海水浴後編/夏休みの終わり!
遅くなりました、40話です。
美優視点に戻ります。
未冬達が焼きそばを買いに行くのを見送ってしばらく、パラソル下で座り込む。
西条さんのアシストもあって、今、パラソルの下にはあたしと優陽とふたりしかいない。──そう、ふたりきりなのだ。
無意識にガッツポーズをした右手をほどいて、横目に優陽を覗き見る。
「美優…?」
「──ッ!」
一瞬だけ、目が合ったような気がして、慌てて首を海へ向ける。
──夏の海、年頃の男女がふたりきり。
たしかあの小説だと、こう…ゆっくり手を繋いだりなんかしたりして。今なら、あたしもできたりしちゃったり?なんて。
再び視線を動かして、優陽の横顔を盗み見る。
──落ち着けあたし。確かに今はふたりきり。だけどあたし達は幼馴染、今までも最近もふたりきりな場面はいくらでもあったはずよ。それに小学校くらいまでは普通に手を繋いでたし、今更、恥ずかしがるなんて…恥ずかしがる、なんて…
「なぁ美優」
「──ッ!?な、何!?」
伸ばしかけた手を引っ込めて、慌てて言葉を返す。
変な声が出ちゃったけど、大丈夫だよね…?
そんなあたしの心情も露知らず、こちらを覗き込んだ彼は、一瞬だけ首を傾げると、海の家へと視線を向け直す。
水面に反射した光が、目を細めた彼を照らす。その表情は何処か愉しげで、あたしの鼓動を強く揺らす。
…優陽を見ているだけでこれとか、我ながら単純すぎる気もするけど。
「今日はその…みんなを誘ってくれてありがとな」
雑音に紛れ、でも確かに聞こえたそんな声。微かに耳を赤らめ、鼻下を擦った彼は、いきなり立ち上がると、「あ゙ー」と重い息を吐く。
「…なんだよ」
「べっつにー?なんでもないけどー?」
「はぁ?なんでもってお前、絶対なんかある時の言い方だろ美優!」
無意識に笑みがこぼれていたのだろうか。訝しげに向けられた視線を躱して、パラソルの裏へと隠れる。
長年幼馴染だったあたしにはわかる。優陽は今、照れているのだ…!
久しく、未冬関係無くなったこの状況が何故かとても嬉しくて、追いかけ回す彼から逃げて、パラソル周りをぐるぐる回る。
夏の海、浜辺で駆ける高校生の男女──これってすごくカップルっぽいのでは…!?
どちらともなく始まった2人鬼ごっこが終わり、互いに息が上がりはじめた頃。
不意に立ち止まった優陽は、荷物に括り付けた腕時計を見ると、しきりに周囲を見渡し出す。
「優陽?」
「あ、いや…ふゆ達遅いなって」
促されるように時計を見て、思わず口元をピクリと動かす。
時計の針は既に2時過ぎ。
優陽が目覚めてからもう1時間半は経っているし、いくら昼時のピークとはいえ、流石に遅い時間に思える。
「とりあえず、ふゆ達に連絡を──」
優陽がスマホを弄ると、荷物の山から聞き慣れた未冬のモノの着信音が流れ出す。
「ふゆのヤツ…」
「あ、あはは…」
どちらともなく顔を見合わせて、乾いた息を吐く。
…まぁ、たしかに未冬だしやりかねないけども。まさかこんな外でスマホを置いていくとは流石のあたしも予想ができないのよ。
仕方なく、優陽はおっぱい女、あたしが西条さんにそれぞれ通話を入れようとした刹那。海の家へと向かう岩場近くで、男に囲まれた女3人組が視界に入る。
──って、あの3人はどう見ても未冬達では?
「ねぇ優陽──優陽!?」
あたしが話しかけるのとほぼ同時に、砂を蹴って駆け出した優陽。ボスッという彼のスマホが埋もれる音と共に、その姿は小さくなっていく。
遠目に見る感じ、3人はどうやら戻る途中でナンパ集団に絡まれたらしい。…まぁ、今は西条さんの後ろに隠れてるとはいえ、未冬がいるから心配はないと思うけど。
砂まみれになった優陽のスマホを回収して、無意識に口から息が漏れる。
案の定、というか。優陽が3人の元に辿り着きそうになった瞬間、絡んでいた大男の1人が、文字通り逆さまに投げ飛ばされた。
ーーー
──ガタゴト、ガタゴトと。
帰りの電車のボックス席にて。夕陽に染まった景色が、映し出されては消えていく。
ふと向かいの席に視線を戻すと、西条さんとおっぱい女が、寄りかかるように眠っている。おっぱい女はともかく、西条さんは学校にいた時よりも張り切っていたしね。遊び疲れたのも無理はないのかもしれない。
…それはそうと──
「未冬…貴女どうしてそんなに元気なのよ」
んー?、と。あたしの言葉に首を傾げ、愉しそうに鼻歌を再開する未冬。普段学校ではほとんど寝ている彼女だけど、小さい頃からの体力オバケは未だに健在らしい。
静かに息を吐いて、離れた席に寝ている優陽へと、視線を向ける。
そんなあたしの視線に気付いたのか、未冬は歌っていた音を止めると、優陽を一瞥してこちらを覗き込んでくる。
「ユミちゃんユミちゃん」
「また間違ってるぞー」
「それでミユちゃんはユウヤと進展あった!?」
吹き出しそうになった口元を抑えて、反射的に睨みつける。
にんまりと、そして唐突に言葉を発した彼女は、そんなあたしの表情を見て察したのか、あからさまに肩を落とす。
相変わらず、こういう時だけ察しのいい…
「…悪かったわね」
「あー…いやー…うん、まぁそんな時もあるよ!ね!」
絶対そんなこと思ってないじゃん、なんて言葉を飲み込んで、取り繕って息を吐く。
未冬と西条さんがお膳立てしてくれたのは知ってるし、もちろんあたしだってこうなるつもりは無かったのよ。でも──
「未冬のせいってこともあるからね」
「ぇ!?なんで!?」
「いやなんでって…未冬貴女、お昼にナンパされてたでしょ?優陽はそっちを気にしてたのよ」
「あー…ぇー?ちょっとスマホ忘れただけじゃん」
「だから、でしょ?ほら、おっぱい女は未冬と違ってああいうの慣れてなさそうだし、連絡取れなかったらそれはね?」
「ぅー、たしかに…?」
ピンと来ていない彼女の声に、再び息を吐き捨てる。
…優陽も本当は、未冬をおもって飛び出したんだろうけどね。それを認めるのはなんか癪だし、一先ずはそういうことにしておこう。うん。まぁ、優陽はあたしと違って未冬と2人で出かけたことが無かったってわかっただけヨシ、なのかな…?
ただの正当防衛だったのに、と。ブツブツ呟く未冬は他所に、オレンジ色の差す外へと視線を戻す。
なんだかんだ、今日は楽しかったしね。
残りの夏休みを想像して、あたしは心の中で拳を突き上げた。
夏休み編は終わりです。
夏祭りとか、期末試験とか、そういうのは全部すっ飛ばして次回からは修学旅行編になります。




