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知らぬ間の失言

 22話、美優視点に戻ります。


 補足てすが、前回の席替えで美優の席は廊下側列(優陽の席がある列)の一番後ろです。


 未冬とも優陽とも近くは無いし離れすぎてもない、そんな感じの席です。

 GWが終わって早一週間。

 あたし達の仲が特に何か進展したりすることもなく、いつも通り日々が過ぎていた。


「おはようございます、真田さん」

「おはよう西条さん。…?なんか機嫌良さそうだね?」

「えぇ!気付いていただけましたか!?」

「えっ、あ、うん…どうしたの?」


 あたしの反応が嬉しかったのか、花でも浮かんでいそうなくらいふわふわオーラを放つ西条さん。

 席替えで隣になった影響もあってか、彼女と話す機会は4月よりは増えたと思う。…まぁ、相変わらず優陽とは近くないんだけど。


 あたしがそんなことを考えていると、いつの間にか隣の席に座った西条さんは鞄から何かを取り出すと、嬉しそうにあたしの前へと差し出してきた。


「ほら、真田さん!これどうです?かわいいでしょう!」

「えっと…ごめん、あたしにはただのビニール袋にしか見てないんだけど…?」

「違いますよ真田さん!その中にある物の話です!流石にビニール袋の話じゃないですよ!」


 西条さんに言われるままに、ビニル袋を覗き込んでみる。


 …これは、ぬいぐるみ?

 なんか白目向いた熊の首に真っ赤な蛇が巻き付いてるんだけど?かわいいってどゆこと?というか、何のキャラなの一体…


 困惑しながらも、あたしが西条さんに視線を戻すと、彼女の期待に満ちた瞳がこちらに向けられる。

 あ、これあたしに共感してほしいやつだ…


「か、かわいい…んじゃない?」

「…!!ですよねですよね!一昨日、店頭で一目惚れしてしまって衝動的に購入したんですけど…お母様は『なんですかこの低俗なものは!?』って言ってこの可愛さを理解してくれなくて…」

「あ、あはは…」


 いやいやいや、お母さんの反応はある意味当然だと思うんだけど?

 あたしは最近、西条さんの感性ってちょっとズレてるんじゃないかって思ってきてるよ。



ーーー



 午前中の授業が終わって、昼休みを知らせるチャイムがなる。

 クラスのみんなはそれぞれ新しくできたグループで集まり始めると、あたしもそれに合わせるように窓際で居眠りをしている未冬の席へとやってきていた。


「未冬、起きて。もう昼休みだよ」

「……ぅ…」

「ほら!早く起きて!」

「ぅー…わかったってば…」


 寝ぼけた様子で鞄を漁り、のそのそと弁当を取り出す未冬。

 あたしは前の椅子の向きを変えると、彼女に向かい合うようにして同じ机に弁当を広げる。


「ねーユミちゃん」

「ユミじゃなくてミユ」

「ミユちゃん」

「なに、未冬?」


 弁当をつつきながら、不意に手を止めた未冬。

 暖かい日差しが差し込む中、あたしはそっと頬杖をつくと、彼女の方へと視線を向ける。


「ユウヤの好きな人って誰だと思う?」

「ぇ?」

「いや、だからさ、ユウヤの好きな人だって!」

「聞こえてる、聞こえてるよ」


 突然そんなことを言い出した未冬に、あたしはなんとか平静を装う。


 落ち着け、落ち着くのよあたし。


 なんで未冬が優陽の好きな人を気にしだすの…?

 そもそも未冬が優陽の好きな人で、それは本人から直接聞いたから間違いない。チッ…

 現状、あたしに協力してくれているとはいえ、未冬本人が優陽に向けられた好意に応えたら──


「ミユちゃーん?おーい」

「──ッ!?な、何!?」


 ハッと我に返って、そんな返事をする。

 変なところで鋭い未冬は、「ほら、やっぱり聞いてないじゃん」と小さく呟くと、何処か呆れた様子で息を吐いた。


 …ちょっと、未冬に呆れられるのは心外なんだけど。


「だからね、ユウヤの好みのタイプさえわかれば、それを参考にして少なくとも意識させるくらいはできると思うわけよ!」

「それは、確かに的を射てるけど…」

「それで、ミユちゃん改造計画に協力しようと思ったんだけど、私はユウヤが誰好きなのかを知らないから教えてもらおうと思ってさ。この前ミユちゃん、ユウヤから好きな人を堕とす協力ってことで教えてもらったんでしょ?結局ユウヤは誰が好きだって言ってたの?」


 ひと通り言い終えて、好奇心に満ちた瞳を向けてくる未冬。

 あたしの改造計画?この無神経(幼馴染)は一体何を考えてるのよ…

 まぁ、仮にその作戦を決行したとして、そもそもあたしも優陽も今更変わったところで、ねぇ?あんまり印象変わらない気がするんだけどな…


 あたしは食べ終わった弁当をそっと閉じると、そんな未冬の視線から逃げるように、窓の方へと視線を逸らす。


「矢部さん」

「えっ?嘘!?」


 窓に反射した空席が目に入り、真実を伝えないため咄嗟に漏らした先日会った女(知り合い)の名前。



 この一言によって、自分の恋路がより困難になることを、今のあたしは全く予想なんてしていなかった。

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