?」

確かに、会長の魔法についてはまだよく知らなかった。あまりこちらから聞いていいか分からなくて何となくスルーしていたのだが。

「まぁ、まずは言葉で説明するより、実際に見せた方が良いかな。くりす君、適当に何か喋ってくれないかな?そうだな、例えば、自己紹介とか」

「?分かりました」

うーん、と少し考えて、私は口を開いた。

「私の名前は栗尾根くりすです」

「はい」

「家族は父と母と私の三人家族です」

「はい」

「成績は中の中です」

「はい」

「好きな科目は国語です」

「はい」

「嫌いな科目は体育です」

「はい……ありがとうくりす君、もう大丈夫だよ」

ふふん、と鼻を鳴らしながら、会長は得意気な顔をしていた。

「くりす君、君は……一つだけ嘘を吐いたね?」

「えっ?」

私は、少し、ドキリ、とした。急に心の底が見透かされたような、背筋が凍るような感覚になった。

「これが私の魔法、『善悪の彼岸』さ。効果は、相手の言ったことが本当か嘘か見抜くことが出来る。あくまで本人がどう思ってるかが分かるだけなので、真実かどうかまでは分からないけどね。有効射程範囲は大体2〜3メートル、対象に出来るのは一人だけ、集中する必要があるので、複数人だったり、遠くにいる人のことまでは分からない。そんな感じかな」

成る程、これが会長の魔法なのか。

「要するにウソ発見器ですね?」

「『善悪の彼岸』な?次にウソ発見器言ったらしばくからな?」

「気にしてるんじゃないですか……」


「さて、お待ちかね、次は早速くりす君の魔法について調べていくわけだが、まずは有効射程範囲から確かめていこうか」

「それ、そんなに重要なんですか?」

「勿論だとも。いざというときに、射程外でした、では話にならない。自らの武器の性能はきちんと把握しておくべきだよ」

そんな訳で、私たちは一旦外に出て、お馴染みの校舎裏にやってきた。人目の付かない所となると、バリエーション減るなぁ!

「さて、ここに取り出したるはソフトボール部からくすねてきたソフトボール」

「何してるんすか会長」

「まぁまぁ、後で返すから。くりす君、まずはこのボールを浮かせてみてくれないかな?」

そう言って、会長はソフトボールを地面にそっと置いた。

よし来た、早速私は息を整え、頭の中のスイッチをカチッと入れた。

「(ボールよ、浮き上がれ!)」

そう私は念じると、ボールは、ふわふわ〜、と胸の高さくらいまで浮き上がった。成功だ。

「よし、じゃあそのまま、後ろに下がってみようか。勿論、ボールは浮かせたままな」

会長の指示に従い、私はゆっくりと後退りしていった。一歩、二歩、三歩……しばらくはボールには変化はなかった。しかし、十歩か十一歩だか過ぎたくらいで、変化が現れた。ボールは上下にブレながら段々と高度を下げていき、最後には地面に着地し動かなくなった。

「よし、くりす君、ちょっとそこで待っていてくれたまえよ」

そう言って会長は、ボールから私のところまで大股で歩いてきた。

「ふむ、大体5メートルといったところかな、水平の射程範囲は。それじゃあ次は、垂直はどうか見てみようか」

続いて、私はボールを手に持って、そのまま垂直に浮かせていった。ボールはぐんぐんと上昇していったが、ある地点を境に、ボールの動きは止まってしまった。

「成る程、正確な距離は分からないが、大体校舎の2階くらいの高さはありそうだね。やっぱり垂直も5メートルくらいかな?」

「人を上げて落としたとしても、死ぬかどうか微妙な高さですね」

「そういう使い方するのは止めような?よしんば上げたとしてもゆっくり下ろしてあげような?」

とにかく、私の魔法の有効射程範囲のイメージは、私を中心とした球状のような形のようだ。結構広いんじゃない?


「さて、私たちは再び生徒会室に戻ってきた訳だが」

「次は何をするんですか?」

「うむ、次は魔法の効果について詳しく調査しようと思う」

コホン、と咳払いをして、会長は改まった。

「くりす君、ここで一つ重要なお知らせがある」

「はぁ」

「魔法とは、基本的に一人につき一種類なんだ。今日はそれを明らかにしたい」

そう言って会長は、少し真剣な表情をした。つられて、私も少し背筋が伸びる。

「あれ、でも、私が今使える魔法は『物体を柔らかくする魔法』と『物体を浮かせる魔法』ですけど……?」

「そう、そこだ、発想を変えてみよう。今のくりす君は二種類の魔法が使えているように見えるが、実際は一つの魔法が形を変えて発現しているだけと考えられる」

「つまり?」

「魔法の本質が分かれば、更に応用が効くかもしれない、ということさ」

ふむ、私は今まで何となくの感覚で使ってきたけど、より魔法の理解が深まれば更に違う使い道も出てくるという訳か。

「それで、具体的にどうやって調べますか?」

「うん、実は私の中ではある程度予想しているものがあるのだが……くりす君、それを確かめるために、私に魔法をかけてくれないかな?」

「大丈夫ですか?浮くだけならともかく、会長のあらぬところが柔らかくなるかもしれませんよ?」

「そこは君の匙加減で何とかしてほしいところだが……まぁ、一定時間経てば戻るようだし、そんなに心配しなくてもいいよ」

そうですか、と私は納得して、会長に魔法をかけることにした。私は集中し、頭の中のスイッチを入れ、会長に向き合った。

「(柔らかくするでもなく、浮かせるでもなく……一体どうすればいいんだ?ええい、何でもいい、とにかく魔法よ、会長にかかれ!)」

私は、グッと力を入れ、会長に魔法がかかるところをイメージした。5秒たち、10秒たち……見た目には、会長に変化は見られなかった。

「あの、会長、ちゃんと魔法かかってます?」

「あぁ……かかってる、凄くかかってるよ!凄く良い気分だ!」

会長は、凄く晴れやかな笑顔をしていた。とても気持ち良さそうだ。

「あの、つまりどういう」

「うむ、これは恐らく、『凄く気分が良くなる魔法』だな!」

「えっ、何それ……怖」

人の精神に影響を及ぼす魔法ってこと?これはこれで使い道がありそうだが……今までの魔法との共通点がこれまたさっぱり分からないな。

「いや、良い感じだよ、くりす君。大分核心に迫ってきている。あともう一息だね」

「というと?」

「最後にもう一回実験しようか。最後に魔法をかけるもの、それは」

「それは?」

「料理だ!」


「さて、そんな訳で、私たちは料理部にやって来た訳だが」

「あっ、会長、お疲れさまで〜す!」

「会長、料理作ったんで食べていってくださいよ〜!」

私と会長は、突然調理実習室の料理部にお邪魔していた。料理部はそれなりに人数のいる部活のようだ。それと、会長は割と人気があるみたいですね。

「会長〜、後ろのその子は誰ですか〜?」

「ああ、彼女は新しく生徒会に入ったくりす君だ。みんなよろしくな」

「え〜、ちっちゃ〜い、可愛い〜」

「ちっちゃ〜い」

「ちっちゃ〜い」

うるせぇ、死ねばいいのに。

さて、そんなことはさておき、会長は小腹が空いた体で料理を少し分けてもらい、私と二人で部屋の隅で料理を頂くことにした。勿論、ただ料理を食べに来たのではない。

「さて、くりす君、ちょうどここに二皿料理を貰ってきた訳だが、片方だけに魔法をかけてくれるかな?」

大分コツを掴んで慣れてきたので、魔法をかけること自体は問題ない。一体何が起こるのかはさっぱり分からないのだが。

ちなみに、今回料理部が作ったのは、色とりどりの野菜が入ったオムレツだった。

「それじゃあ、かけますね」

そう言って、私は料理の一皿に魔法をかけた。相変わらず、見た目に変化はない。

「よし、それじゃあ早速食べてみよう。まずは魔法をかけてない方から……うむ、これは美味い。では次に魔法をかけた方を……」

会長は、順番にオムレツに箸をつけていった。そして、魔法をかけた方のオムレツを食べた瞬間、目を見開いた。

「こっ、これは……めっちゃ美味い!」

「本当ですか……?本当だ!元のも美味しいけど、魔法をかけた方が更に美味しくなってる!」

魔法をかけた方のオムレツが、舌触りが更に滑らかになっており、口の中でとろけるようだった。

「いいぞ、くりす君、これで私の予想が確信に変わったよ!」

「そうなんですか?私はまださっぱり分からないんですけど……」

そんなこんなで、私たちは料理を食べ終えた後、調理実習室を後にしたのだった。


「さて、くりす君、君の魔法について私は確信を得た。それを発表しよう」

生徒会室に戻ってきた私たちは、早速本題に入った。一体、私の魔法の本質とは。

「くりす君、君の魔法の発現形態はこれまで『物体を柔らかくする』、『物体を浮かせる』、『人を気持ちよくする』、『料理を美味しくする』だ。これらに共通すること、それは」

「それは?」

「『ふわふわ』だ」

「は?」

「『ふわふわ』だ」

「いや、聞こえてなかった訳じゃないです」

ふわふわ?それが私の魔法?

「そう、君は今まで『物体をふわふわに柔らかく』し、『物体をふわふわに浮かせ』、『人の気持ちをふわふわに』し、『料理をふわふわに』したんだ。それが君の魔法、『ふわふわ』の魔法だ」

ふわふわの魔法……何でもふわふわにしちゃう魔法ってことかな?しかし、何というか、締まらないネーミング……

「私も会長みたいに格好良い名前を付けたいんですけど」

「いいや、駄目だ。『ふわふわ』は君の魔法の本質だからね。名前を変えてしまっては本質を見失う」

「そんな〜」

私はしばらく駄々をこねてみたが、会長は頑として受け入れてくれなかった。おかげで、私の魔法は正式に『ふわふわ』となってしまった。そんなー。

そんな訳で、私の魔法の真実が明らかになったところで、本日はお開きとなった。


「やれやれ、何とも末恐ろしいな……」

くりすが下校した後、一人生徒会室に残った雪会長は誰に聞かせるでもなく呟いた。そう、これから話すことは、あくまで雪会長の独り言だ。

「『ふわふわ』の魔法……物理的な作用を及ぼすだけじゃなく、人の精神にまで影響を及ぼせる、更には調理済みの料理を理屈抜きで改変した。絶対本人は自分が何をしたのか分かってないだろうな……」

そう呟く会長の顔は、どこか嬉しそうでもあり、どこか悲しそうでもあった。

「理屈抜きの改変、これはつまり、世界のルールそのものの改変と言ってもいい。つまり、彼女の魔法は世界の概念すらも変化させる『概念魔法』だ。こんな魔法は、今までに見たことも聞いたこともない」

やれやれ、と会長は溜め息を吐き、ゆっくりと帰り支度を始めた。

「しかし真に恐ろしいのは、彼女自身がその魔法の遠大さに気がついてないことか。恐らく、彼女の魔法はこれからもまだまだ成長・進化する。果たして、その先にあるものは……」


「えっくし!誰か私の噂をしてるのかな……?」

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