6話 キャラエピ 勇村楓の生徒会相談 ①
キャラクター一人一人が活躍するキャラエピ第一弾。不幸な男が更に不幸になる話です。
「(やりたくない。帰りたい。ゲームしたい。ゲームダメなら勉強でもいい。だから―――)」
「引きずるのだけはやめてくれない?! 彩那?!」
「うっせ。時間無いんだよ。結局みんなやるんだから。ほら、観念しやがれ」
高校生の男とは思えないほど、だらしない声を上げながら、廊下を引きずられる楓と、生徒会役員とは思えない言動をしている彩那。二人は、昨日突如言われた、『生徒会相談』の第一日目のメンバーだ。
彩那が受付と管理、楓が相談員役で行う。
「頼むから役職変わってくれぇ! マジで嫌なんだって!」
「うるさいなぁ! 私だって相談員ヤダ! でも二日制なんだって! だから二人組なの! 結局はどっちもやらなきゃいけないの! 文句は今いない先輩達に言って!」
楓が相談員役をやりたくない理由は二つほどある。一つ目は―――
「だってさ! 相談する奴らってさ! 「彼女にプレゼント送ろうとしてるんですけど、何がいいですか?」とか聞いてくんだぜ?! 地獄だろ!」
「それ私も同じこと思ってるから!」
このやり取り、非リアの楓には苦痛で仕方がない。楓は教室でイチャついていると、「何リア充キメてんの? 死にたいんですか?」とえげつない目線を送る。これほどまでに非リア拗らせているのは、そうそういないと思う。
「しかもあれでしょ?! 例えば「お揃いのペンダントにしたら?」とか言ったら、「いやぁ…ペンダントは古いっすよ。時代は指輪じゃないっすか?」とか言ってくるんだろ?! なら相談すんじゃねぇよ! 決まってんじゃねぇか! ぶち殺すぞ!」
「だからそれ思ってるから! リア充は理解できない生物なの! 生きてる次元が違うの!」
恋愛難民の二人は、非リアを極め、被害妄想激しい二人になってしまっている。
彩那は比較的モテるが、理想が高く、少しでも悪い頃があると 『あっ。別れませんか?』という『すぐ振る女』として、若干有名だ。
楓はシンプルに非リアを極めている。彼に「彼女いる?」と聞くと、「うん。いるよ? 恥ずかしがり屋で、スマホから出てこないんだよね〜」と答え、毎回ドン引きされる始末だ。
「そいつはまだいいんだよ! 「なんかリア充やってんな〜。四肢もげねぇかなぁ〜」って思えるから。けど! 一番ヤバイのって『ガチで相談してくる奴』なんだよ!」
「わかりみ! わかりみしかない!」
引きずられながら、二つ目の理由を説明する楓。先程から彩那は異様に賛同しているが、「まあ、分からんくもないけど、私には『モテる』って目標あるから。そうゆうのに対応してこそ完璧なんたよ!」と無駄に息巻いていた。
「マジで嫌なんだよなぁ……先行後攻変わらん?」
「…これは言いたくなかったけど…澪が「楓先ね」って言ってた」
「ぐがぁ! 嘘かもしれないけど確かめたら死ぬ! 疑ったら負け! 詰みだァ!」
そんなやり取りをしていると、いつの間にか生徒会室まで来ていていた。
彩那が言ったのは必殺技。澪は決してそんなこと言っていないが、疑われるのは彼女はあまり好きでは無いので、「え、何楓。疑ってんの? 知ってるよね? 私が疑われんの嫌いなこと。え?」と生命活動を終了させられて終わりだ。
「大人しくやります……嫌だァ!」
「情緒不安定か! 諦めろ! 私もいい加減疲れた! ……もうちょい身長あれば楽に運べるのに……」
「ん? なんか言った?」
「…! なんでもない! ほら! 早くゴミ落として!」
「俺がゴミだらけなのは、お前が俺をルンバにしたからだろ!」
楓のゴミまみれの制服を綺麗にしながら、彩那は色々考える。悩んでいたり、嫌な事があるのは楓だけでは無いのだ。
「ほら! 準備あるから急ぐよ!」
「…おう」
楓の目には、彩那が無理をしているように見えた。だが、楓は空気を読めない天才。ここで「どうした?」と聞いてこそ楓だが、さすがに聞いちゃダメなオーラが漂っていて、いくら楓でも聞かなかった。
「ほら! 後一時間ぐらいしかない! 急げぇ!」
「わかった! 分かったから取り敢えず手に持ってる棒を置いて!」
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「準備は?」
「オーケー! というか完璧! まだやりたくねぇ気持ち満載だけどな! この学校の生徒がマシなことを願う!」
時間は少し過ぎ、放課後。六時間目の部分を、生徒会室のセットに使ったので、始まるのは約十分後ぐらいだ。そうなると、楓は授業サボってるのに、さらにサボろうとしていたことになる。
「はい! どーぞ〜」
と彩那の裏声が聞こえる。「ガチもんの萌え声ってこんなんなんだ…」なんて思いつつも、気を引き締める。
生徒会としての地位を守るためにもしっかりやらないと。後に澪に消されるやもしれん。
彩那が生徒会室のドアを開け、一人目を案内する。一度廊下にいる彩那の所でクラスと名前を告げてから、生徒会室に入室する。そもそも、一般生徒は入れる機会がないので、これだけでも貴重な体験である。
一人目は、二年生の先輩だった。そして、楓の願いは虚しく、一番初めからヤバいやつに当たってしまう。
「男と女。カップルかよ…ふざけんなよ!」
一発目からカップル。しかも手を繋いで入室してきた。なんて引きのいい楓なのか。彩那は廊下でクスクスと笑っている。それを見て微笑んでいる人が居るのは秘密だ。
カップル登場だけで楓の帰りたいメーターはどんどん上昇しているのに、さらに追い打ちがかけられる。
「ど、どうぞお座り下さい…」
「あっ、失礼します!」「お願いします」
忘れていたが、生徒会メンバーは、ほぼ先生のような立ち位置で、話し掛けるのにも、生徒会室にいたら敬語で話す。タメ語を話した奴は澪により存在を消される。『居たら』の場合だが。
「そ、相談というのは……」
「はい……実は俺達明日で付き合って一ヶ月なんです。それで、互いにプレゼントを送ろうってなって。そのプレゼントがいいのか、判断して欲しいんです!」
「…ごめん言ってる意味が理解できない。もっかい言って?」
不意打ちを喰らい、楓の脳は、一瞬で限界を迎えた。
「あの…一般的に、そうゆうのって一人で来るもんなんじゃないの?」
「まあ、そうなんすけど。やっぱ……」
「(タメ語かよ……まあ、別にいいんだけど…)」
「離れたくないんですよ! 可愛すぎて!」
二人は頬を赤らめながらそうゆう。それを聞いた楓は―――
「よし。今すぐぶっ殺してやる!」
などと言えるわけなく、実際のところは―――
「なるほど。なるほどねぇ! そうゆうことかァ! なるほどなるほど……」
と、思考が停止していた。頭を抱え、首を上下にブンブンと振りながら楓は悶絶する。
「……因みに先輩(男)は、何を渡すんですか?」
少し時間が経ち、落ち着いたのか、楓は真面目に相談に乗る。なんだかんだ優しいし、真面目なのが楓だ。失われた人権は、ここで生き返る。ほんの少しだが。
先輩(男)は、楓の方へ移動し、耳元で小さな声で話す。
「まあ…ペンダントとか?」
「逆パターン!」
後ろに仰け反り、椅子の背もたれに大幅に寄りかかる。先程言っていた、『ペンダントは古い』といったすぐ後にペンダントが出てくる。
楓はこの瞬間に一級フラグ建築士の仲間入りだ。
「なんですか?! 急に?!」
男の先輩はビックリし、1歩…いや、4、5歩距離をとる。
「なんでそうなるんすか!」
「えぇ…良くない?」
「良くない! 1ヶ月でペンダント(小声)は早い!」
すくっと立ち上がり、男の先輩に向けて指をさしながら言う。男の先輩はとても困惑した表情だった。
「因みに先輩(女)は、何をあげるつもりで?」
「私は…」
今度は楓が近づき、女先輩が耳元で小さな声で話す。
「まあ…ペンダント…とか?」
「アンタもかァ!」
デジャブを感じ、超大声で膝から崩れ落ちる。床に四つん這いになった光景を見て、先輩二人は―――
「なんかイメージとは違うね」「うん…」
清楚な生徒会をイメージしていた二人は、持っているイメージとの差に衝撃を受ける。
廊下から彩那が部屋の様子を伺っている。楓は絶体絶命の大ピンチ! だけども彼は我が道をゆく。
「…! いいですか二人とも! そのプレゼントはダメです。早すぎます!」
「「早すぎるって…」」
「いいですか?! プレゼントにはスリーステップあってですね。一つ目は『日用品』。まあ、雑貨ですね。ペンとかノート、日記とかです」
楓はめちゃ真剣な顔をして、専門家風に言ってる。だが、この言っていることは全て嘘だ。そもそも確証なんてあるはずがない。
だが、楓が超真剣な顔で言っているので、二人も何故か真剣な顔で聞いている。時折頷き、何故かメモもとっている。
「二つ目は『ペンダント』。まあ、付き合って1年ぐらいのリアじッゥン! ……付き合っている人達があげるプレゼントですね。センスが問われ、ダッセェものにすると「なにこれ…センス無いな。別れよっ」と破局の危機にもなりかねない、危険な品です」
楓がズバッと言うと、二人はどんよりオーラを出しながら、わかりやすく凹む。
さすがに言いすぎた自覚があるのか、楓は弁解に励む。
「ま、まあ例外もありますけどね! 渡した相手に注目したら、デザインなんてどうでもいいんですよ。ホントに好きならね!」
と、言うと二人は勢いよく顔を上げ、見つめ合う。
「デザインダサくても喜んでくれるか?」「勿論…貴方のくれるものなら全部嬉しいよ!」
そう言ってハグをする二人。それに楓は―――
「うぜぇ〜。目の前でイチャつくなよ。刺し殺すぞ」
と内心思いつつも、顔に出さないのは楓の凄いところだ。自分のアドバイスでこうなったのに、不幸を願っている。常人には理解のできない行動を起こしすぎている。
「時間でぇーす」
彩那の面倒くさそうな雰囲気満載の萌え声が生徒会室に響く。 「ナイスタイミング! イチャつくな。帰れ。そしてなんならベッドまで行け」と謎の感情を持っている楓は、最後の最後に自分の思いを告げる。
「…三つ目のプレゼントは女性にしかできません」
「「?」」
楓は女の先輩の方へ行き、耳元で小さな声で話す。
「それはですね…「プレゼントは私」です。これを言って堕ちない男はいません。頑張ってください」
「後輩君…! ありがとう! 私頑張るね!」
そして先輩二人は手を繋いで部屋を退室した。誰も居なくなった部屋で楓は―――
「あ〜彼女欲しい……」
神様に人間を願っていた。
「ホイ。次行きま〜す。よろしくね」
休憩する暇もなく、次々と相談者が入ってくる。楓は「もうカップルじゃないように! もうカップルじゃないように!」と願いながら、入室してくるのを待っている。そして入って来たのは―――
「うぃぃ! やってるかい?!」
「…なんでオメーなんだよ」
生徒会室のドアの前には、現生徒会長の澪が立っていた。
「相談者わ・た・し!」
今回のキャラクター紹介のコーナー④
裏主人公『勇村楓』
15歳。生徒会会計。身長174cm。緑色の髪。エメラルドグリーンの瞳。
恵まれない役どころ1号。
彩那からは『喋るおもちゃ』。澪からは『歩くサンドバッグ』。莉音からは『うるさい隣人(?)』。拓斗からは『絶対に裏切ってはいけない友達』。様々な認識がされている。
もう悲しすぎますね。楓はこの先もずっと大切な立ち位置なので、大切にしていきたいと思ってます。思ってるだけです!