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僕らは異世界で生きている  作者: モチ猫 芹香(もちねこ せりか)
6/12

白の名前

 小さな冒険者に先ほどの冒険者一行を対応した受付とは違う受付の前に連れてもらった。


 「本日はどうなさいましたか?」


 明るい声が僕らを迎えた。


 「あの、彼の冒険者登録をお願いしたいです」


 「はい、かしこまりました!」


 受付のお姉さんは目の前のカウンターの下から紙を取り出した。ベージュ色の厚い紙に異世界感を感じる。外の看板と同様に項目が英語で書かれているがやはり読める。


 「それではこちらに記入をお願いします。書き終わりましたら冒険者としての心得や簡単なルールなどを教えしますね。細かい規定などに関しては説明後にルールブックをお渡ししますので」


 「あの、書く前にそのルールを聞いていいですか?」


 「なんと!?冒険者になることを迷っているのですか?うーん、そうですねー。確かに冒険者登録を一度してしまうと取り下げることはできませんが、冒険者になるかならないかは本人次第なので、ぶっちゃけ説明するのは登録前も後も変わらないですよ。まずは記入しましょうか」


 ニコニコとこちらを見つめてきた。 


 (うーん、なんでみんな最初から教えてくれないんだろう…なんだか異世界詐欺に会っているような気分。普通の詐欺と違うところはちゃんとクーリングオフなしと言ってくれているところかな。いや、良くないけど)


 渡された紙に目を下した。最初の項目に「NAME」名前と書いてあった。


 (このままじゃ何も始まらないし、もう覚悟を決めるか。冒険者になってお金を貯めてからでも好きな仕事につけるよね)


 本名を書こうとすると横から小さな冒険者が僕の手を止めた。


 「あのう、冒険名は考えましたか?」


 「冒険名?」


 「はい。冒険名は必ず本名でなくてもいいんです。男の人はかっこいい名前にしたり、女の人は綺麗な名前にしたりと偽名で活動している冒険者が最近多くなっているそうです。自分のなりたい理想の自分を作るように冒険名を決めたりしているそうです。あ、でも私は親からもらった本名【ユナセラフィ】をそのまま冒険名にしています。どうしますか?」


 「へー、そんなこともできるんだ」


 それを聞いていた受付のお姉さんが会話に参加した。


 「そうですね。こちらは本名までは確認していませんのでどれくらいの冒険者さんが偽名で活動しているかは把握していませんね。生まれた子供に歴代の勇者様やそのご一行の名前を名付ける親もいますので、本人の本名か憧れで名乗っているかまではわかりません。しかし肩書や異名など、座右の銘など明らかに本名でない名前を冒険名として登録している方々がいるのは事実です」


 「へー」


 「おっしゃるように理想の自分を想い浮かべてセルフ名付けしていると思うのですが…」


 彼女はキョロキョロと見まわした。そして手の平を口に添えてこっちに体を傾けた。


 「他の受付や冒険者にこの話をしたなんて絶対に口が裂けても言っちゃダメですよぉ~。実はその変な名前で冒険に出ちゃった人たちのほとんどはすぐに冒険を諦めちゃうんですよ。それに名前は変更できないし、別名で再登録はできないので…」


 彼女は再度あたりを警戒してまた更にこっちにキラキラした顔を近づけた。


 「ここの保管庫、黒歴史の宝庫なんですよ」


 迷惑被っていると言うのかと思ったら、むしろ彼女は面白がっていた。そしてそんな彼女は他の受付から見えないように間にある仕切りを利用し、声を殺して肩を震わせて笑っていた。


 (この人性格悪っ!)


 横を見るとユナセラフィは笑みが崩れないようにしているが困り顔が隠れていない為たぶん彼女も引いているのだろう。笑い終えた受付は姿勢を正し、きっちりと立った。


 「ということですので、冒険名はしっかりとお考えくださいね!」


 最初に来た時と同じ笑顔を顔に塗った受付を見て、そのギャップに更に引く。とにかく気を取り直してまた用紙と向き合った。


 (うーん、僕の冒険者名か。っていきなりなぁ)


 変更はできないから、かっこいい名前なんて恥ずかしいし、ちょうどいい名前を決めたい。英語圏のこの街を散歩していた時に偶然並んでいた金属の食器に自分の顔が映ったのが見えた。前世の日本名が似合いそうにない顔をしていた。そこで前世で読んだ本のカタカナ名の主人公をなるべく思い出してみた。いくつか色んな主人公の名前を思い出してみたが、やっぱり一番に思い浮かぶのはあの冒険物語の主人公。小さい頃にこんな風に勇気あふれる彼みたいになりたいなと想像したり、所々自分に似ているなと重ねてみたりしてワクワクして読んだ絵本。こんな楽しい冒険が出来たらいいなと思いながら握っていたペンを紙に滑らせた。


 【Timothy】


 書き終えた瞬間に虹色に光った。


 ティモシー「な、なに?!」


 受付「この光はこの名前が認証された証です。先ほど言ったように変更はできませんが、まぁ、私はいい名前だと思いますよ」


 受付は今までと違って嘘のない笑みを浮かべたように見えた。あの腹黒いこと言った人と同一人物とは思えない…なんて思うのは野暮だよね。


 ティモシー「ありがとうございます」


 素直に返事する方がいいと思った。

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