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私が好きなのは妹の彼氏でロリコンのアイツ!  作者: 月宮流夏
春と暑さが暴れた一学期
1/21

1話 ロリコンと生徒会長

ハチャメチャなラブコメにできるように頑張ります。めちゃくちゃ軽い気持ちでお読みください。

 夕焼けが部屋に照りつけ、蒸し暑くなる部屋の中。少女は時が止まったかのような感覚を味わった。それは物理現象ではなく、脳が今の光景を本能的に拒んでいるからである。


 学校から帰宅した少女は、小学五年生の妹である萌葉(もえは)を驚かせようと、静かに玄関を開け、忍び足で廊下を移動した。妹には色々と我慢させてしまっている。そのせめてもの償いを! と少女は息巻きながらリビングのドアを開ける。


「ただいま! 萌…葉?」


 いつも少女が帰ってくる頃にはソファーに座ってテレビを見ている妹が居るはずなのだが、今日は違う光景を見た。


 今日は、ソファーの上で見知らぬ男とキスをしていた。


「……萌葉? どうゆうこと? 私に説明してくれる?」


 と、冷静な口調で言ったのは心の中だけ。本当は――


「萌葉?! 何してんの?! えぇ?!」


 とても大きい声で感情を爆発させていた。


 キスに夢中だったのか、ドアを開けた音が聞こえなかったのか、少女の大きな叫び声でようやく気が付いた。ビクッと一回跳ね、姉である少女の方を向く。


「お、お姉ちゃん?!」

「……ほぇ?」


 急に腑抜けた声を出した少女は、目をぱちくりさせて妹の方を見つめている。いや、実際には妹の後ろにいる男を見ている。

 妹とキスをしていたその男は、何処かで会ったことがある気がした。だが、それもそうだろう。だって彼は――


「…拓斗(たくと)…くん?」


 少女…篠崎(しのざき)(みお)の好きな人、稲垣(いながき)拓斗(たくと)だったから。


―――――――――――――――――――――――


「それで? その(あと)はどうした?」

「…それ聞くんれすか?」


 先程の回想の翌朝。場所は高校の生徒会室だ。

 話しているのは、一つ上の先輩である柏木(かしわぎ)莉音(りおん)。この国の経済を支えていると言っても過言ではないほど大きな会社の社長の娘。つまり金持ちだ。

 そんな金持ち先輩の莉音に、大号泣しながら話すのは、百五十年続くこの学校の中で、歴代五人目となる一年生生徒会長。全国模試は一位で、そこそこの会社の社長の娘である、篠崎(しのざき)(みお)だ。


「…ボッコボコにしました」

「……え?」

「もっかい言います? ボコボコにしました」


 朝の会合の時間より少し早く来ていた莉音。スマホをいじっていると、泣きながら澪が入って来た。イマイチ状況が理解出来ず、とりあえず椅子に座らせお茶を入れた。

 澪がいきなり「ボッコボコにしました」とか言い出したので、莉音は硬直する。しかもわざわざ二回言ってくれたので、「あっ、これガチなやつや〜」とどんどん顔が青ざめていく。


「それでですね。男経験豊富な先輩に聞きたいことがあります。先輩はフラれた時にどうやって立ち直るんですか? 多分沢山フラれてますよね?」

「いきなり失礼な事を大声で言い出したねぇ?! 私はそんな尻軽女じゃないよ? ()()十人ぐらいしか付き合ってないもん!」

「……マジで豊富なんですか…私の心もうズタボロですよ? 知ってますか?」


 昨日の大失恋に加え、想定外の身内の裏切り。既に心の容量がパンクしかけてる状態の澪に、少しでも些細な刺激が加わったら、ダムの大放流のように、勢いよく溢れだしてしまう。

 そんな一世一代のタイミングにやって来たのは、生徒会一番の残念男、勇村(いさむら)(かえで)だ。


「おはよっス…って、どうした澪。死にそうな顔してるぞ?」


――ビキビキ……


「どうしたんだって。もしかして…誰かにフラれた? 俺が慰めてやろうか? ってな!」


――バコォン!


「あ〜あ。やっちゃったね楓くん」

「えっ? 何をですか?」


 澪の心の堤防は崩壊。おもむろに立ち上がり、楓の手を引っ張ってソファーに座らせる。無理やり座らせられた楓は澪の顔を見上げる。澪の目のハイライトは消えていて――


「えっ? まさかアレ? や、やめてって――」


「死ねぇぇぇぇぇ!」


「バカやめバガハッ!!!」


 鳩尾(みぞおち)へ容赦の無い全身全霊パンチ。これがもしバトル漫画だったら楓は十メートル超は吹き飛んでいる程の威力。

 楓は澪が何をするか察した瞬間、抗おうと動いたのだが、それが逆効果だった。変に動いた事で鳩尾の特にヤバい部分に直撃。痙攣したまま動かない。


「…楓くんの口から幽体(ゆうたい)が…」


 楓の口から霊体が出かかる。莉音は別にそれをどうこうしようとは思わず、澪の右手から出る蒸気を見て「…ラノベか?」と、ひたすら言っている。

 数分後、ハッと我に返った莉音はソファーで死んでる楓に駆け寄り、脈を測る。すると、楓の脈が無いことに気が付き――


「……ようやく死んだか」

「死んでねぇよ!」


 合掌。

 をしていたら楓が起き上がってきた。莉音は心底残念そうな顔をして「……おかえり」とボソッと呟いた。楓は咳き込みながら「俺は死んだ方が良かったのか?」とこれまたボソッと呟いた。

 莉音は楓に「適当に頑張れ」とだけ言うと、直立不動な澪の傍に駆け寄り――


「今回は楓が悪いから。正当防衛だよ」


「先輩…だよね! 悪いのは楓と拓斗くんだよね?!」


 莉音の言葉で生気を取り戻した澪は、目を輝かせながら莉音に抱きつく。死にかけな楓はソファーから「……百合か?」と二人の後ろに咲く花を見ていた。そして、その花は楓が最後に見た光景だった……


「……勝手に殺すな」

「G並の生命力だねアンタ」


―――――――――――――――――――――――


「ふ〜ん…そうゆう事ね…」

「もしかして楓怒ってる?!」

「逆になんで怒んないんだよ!」

「いやいや、殴ったのは澪だけど、きっかけ作ったのは楓くんだからね? どっちもどっちだよ?」


 そう。あの時楓が何も言わなかったら、楓は殴られることなかった。故に戦犯は楓である。もっとも、当人にその意識は無いようだが。


「まあでも…なかなか同人感溢れる話だね。小学生と高校生の恋愛ねぇ……萌えるねぇ!」


 突如目の色を変えて叫んだ莉音。いきなりの出来事に澪と楓はビックリする。「豹変しすぎじゃない?」と。

 柏木莉音は…重度の『妄想厨』だ。その妄想内容はやけにドロドロしてリアリティーがある。莉音の妄想を気軽に聞いた女子生徒は、その次の日から腐女子になってしまったという。それ以降、莉音の妄想を聞ける人物はごく僅かに限られた。視聴が可能な人達は、口を揃えて「別に聞かなくていいと思うよ?」と言うらしい。


「小学生と高校生…普通は大学生か大人なはず…いや〜やっちゃったら犯罪だよォ?! いや〜萌える!」

「変なこと言わないでください! 萌葉の純潔は奪わせないですから!」

「いや、もう失われてるかもよ?」

「イヤァァァァァ!!!」

「(なんでこんな楽しそうなの?)」


 楓は心の中でそう思う。莉音はめちゃくちゃ笑いながらノートに何かを書き込み、澪は澪で生徒会室を走り回っている。そんなカオスな現場で、楓は――


「えっと、サッカー部はカップルが多いから予算を減らして…その代わりアニ研に注ぎ込んでやるか」


 自分の生徒会内の役割、『会計』の仕事をやっていた。生徒会長が暴走してるとは言え、堂々と私情で改ざんをする楓。罪の意識は全くない。

 ノートにとんでもない勢いで何かを書いている莉音、走り回る生徒会長の澪、黙々と仕事をする楓。朝からカオスな生徒会室に、ちゃんと用がある人がやってきた。だが、扉を一瞬だけ開け、直ぐに閉めた。本能が訴えかけたのだ。「ここはヤバい」と。


「…お邪魔しました〜」


 生徒会室に入ろうとした男子生徒。扉を直ぐに閉めたのには危険を感じたのと、もう一つ理由があった。


「っ…そういや澪は生徒会長だった……気まずい!」


 初対面の女子生徒を名前呼びするイカれた男子生徒。生徒会室で話題の稲垣拓斗。澪の前に出るのが結構気まずい!

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