男の想い(4)
30話、優陽視点になります。
体育祭当日の、高校のグラウンド。
着替え終わった俺は、設営されたテントの下で、もやっとした周囲の景色をぼーっと眺めている。
「よ、井口!何見てなんだ?」
妙にテンションの高い声と共に背中に手を置かれ、田中が背後から顔を突き出して来る。
「んだよ田中、別に何もねえよ」
「またまた〜…あ、わかった!また暁さんの─」
「違う!」
「そんな恥ずかしがんなって〜な?俺とお前の仲じゃないか〜」
「えぇぃ、暑苦しいわ!」
ベタベタと絡みつく田中を引き剥がして、思わずそう言って立ち上がる。
…ふゆや美優ならともかく、何が楽しくてこんな暑い中野郎とからなにゃいかんのだ。
俺は水筒を取り出すと、中に入った水の口に含んで、再び椅子に座り直す。
グラウンドの時計は8時50分を指し、いよいよ運営席が慌ただしくなっている様子が見える。
ふと背後に視線を向けると、うちのクラスもほとんど全員が既に集まっていた。
「あれ、今日も暁さん来ない感じ?」
「ぇ?」
田中の声に目を開けて、思わず密集してるクラスの奴らを眺める。
確かに、いない。
集団はともかく、どこかでひっそりと座ってるかと思ったけど、特にそういう姿は見受けられない。
…いやまぁ、ふゆのことだし、何か別のことでもしてるんだろう。うん。きっとそうだ。
「一緒に登校してきたし、確実に来てるはずなんだが…」
「ふーん…」
「あ、お前…違うぞ?あれは美優も一緒だったし、お前が想像してるようなことは──」
「ふぅーーーん…ま、別に俺は何も言ってないんだけどな。俺がどんな想像をしてるって?」
「────っ」
戻した視界に映る、隣でニヤニヤと笑う田中の姿。
俺は思わず俯いて、熱くなる目元を両手で抑える。
「あ、いたいた優陽…ってなにしてんの?」
ふとそんな声が聴こえて、指の隙間から外を覗く。
横にいたはずの田中はいつの間にかいなくなっていて、代わりに美優がこちらを覗き込むようにして首を傾げている。
「いや、なんでもない…」
「そう?ならいいんだけど」
軽い口調でそう言って、隣の椅子に腰掛ける美優。
彼女は、クラスの集団をゆっくり見回すと、髪に付けてるのと同じリボンを手元で弄って──
「リボン?」
「え?」
無意識に口から漏れていたのだろう、美優の反応を前にして、反射的に顔を逸らす。
「あっいや、そのリボン朝つけてなかったなと思って…」
無意識的にそう続けて、流れ出す沈黙の時間。
まずい…いくら美優相手とはいえ、流石にこれは気持ち悪いか…?
恐る恐る瞼を開けて、静かな彼女を一瞥する。
「…美優?」
俯く姿を目にして、思わず彼女の名前を呼ぶ。
こちらからは表情は見えない、が…耳も赤いし羞恥に襲われているのだろう。きっと後でデリカシーが無いとかキレられるな、うん。ここはそう、なんとか誤摩化して──
「い、いやそのリボン似合ってると思ってな?普段そういうの付けないから、より可愛く見えたと言いますか…」
「……ふ〜〜〜ん」
「えっと、だからそういうのも悪くないかなーって…」
再び流れる沈黙の時間。
しばらくうつむいていた美優は、意外にも何もせず後ろを向くと、ゆっくりと深呼吸をしているように見える。
…いつもと反応違ったけど、なんとか誤魔化せた、のか?
「はいはーい!皆さん注目!」
不意にバンバンと叩く音がして、テント内に響いた担任の声。
彼女の言葉に状況を把握したのか、固まっていたクラスの人達は次々と並んだ自身の席へと戻り座る。
「あ、優陽…」
「悪い。また後で、な?」
何か言いかけた美優にそう言って、周りに合わせて席に座る。
結局何を言おうとしてたのかはわからなかったが…まぁ、後でもいいだろう。
俺は始まった担任の演説をそのまま聞き流すと、未だに空いているふゆの席をぼーっと眺めた。




