ちょっと引っかかる…
26話です。お納めください。
「ミユちゃんミユちゃん!大変なことになっちゃったかも!?」
授業終わりのチャイムが鳴り始めるや否や、ぴょんぴょんと跳ねながらこちらに駆け寄る未冬。
一体何が大変なんだろうか?
言葉の意図を図りかねて、あたしは未冬に視線を向ける。
「…で、何が『大変なこと』なのよ未冬。もしかしてこの後小テストがあるとか?」
「え!?小テスト!?…って違うよミユちゃん!ユウヤが!ユウヤが!」
「はいはい、落ち着きなさいよ未冬。ちゃんと聞いてるから、ね?」
未冬の肩に手を置いて、抑えるようにその背中を擦る。
優陽関連なのはわかるけど、『大変』と言われる程の検討はつかない。
そもそも、ずっと見てたはずなのに、綱引きが終わったあたりから一度も優陽を見かけてない。タイミングから多分、手を洗いに行ったんだと思うけど…たしかに、いくらなんでも長すぎるかも。
更衣室に向かう波に乗りながら、あたし達は肩を並べて歩き出す。
「…落ち着いた?」
「うん…」
「それで、優陽に何かあったの?あたしは綱引きまでしか見れてないんだけど…」
あたしがそこまで言葉を並べて、「あー…」と考えるような声を上げる未冬。
彼女は一瞬視線を泳がすと、納得したように一人頷いて、耳打ちするように口を近づける。
「その、さっきね?優陽が1年生の娘と手を繋いで保健室から出てくるところを見ちゃってさ…あ、でも一瞬だったからね?もしかしたら私の見間違いかm──」
「──は?」
自分でもびっくりするようなドスの効いた低い声。思わず立ち止まってしまって、未冬の方へと視線を戻す。
優陽が、保健室で…?
いや、うん。怪我人がいたらほっとけなくて保健室に連れて行くのはわかる。優陽はそういう人だから。…でも、『手を繋いで』…?おんぶなら百歩譲って許せるけど、『手を繋いで』?どうしたら手を繋ぐ必要があるのかしら?
「ミユちゃん?ミユちゃーん?ちょっとー…?あの、そろそろ手を離してくれないかなって…いい加減肩が──痛ッ!?ミユちゃん?痛いから、ね?おーい」
未冬の声が耳に入るはずもなく、あたしは頭の中に浮かんだ1年の小娘に対する怒りを前に、握りしめた手にギリギリと力を込めた。
ーーー
例の体育の日から早一週間。
今日の体育の授業は、雨の影響で男女別に体育館を使うことになった。
…別に、優陽と同じ空間じゃないことに寂しさを覚えていたわけではない。うん。
「真田さん、どうかしたんですか?」
あたしの顔を覗き込むようにして、不思議そうにこちらを見上げる西条さん。
…どこから見られていたんだろう?
あたしは組んでいた腕を咄嗟に解くと、軽く手を挙げて笑みを作る。
「あ、あはは…なんでもないなんでもない。なんでもないよ、本当に…」
「そう…ですか?」
「うん、そうなんだよ」
「うーん…とりあえず、そういうことにしておきますね」
スッと姿勢を元に戻して、微笑返してきた西条さん。
さすがに笑い方がぎこちなかった…?
なんとなく思考がバレたような気がして、そっと視線を彼女から逸らす。
どうやら向こうでは、1年生が騎馬戦の練習をしているらしい。
「…ん?」
ふと、視界に映った姿を前にあたしは思わず目を擦る。
見学している1年生の中に、2年生のジャージを着た子が1人混ざってる。
「ねぇ西条さん。あの子、2年のジャージ着てない?」
「えっ?…あぁ、本当ですね。サイズも大きいみたいですし、私達と同じというよりは私達の入れ替わりの代…彼女からすれば4つ上のお兄様からの御下がりでしょうか?」
「はは…よくわかるねそんなこと」
西条さんの言う通り、たしかに御下がりを着るような人もいるし、そういう人もいるだろう。…ただ、そのジャージのほつれ具合を見て、あたしは何やら心がざわつく感じがした。




