男の想い(3)
遅くなってすみません。
25話、優陽視点です。
気付けば体育祭も来週に控えた6月の最終週。
体育の授業ではその練習が主となり、普段男女別だったせいか、男子達は妙に色めき立っている。
「なぁ井口…お前、暁さんと仲いいよな?もしかして付き合ってたりするのか?」
「─ッ…ゴホッ…ケホッ…はぁ?」
綱引きの待機列に並んでいる中、突然隣から聞こえたその声に、俺は思わず咳き込んでしまう。
──俺と未冬が付き合ってる…?
何度も妄想したが、別にそんな事実はどこにもない。
どうしょうもなくニヤけた顔を抑えながら、視線を声のした方へと向ける。
「な、なんの冗談だよ、田中…俺とふゆとはまだそんな関係じゃ…」
「ふぅーん…『まだ』、ねぇ…」
「ッ…うるせぇ…」
顔に熱が集まるのも感じて、視線の先に映る男に向かい反射的にそう返す。
何処かチャラい見た目のコイツは田中篤俊。去年から同じクラスで、よくかわからんがいつの間にか懐かれてた。
本来は障害物競走なはずなんだが…何故か毎回こっちに来る。未冬のことをからかうオマケ付きで。
…ま、見た目と裏腹に悪い奴では無いんだ、うん。
話題を逸らすようにそう考えて、俺は小さく息を吐く。
…あ、視界の端でふゆが美優に抱きついてるな。羨ましい。
「──それで、結局どうすんだ?」
「は?どうってなn─」
「暁さんのことだよ。いつ告白するんだ?」
いきなり真面目な表情になって、淡々と聞いてくる田中。
ふゆへの告白。別に考えてないわけではない。
…ただ、今言っても確実に振られるだろう。でもそうしたら、俺達の関係は終わってしまう。きっと俺達は話すことだって無くなる。
「今はいいかな…」
「…そうか」
俺の言葉で察したのだろうか。田中は一言そういうと、肩を叩いて持ち場へ戻る。
『幼馴染同士で恋愛とか不可能だと思うんだよ』
頭の中に反芻するふゆのあの言葉。…確かに、あの小説と違って現実は甘くない。…そう、俺は気付かなかったけど、ふゆにも好きな人がいるみたいだし。
幸い、美優が協力してくれてるんだ。物語のようにはいかなくても、なんとかしてふゆに俺を意識させなくては。
俺が意気込んだ瞬間、綱引きの選手入場の放送が鳴った。
ーーー
「イテテ…」
手についた土を落として、流水で洗い流す。
もはや綱引きの恒例ともいえる動作なだけあるのか、既に俺以外の男子は応援席へと戻っている。
ま、俺は一向に慣れる気がしないんだが。
擦りむいた掌を見つめながら、俺はそんな考えを放棄する。
「…よし、これでいいだろ」
ひとりでにそう呟いて、ハンドペーパーで水分を拭く。
…今日の練習はたしか、綱引き次は借り物競走だったか?
お題は当日までわからないが、去年のから推測するに恋愛関係のやつもあったはずだ。もし、ふゆがソレを引いて、俺の手を取ったりなんかして…
──って、何考えてんだ俺!
慌てて首を振って、鏡に写る自分を確認する。…うん、案の定最高にニヤけててキモいな、ヨシ!
「はぁ…」
…どのみちふゆに活躍を見せようと思っても、そもそも団体競技だもんな。
その場でため息を吐いて、そっと流しから離れる。
応援席へと視線を戻そうとすると、不意に視界に人影が飛び出してきた。
「──ッ!?おい、大丈夫か!?」
俺は思わずそう叫んで、蹲る人影に駆け寄る。
「だい…じょうぶ、です…」
ジャージの色的に1年の生徒だろうか。震える声でそう言って、瞳に涙を貯める少女。
そんな彼女の言葉も裏腹に、膝や手首も皮がめくれていて、明らかに大丈夫そうではない。
「ちょっとごめん!」
「!?!?な、何を──!?」
思考がまとまるより早く、そう言って彼女を抱き上げると、校舎の方へと引き返す。
幸い、ここから保健室まではそう遠くない。
俺は彼女の言葉を無視すると、そのまま身体を動かした。
アスファルトの上で転ぶとめっちゃ痛いよね…




