予想外の不安もある
今回も短めです。
委員会の時間が始まって、その他の生徒達が次々と帰路につく。
いつものように、エントランス窓際のベンチに腰掛けたあたしは、手に持った紙袋を目に大きくため息を吐いた。
「なんでこんなこと引き受けてるんだろ…」
紙袋の中を覗けば、汗を吸った「井口」と刺繍のあるジャージが目に入る。
「はぁ…」
ことの発端はそう、あの体育の時間だ。
あのとき話しかけた1年生の娘が着ていたのは、案の定優陽のジャージだったのだ。…彼女曰く、この前怪我をした時に渡されたのをそのままにしてしまった、と。
確かに優陽の性格ならそんな状況で渡しててもおかしな話ではないし、そうしなかったらしなかったで別人を疑うまである。
閑話休題。
仮に破れたジャージのことを忘れていたとして、わざわざ優陽の──男子のジャージをそのまま着るのだろうか?
あの娘の顔を思い出して、あたしは紙袋を鞄に戻す。
「…このまま渡すわけにもいかないもんね」
言い聞かせるように呟いて、無意識に口からため息が漏れる。
暑がりな優陽のことだし着るような心配は無いとはいえ、流石にあの娘の汗が染みたコレを直接渡すわけにはいかないだろう。
いつものように事情を話して、洗って返せばいい。
未冬が言っていた『手を繋いで』いた娘も十中八九あの娘のことだろう。女の勘は鋭いのだ。同じ男が好きな者同士なら尚更、ね。
「はぁ…」
本日何度目かもわからないため息。
きっと本人は否定するだろうけど、優陽は昔からああなのだ。気付いたらまた新しい女が現れてる。
…まぁ、とっくの昔に堕とされてるあたしが言えたことじゃないんだけど。
現実逃避するように手を伸ばして、鞄から件の小説を無造作に手に取る。
…現実は小説よりも奇なり、ってね。もしかしたら、あたしの恋路はこの小説よりも波乱に満ちているのかもしれない。
「…なわけないか」
ひとりでに呟いて、ふと視線を廊下に向ける。
どうやら、委員会が終わりはじめたみたいね。
動き出した人の流れを見て、小説を鞄にしまい込む。視界の端に未冬が映り込んだ。
「未冬?」
「あ、ユミちゃん…」
何処か気怠げにそう言って、あたしの元へ向かってくる未冬。
傍らにいた男子が名残惜しそうにしているけど…まぁ、無視でいいだろう。
「大丈夫?」
「一応…」
なにが「一応」だ、この馬鹿は。
あたしは優陽に一通入れると、自分の鞄を拾い上げた。
空元気ってすごいよね。どんなに軽くても反動で一週間近く動けなくなるし。




