お出掛け!海!
38話です。
優陽とあたしのデート──もとい、未冬とのデートの予行練習当日。
優陽の「二人きりのデートで未冬をエスコートしたい」という、理由が理由なデートではあるものの、家を出たあたしの足は羽根のように軽く集合場所へとひとりでに向かい行く。
イベント事に誘ってほしいと言質をとったやり取りから数日。連絡のついた未冬とすり合わせ、彼女がこちらに帰ってくる明後日に合わせて、3日後に海水浴を控えたあたし達。
物理的に未冬がいない現状をこれ幸いにと、件のことで優陽を誘い出したあたしは、水着代etcの入ったポシェットを握り締めると、日陰になった謎のオブジェを前に、周囲の人だかりに視線を配る。
「悪い美優、遅れた」
靄かかる人の流れを追いかけている中、不意にかけられた申し訳無さそうな声。
その音源へ振り返ると、汗を垂らしながら肩で息をする優陽が両手を合わせてこうべをたらしている。
「デートで相手を待たせるのは厳禁!──って、言いたいところだけど。まずは…はいこれ」
「…?これは?」
「見ての通りハンドタオルよ。まさか、そんな汗だらけのその姿でデートなんてしないでしょ?」
「あ、あはは…たしかに。悪い、借りる」
ポシェットから取り出したあたしのハンドタオルを受け取って、顔周りの汗を拭き取る優陽。
少しだけ待たされたのは癪だけど、息を切らすくらい急いで走ってきたみたいだし、少しだけ頬が綻びかけたのはここだけの秘密。…こんな事もあろうかと念の為持ってきておいてよかった。
「ありがとう、助かったよ美優」
「ふふっ、そうでしょ?デートするならちゃんと備えておかないとね」
何処か気恥ずかしそうにそう言って、頭をポリポリとかく優陽。
あたしは少しだけ自慢気にそう返すと、彼に向かって右手を伸ばす。
「あの、美優?この手は一体…?」
「今日は一応『デート』なんでしょ?だから、エスコートはお願い、ね?」
困惑する彼を他所に、目一杯の笑みを浮かべてそう返す。
そう、例え練習であろうとこれは正真正銘デートなのだ。合法的に…そう合法的に、手を繋いだりそれで恋人と誤解されたとしても何も問題はない…!
おずおずと、若干汗ばんだ手で握ってくる優陽に、あたしは指を絡めて返すと、より軽い足取りでショッピングモール内へと身体を動かした。
ーーー
ザサン──ザサン──と。耳心地良い音と共に香る、普段は触れぬ潮の匂い。
照り返す光が水面を輝かせながら、日焼け止めをしたあたしの肌をジリジリと焼いていく。
優陽との仮デートから早3日。未冬との計画通り、地元から電車で乗り継ぎ海へとやってきたあたし達。
見渡す限り子連れやカップルが騒ぐ海岸にて、ビーチサンダルを履いた足をその砂浜へと侵入させる。
「うひゃー…やっぱり人がいっぱいだぁ…」
ポツリ、と。あたしの影から聞こえた若干怯えた呟く声。ふと振り返ると、あたしの裾口を摘んだパーカーにホットパンツ姿の未冬が、麦わら帽子に隠れた顔でこちらを覗き込んでいる。
「アハハ…まぁ夏の海ですしね。みんな考えることは同じだし、しょうがないで気もします」
「…?私の知ってる海はもっと人が少なかった気がしますが…」
「それはほら、西条さんの家がちょっと普通じゃないだけですから…」
未冬の後ろから聞こえてくる、優陽でも未冬でもないそんな話し声。
…本当は幼馴染3人で来てもよかったんだけど、『優陽の想い人=おっぱい女』と勘違いしている未冬が優陽の恋路に協力する素振りを、と誘ったおっぱい女と、体裁的にカモフラージュも兼ねてあたしが誘った西条さん。快諾し純粋に楽しみにしてくれた友人を前に、こういう裏事情で誘ってしまったのは、今更ながらちょっと罪悪感もある。
なにはともあれ、海へとやってきたあたし達5人は、砂浜を踏むなり荷物を置くと、優陽の地面に刺したパラソルを拠点にビニルシートを広げていく。
「荷物よし!パラソルよし!──ヨシ!それじゃあ、今日は海を楽しむぞーっ!」
パラソルの真下で、爽やかな笑顔をそう言い放つ優陽。右腕を掲げ、オー!と声を上げる彼に倣って、あたしと未冬はノリノリで、おっぱい女と西条さんは困惑気味に、各々腕を掲げ掛け声を言い返す。
2人追加でいるとはいえ、数年ぶりの幼馴染同士での海水浴。到着時からしばらく経ち、身内ノリにまで回復した未冬は、あたしと優陽の間を忙しなく動き回ると、鞄の中からビニルボールや浮き輪を取り出し膨らませはじめる。
…そういえば、最後に3人で一緒に来たのは思春期前だっけ。目的が別にあるとはいえ、中学時代の水泳の授業すら出なかった未冬が、こうして水(ここは海だけど)に嬉々として触れようとしてるのもなんか久しぶりな気がする。
「えっと…真田さん、井口さん」
「ん?」
微笑ましく未冬を眺めたあたし達の背後から、不意に声をかけてきた西条さん。
どうした?と、首を傾げる優陽を他所に、おっぱい女を一瞥した彼女は、荷物とあたしを交互に見ると、ゆっくりと口を開ける。
「ひとまず水着に着替えませんか…?」
「「あっ」」
未冬を見て失念していた、あたしと優陽の声が重なる。
横で頷くおっぱい女はともかく、流石に男子である優陽の前で水着関連を口にするのは抵抗があったのか、西条さんは少し俯きがちに彼から視線を逸らす。
よく考え無くても私服姿のあたし達。「何を見てヨシって言ったんですか」と呟く優陽を他所に、あたしは暑さとは別に顔が熱くなるのを感じると、切り替えるように首を振って、浮き輪を膨らませる未冬の背中をトントンと叩く。
「んぁ?ミユちゃんどしたの?」
「どしたのって…水着に着替えるよ、未冬。流石に私服のままじゃ遊べないでしょ」
かしげた首を動かして、海と自身を交互に見比べる未冬。何を思い至ったのか、大きく口を開けた彼女は、不意に自身のホットパンツへと手をかけると、それをずり下ろそうと──
「──未冬!?」
「──ストップストーップ!」
慌てて声を上げて、同様に飛び出したおっぱい女と共に未冬の腕を取り押さえる。
…優陽が目を見開いてる気がするけど、ひとまずそれは後回し。
同じことを考えていたのか、目が合ったおっぱい女とどちらともなく頷き合うと、未冬を引き摺るようにして直ちにその場から離脱する。
「ミユちゃんもヤベちゃんも、いきなりなにするのさ!?」
「いきなりってそれはこっちの台詞でしょ馬鹿未冬!」
海の家近くの岩陰にて、声をあげる未冬の肩を揺さぶって、勢いのまま早口叫ぶ吐く。
一瞬ビクリと反応して、不服そうにこちらを見る彼女を前に、あたしは再び出たため息を漏らすと、傍らにいるおっぱい女へと目配せをする。
あたしと目が合うなり、コクリと頷くおっぱい女。きっとあたしの意図は伝わっているのだろう。
ホントはあまり頼りたくないけど、この際は仕方ない、よね…?
まだ遊んでもないのに重い体を地面に落として、大きく息を吐き捨てる。
「暁さん、どうして突然脱ごうと?」
「うー…だって水着下に着てるし、全部脱ぐわけじゃないから別にいいかなって…」
どちらともなく、再度ため息を吐くあたしとおっぱい女。
案の定というか、数年越しの今日も下に水着を着てくるのは未冬らしいっちゃ未冬らしいんだけど…
「あのね、ここは海であってプールじゃないのよ未冬。プールの時はちゃんと更衣室で着替えてたでしょ」
「それは、たしかに…」
「たとえ暁さんがよくても、ここは不特定多数に見られる海ですからね…真田さんの言う通り、ここにもちゃんと更衣室はありますし、そこをしっかり利用しましょう、ね?」
コクリと頷く未冬を見送って、幾度目のため息を吐くあたし達。
麦わら帽子を深く被り直し、おずおずと着いてくる彼女と共に、着替えの入った最小限の荷物を持った西条さんと合流したあたし達は、更衣室のある海の家へと歩き出す。
なにはともあれ、夏休み定番の海水浴!
優陽と一緒に買ったこの水着で今日はいっぱい楽しむぞ!
未冬の服装はすぐに脱げることを前提としたスタイル、西条さんは可憐な白ワンピース姿(+日傘装備)、ほか2人はまぁいつも通りのちょっと気合の入った服装をイメージしてます。
水着を下に着ていくと下着持ってき忘れてノーパンで帰らなきゃいけなくなったってこと起きるよね…
次回は一応水着回、優陽視点です。




