愛の役者
「好きです」
出会ってから29日目、私はとうとう告白した。
少し早いと思う人いるかもしれないが、私にはもう時間があまりないと思う。
「美濃部さんのお気持ちはうれしいです。でもそのお気持ちだけ受け取っておきます」
笹野先生は誰にでも平等で優しく、その言葉やしぐさすべてが綺麗な人だった。
私以外にもきっと好きになった人はいると思う。
でも私はあきらめたくなかった。
「どうして?先生は私のことが嫌いですか?」
部活中に吐血しこの病院に入院して、笹野先生が担当医になったことは運命だと思った。
麻酔から目を覚まし、ぼやけた視界から一番最初に目が合ったときは息が止まりそうだった。
そして次の瞬間、この人と出会うために生まれてきたのだ、と涙が止まらなかった。
自分勝手な妄想だと笑うなら笑えばいい。
でも私はこの強い魂の震えを一生忘れはしないだろう。
「私は患者さんを恋愛対象にはしません」
「死ぬかもしれないから?」
「・・・美濃部さんは死にませんよ」
私は知っている。
この体は私のものなのだから。
衰えていく体力。
一日中続く嘔吐。
枯れ木のような腕。
艶を無くした髪。
女としての魅力が無いに等しい顔面を見たくないため、私の病室には鏡はない。
だから?
先生は私を受け入れないの?
「美濃部さんの苦しみは私も背負っていきます。でも美濃部さん自身が病気とちゃんと向き合わなければいけないんですよ」
「これ以上どう向き合えって言うんですか?私にもっと苦しめって言うんですか?」
「落ち着いてください。私はあなたの主治医として・・・」
「もういい!もう死ぬんだから今死んでも同じことよ!!」
先生はきっと私を受け入れてはくれない。
言葉よりも冷たい視線が私に真実を突き刺す。
どうして?
あの衝動はきっと先生も感じていたはずなのに。
どうして私を受け入れてくれないの?
どうして最期ぐらい私だけのために優しくしてくれないの?
「美濃部さん!」
「嫌い!先生なんて大嫌い!!」
そばにあったはさみを手にし、まっすぐに心臓をめがけた。
しかしそれはいとも簡単に払いのけられ、私ではない体温に包み込まれた。
暖かい・・・暖かい先生に。
「こんなことをしても美濃部さんは救われません。大丈夫、あなたの病気は私が治しますから」
「・・・本当に?」
「私はあなたの主治医なんですよ、ある意味人生のパートナーとは言えませんか?」
「人生の・・・パートナー・・・」
それでもいい。
先生がそばにいてくれるのなら。
私を抱きしめてくれるなら。
自分からは終わらせないことを先生に誓います。
神なんてものは信じていません。
神がいるなら私はもっと幸せなはずだから。
だから先生に誓う。
私を絶望の淵から救い出してくれるのも、深い闇から光をくれるのも先生しかいないから。
「愛してなんて言いません・・・でも・・・最期まで・・・最期まで私といてください」
「大丈夫、心配いりません」
「ありがとう・・・先生」
そして私はそのまま吸い込まれるように眠った。
全身が重く沈んでいく中、穏やかな先生の笑顔に私は笑い返すことはできただろうか。
目が覚めたとき、先生に確認しよう。
そう、私はもう一度目覚める。
少しでも先生と生きていくために。
「先生、娘はどうですか」
「完治しています。ただ・・・」
「ただ?」
「娘さんは漫画などのヒロインと自分を重ね合わせている部分があるかもしれません。部活も今までレギュラーになれなくて悩んでいたようですし、受験シーズンでストレスが溜まっていたのかもしれませんね」
「そうですか・・・」
「一度精神科へ行ってみますか?私は専門ではないので」
「お願いします」
美濃部静香、18歳。
部活動中に吐血したため救急車にて搬送。
診断結果は胃潰瘍のため入院、担当は私。
妄想が激しく、「死ぬ」とたびたび発言し食事をあまりとらない。
数日ごとに設定が変わり、本日はかなり感情的な役柄の模様。
先日の役柄はとことん反抗するヤンキー気質だったため、スタッフはかなり骨を折っていた。
自他ともに認める温和な私もこれは少し難儀な患者のため、保護者に精神科をお勧めする。
ここでは彼女の病気は治せないと判断。
それに私も疲れた。
今日は酒でも飲んでゆっくり寝よう。
もうすぐ結婚式だというのに、これでは由紀子に心配をかけてしまう恐れがある。
「正二、まだ書いてるの?お風呂入ってもう寝たら。明日も忙しいでしょ」
「一緒にビールでも飲まないか、つまみは買ってあるよ」
「しょうがないわね、付き合ってあげる」
私は日記を引き出しの奥へしまい、由紀子の大好きなつまみを出すべく部屋を後にした。
当初の予定と大幅に違う結末になってしまいました。
本当は純粋に医者と患者の恋愛ものだったのに・・・。
まー予定は未定ですしね!(開き直り
今後もどうかよろしくお願いします!!!!!!!
それでは。




