おかえり
入念な準備をし俺は家を出た。
まだ日が登り始めて数時間。
部屋の窓から明かりが漏れているが気にせず歩き出した。
少し肌寒さを感じさせる風が吹いていたが俺にとっては些細な事だった。
俺はそんな早朝にも関わらず、分け目も振らずただそこに吸い寄せられるように向かう人々と同じ場所を目指した。
それは、人身事故で有名な駅、「彼岸駅」だ。
いつもと変わらない駅。
アナウンスの音と行き交う人々の足音が鳴り響くここは、とある事で有名な場所だ。
それは…『人身事故で有名な駅』なのだ。
よく対策でゲートが用いられるが何故かそれが取り付けられる様子はない。
この駅では既に3桁に上りそうな程死人が出ているにだ。
そもそも通勤ラッシュ時には東京ほどではないがそれなりに人でごった返すため余計に取り付けるべきだと思うが…
それでも私個人としては、退屈な朝の刺激には丁度いいと思っているのでつけなくいい。
人生において人が目の前で死ぬなんて経験はほとんどないだろう。
知りもしない赤の他人が目の前で肉の塊になる。
それを見ると思うんだ「あー私は今生きているんだ。意思を持って動いているんだ」ってね。
そして死様を写真と映像に収め永遠に保存しておく。
いつでも思い返せるように。
そんな事をして変に見られないかって?
勿論見られない。
何故ならこの駅の大半の利用者は皆、スマホの画面に集中しているからだ。
ニュース、まとめサイト、ゲーム、SNS。
そんなものにばかり集中している為、周りなんて見えてない。
もし、誰が線路内部へと人をつき飛ばさしたとしてもどうせ誰も見ていない。
そして、奴らは肉の塊になった物を画面越しでしか見ない。
だからこの駅での人身事故は大抵、『自殺』ではなく『殺人』であることに気づかないのだ。
「間も無くー2番線に電車が参ります。黄色い線の内側までお下がりください」
どうやら、電車が来るようだ。
さて、今日は誰が飛ぶのかなっ!?
そんな事を考え周りを見渡していると体が宙に浮いていた。
嘘だろ。なぁ嘘だろ。
私は必死に体を回転させ、突き飛ばしたであろう人物の顔を見ようとした。
そして、その顔を見た瞬間私の思考は一気に記憶を呼び起こした。
あーなんで生きてるんだアイツ。
見覚えのある顔に混乱しているとそいつの口が動いた。
何か言っているようだが聞こえない。
何故なら…
今の私の耳には電車の警笛しかきこっ
………
『続いてのニュースです。本日、午前7時頃、彼岸駅にて人身事故が発生しました』
ようやくだ。
『今回の被害者は、会社員の男性で身元は不明。損傷が激しく現在警察は身元の確認を急いでいる模様です』
被害者?笑わせるな。
『また同時刻、反対のホ』
俺はテレビをつけたまま部屋を後にし仏壇へ向かった。
「…ただいま」
今回初ホラーに挑戦してみたのですがいかがだったでしょうか。
かなり短めの意味怖的な作品にしてみたのですがどうだったでしょうか?
なにぶん意味怖は見るのは好きでも書くのはどうしたらいいか分からないかったのでそれっぽくしてみたのですがしっかりと理解できたでしょうか?
では、いまいち分からないと言う方に向けて以下解説を載せておきます。
今回初に登場した一人称が「俺」と言う人物(以後兄A)は復讐の為に早朝から家を出ました。
そして、数時間後、いつも人の死様を楽しんでいる一人称が私と言う人物(以後X)は兄Aがいる駅で次のターゲットになる人物を探していました。
そう、この駅でホームに人を突き飛ばしたいたのはこのXです。
文中に殺人を自ら断定している部分がある。
人を殺している犯人でもない限り断定的に物事を語ることはありえません。
それから数分後Xが兄Aに突き飛ばされてからのシーンです。
Xが言葉を失う場面。
これは兄Aが昔殺した人物に似ていたからです。
それは兄Aの弟(以後弟B)だったのです。
何故覚えていたかと言うとXはスマホに自分の行ってきた行為の全てを記録として残し楽しんでいたからです。
場面が変わり兄Aは家でテレビを見ていました。
ですが途中で部屋を出て仏壇に向かいこう言いました。
「ただいま」
この時点で兄Aは既に死んでおり、それが分かるのがテレビを消さなかったこと、また同時刻にもう1人死んだというニュースが流れていた部分です。(途中で聞くとをやめた為「ホーム」の「ホ」で切れております
また、テレビは家を出てから付けっぱなしだったため見ることができました。
それが分かる一文は前書きにあります。
「窓から明かりが漏れている」の部分です。
そしてこの「ただいま」という台詞は弟Bに向けたものです。
死んだことにより弟Bと再開したからです。
そしてこの作品のタイトルが弟Bの返事ということです。