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体育祭が始まるみたい

 遅くなりました、29話です。

「完・全・復・活ッ!」


 体育祭当日の朝。いつものように未冬宅で合流するなり、両腕を広げて高らかにそう宣言する未冬。

 …いや、7時半とはいえまだ朝なんだけど?流石に近所迷惑なのでは?


「ちょっとユミちゃん、反応うすいよ!」

「うすいって言われても朝だし…あと私はユミじゃない」


 小さくため息を吐いて、踵を返して歩き出す。

 …病み上がりとはいえ、この態度を見るにどうやら言葉通りに全快したらしい。一週間近く休んだから心配してたけど、ちょっと拍子抜けかな。


 そんなことを考えて、家前の生活道路へと戻り足を止める。



 …思えば未冬がダウンしてたこの6日間、せっかくのチャンスだというのにあたしと優陽の関係は一向に進んでない。

 それどころか、優陽はいつも以上にずっと未冬のことを考えていたし、あたしですら知らないうちにお見舞いにも行っていたらしい。

 …もし、弱ってた未冬がそれで心変わりでもしていたら?


「っ…」


 嫌な妄想が頭を過って、思わず後ろへ振り返る。

 開けられた扉の向こうでは、靴紐を結ぶ未冬の姿が目に映る。


「お姉ちゃん、お弁当忘れてるよ」

「おっとぉ!?危ない危ない…ありがとシュウちゃん」


 不意に奥から顔を出して、未冬の鞄に袋を突っ込む秋過(未冬の弟)

 おどけたようにそう言う未冬を他所に、彼は一瞬あたしと視線が合うとペコリと会釈をしてくれる。


「それじゃ、行ってきますー」

「はいはい、いってらっしゃい。無理しないでねお姉ちゃん」


 一瞬抱擁を交わし、そう言って別れる姉弟。

 何も変わらないそんな1週間ぶりな光景。

 目の前のある意味異常な2人の姿を目に、あたしは引っかかっていたものが取れるような感覚を覚えると、思わず息を吐いた。



ーーー



「真田さん真田さん」


 体育祭が始まるまであと30分。あたしが更衣室で着替えていると、不意に背後から声がかけられる。


「おはよう西条さん」

「はい!おはようございます!」


 いつもに増して元気よく、鞄を置くなり挨拶をする西条さん。

 何かいいことがあったのだろう。彼女は鼻歌交じりに制服を脱ぐと、流れるようにジャージ姿へと着替えていく。


「西条さん」

「はい!」

「何かいいことでもあったの?」

「─!」


 あたしが言葉をふったその瞬間、待ってましたと言わんばかりにその目を輝かせる西条さん。

 とっくに着替え終わった彼女は、無造作に制服を鞄に詰め込むと、ズイっとこちらに身体を乗り出してくる。


「ちょ、ちか─」

「よくぞ聞いてくださいました真田さん!実はですね、私今日こんなものをようしまして──」

「近い!近いよ西条さん!─わかった、わかったから一端離れて」


 どうどうと、思わず彼女を引き剥がして、何度目かもわからない息を吐く。

 いつかの未冬のようにテンションの高い彼女は、一拍開けて向き直ると、不意にその手を突き出してきた。


「あのー…西条さん?」

「と、とにかく手を出してください真田さん!ほら、はやく!」

「…?」


 よくわからないまま差し出して、手の上に乗せられた何か柔らかい感触。

 ふと視線を落とすと、可愛らしい桃色のリボンが2つ、あたしの手に乗せられている。


「体育祭用に作ったリボンです!せっかくのチーム戦ですし、女子みんなで校則に引っかからない程度に何か統一しようと思いまして…」


 何処か懇願するような目付きで、純粋にこちらを見つめる西条さん。

 チラリと視線を周囲へ向けると、たしかに西条さんを含めてクラスの人はみんな何処かしらにこのリボンを身に着けている。

 …まぁ、少し恥ずかしいとはいえ、せっかくの体育祭だもんね。

 言い聞かせるように脳内でそう言って、束ねてあった髪にリボンの一つを結ぶ。


「どうかな?変じゃない?」

「そんなまさか!…あ、そのもう一つは暁さんに渡していただけませんか?」

「未冬に?別にいいけど自分で渡せば…」

「いやはや、最初は他の皆さん同様に渡そうと思ったんですけどね…私が登校した時にはもう着替え終わって出てしまったみたいで…」


 成る程?彼女の言う通り、室内を見渡してもいたはずの未冬の姿は目に入らない。

 確かに一緒に着替え始めたはずだけど、ロッカーの様子的にもう着替え終わって出ていったのだろう。楽しみにしていたしテンションが上がっていたのか、或いは委員会関係か…とにかく、渡せていないのは未冬だけなのだろう。なら、1番仲の良いあたしに預けるのがやっぱり妥当かも。


「それであたしに、ね。おっけー、そういうことなら後で渡しとくよ」

「よろしくお願いします!」


 元気よくそう言って、鞄をロッカーに詰め込む西条さん。

 あたしは、鏡に映ったリボンを着けた自分を静かに見つめると、渡されたリボンをそっと握りしめた。

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