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体育祭が始まる…

31話、今回も短めです

「───が───なので!───ましょう!」


 チャイムが鳴り始めると同時に終わる、担任(ロリ教師)の長くどうでもいい話。要約すると、『来年は受験でそれどころじゃないから、今日は悔いのないように全力で楽しもう』って感じ。

 そんな彼女の話はともかく、あたしはしばし周りを見渡して、小さくため息を吐く。


「見当たりませんか?」

「うん…」


 隣から顔を覗かせた西条さんに、そう言って手に持ったリボンを見せる。

 ほんの一瞬だけ、明らかに残念そうにした彼女は、すぐさまブンブンと首を振ると、頬杖をついて正面に向き直る。


「せっかく作ってきたのに…」


 彼女のそんな独り言は、いよいよ始まる体育祭のファンファーレによって静かにかき消された。



ーーー



 プログラム序盤の障害物競走と100メートル走が終わり、いよいよ昼前最後の種目である騎馬戦の始まる合図がなる。

 未だに出番の無いあたしや優陽は、そんなクラスの人達を遠目に、テント下の応援席にずっと座っている。


「いっけー!そこです!あぁっ!?よし!その調子です!──」


 競技が始まると同時に、真横の席を立って普段聞かないような大声を上げる西条さん。

 彼女の目線の先には、彼女が用意したリボンで統一された女子達が、他クラスの騎馬とぶつかり合っている。


 …なるほど、これは確かに士気が上がりそうね。


 心の中でそう呟いて、ふと向かいのテントが目に入る。


「未冬…?」

「え?」


 口から漏れ出ていたのか、期待した瞳でこちらへ振り返る優陽。

 あたしの見間違いじゃなければ、騎馬で隠れた先のベンチに、未冬が座っていた。

 確実に理由が違うとは言え、未冬を探していた彼の心情をなんとなく理解して、あたしは奥歯を噛み締める。


「ごめん西条さん、あたしちょっと席離れるね」


 ──とにかく今はこれリボンを渡そう、うん。


 尚も応援で気付かぬ彼女にそう言って、あたしはそっとその席から立ち上がる。


 あたしは、こちらを見つめる優陽を横目でそっと確認すると、逃げるようにしてその場を後にした。



ーーー



 騎馬戦がいよいよ終わりを迎える頃、あたしは声援の響く応援席の裏を通って、向かいにあった救護テントへと向かう。


「未冬ー…?」


 無意味に口から漏れた、あたしのそんな声。

 まぁ、周囲の声援によって掻き消えるけど。


 …にしても救護テント、ね。

 たしかに、未冬は保健委員会だし、手伝いとしてそっちにいてもおかしな話じゃないはず。

 …本人が言っていなかったとはいえ、今の今までそれに気付かなかったあたしもあたしなんだけど。


 ようやく救護テントに近づいて、あたしはそっと中を覗き込む。


「あ、ミユちゃん!」


 …冷房器具でもあるのだろうか?

 涼しい風があたしの顔にかかるのと同時に、目があった未冬はそう言って立ち上がる。


「ミユちゃんも怪我?─あ、でも出場競技まだだしもしかして熱中症気味とか?」

「あ、いや…」

「ちょっと待ってて!…えっと、はいこれ!」


 駆け寄るなりそう言って、濡れたタオルを首元に近付けてくる未冬。

 ひんやりとしたそれは、妙に火照ったあたしの体をじんわりと冷やしていく。


「どう?落ち着いた?」

「あぁー…うん」


 ホッと安堵したように息を吐き、あたしをテント内のベンチに腰掛けさせる未冬。

 手慣れた手付きでそれを行う彼女に、あたしは妙にに冷静になった頭をそっと動かすと、意味もなく口から息を吐く。


「ミユちゃん?」

「あー…いやぁ、気付いたら未冬がいなかったからさ、探してたのよ」

「私を探して…?──あっ…ごめんミユちゃん!優陽と2人にしようと思ってこっちに来てたんだけど、一言くらい連絡しとけばよかったね、ごめん…」


 涼しい空気が立ち込める中、申し訳なさそうに手を合わせて、こちらに頭を下げる未冬。


 着替えてから見えなかった、彼女の行方。

 ふたを開けてみればなんてこと無いいつもの未冬で、その上わざわざ優陽と2人にさせようとしていたらしい。

 こちらを覗き込む彼女を前に、あたしは濡れタオルで顔に垂れる汗をそっと拭うと、回っていなかった自分の思考を全てこの暑さのせいにしようと思った。

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