白とギルド
中に入ると大勢の冒険者が受付とやり取りをしていたり、壁一面の張り紙を除いていたり、冒険者同士で談笑したりとあちこちで各々の時間を過ごしていた。先ほどの冒険者一行も受付とやり取りをしていた。
「はぁ?!こんなに苦労して捕ってきたのに売れないだと?!」
「冗談キツイよ、ねぇさん」
「いいえ、誠に残念ながら品質と状態から見てもスティーブさんのお肉屋には売れません」
受付のお姉さんはこのやり取りに慣れているのかきっぱりと言い放った。
「おい、どこが悪いんだよ」
「そうですね。使用したトラップがジャッカロープ専用でないような傷跡と一撃で仕留めきれてないような傷跡が発見されたこと、そして保存状態も悪いので上質のお肉しか取り扱わないスティーブさんのところへ売ることはできませんね」
それを聞いても不服そうにまだ受付に食い下がた。
「よく見ろよ。ちゃんとしてるって」
「そうだよ、お前の見間違えじゃないの?大丈夫?」
一人が鼻で笑うと、受付のお姉さんの雰囲気が変わった。
「では、マダムを呼びましょうか?本日はこちらの館に…」
「いや、いい!」
脅しのように言い放った”マダム”を聞いた瞬間に急に一行が慌てだした。どうやらそれがギルド受付側の切り札のようだ。
「ああ、マダムが出るほどじゃねぇから」
「そうですか。ではこちらはどうされますか?この程度でしたらまだ加工肉店へ売却が可能です」
「おい!さすがに加工屋はないだろ!!」
”マダム”で委縮していた一行は”加工肉店”に反応し、またさっきのように噛みついた。
「せめてキールんとこだろ」
「査定し直せよ」
入った時から入口横でずっとそのやり取りを見ていた僕でも懲りない彼らにさすがに呆れてきた。しかし、受付はというとやれやれという表情にも変わることなく冷静にきっぱりと対応した。
「私の対応にご不満でしたらやはりマダムを…」
「いやだからマダムは呼ぶな!」
「いいえ、ご満足いただけていないようなので、やはり”マダム”自ら…」
わざとらしく”マダム”を強調する。
「あーーー!!もう!それでいいよ!」
「かしこまりました。ではそちらで処理しますので、集計が終わるまで館内でお待ちください」
受付のお姉さんが何匹かのジャッカロープの入った木箱を持ってすぐに奥へと消えた。そしてまんまと受付の手のひらの上で転がされた冒険者一行は近くのテーブルへと移動をし、音を立てながらドカッと座った。
「くそー!!」
「今度こそ行けると思ったのにな」
「徹夜で作った罠だぞ。今度こそ行けるとおもったのに」
「ああ。あんな小さい専用の仕掛けで捕まるわけないよ」
「次こそ上手くやってやる」
まだ闘志の消えない彼らの目はまだやる気でいた。
(うーん、これはたぶん懲りてないな)
そのやり取りを見終えた僕は館内を見まわした。次は張り紙の方を見ようかと思ったら、横から声をかけられた。
「あっ、あのう…」
可愛らしい声がこちらを呼び止める。
「はい?」
「あのう、冒険者希望ですか?」
呼び止めた可愛い声の主は思っていたより背が低く、輝くような緑色の瞳がこちらを除いている。横に大きな花の飾りが印象的な帽子をかぶり、オレンジ色のクリンクリンの髪が帽子から飛びはね出している。杖を両手で握りしめ、何かを訴えるような表情が向けられる。
「うん、まぁ、ちょっと興味があるんだけど、まだよくわかっていなくて…」
「では、私が教えましょうか?」
不安そうな表情をしているが目がキラキラと見つめてくる。
もう少し考えてから冒険者になるか決めようと思っていたが、せっかく冒険者本人から教えてもらえる機会だ。
(ま、断る理由はないよね)
「そうだね。その方が助かるかな」
「はい!では、まず登録をするところからしましょうか」
「え?」
ニコニコとこっちを見つめる。
「それって説明してもらえるとかじゃなくて?…」
「あ、私、あまり説明が上手くないので、やりながらの方が覚えやすいと思います。それに登録をしても本当に冒険者として働くかどうかは人それぞれですので、後からいくらでも考えられますよ」
一度承諾してから断るのは彼女はもちろん自分も気分が良くないので、仕方なく彼女の言われるままにしようと決めた。
「わかりました。じゃあ、案内してくれるかな?」
「はい!」
それまで不安そうにしていた彼女は僕の返事を聞くと、あの女神の微笑みとはまた違う太陽のような笑みをこぼした。