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僕らは異世界で生きている  作者: モチ猫 芹香(もちねこ せりか)
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白の勇者

 目覚めると見慣れた天井がなく、虹色の空らしき景色が視界いっぱい広がっていた。手のひらにはあまりベッドでは感じることのない感触に驚き起き上がると触れていたのは草だとわかった。顔を上げ広く見渡すと果てしないくらいの花畑の中にいることに気づいた。


 そして、少し離れたところにふわふわの白い服を着た女性がいることに気づく。しかし普通の女性と違うところは、彼女の背にはなぜか優しい光に包まれた羽が生えていた。すると彼女も僕が目覚めたことに気づくと、羽を軽く羽ばたかせ、少し浮いたかと思ったら僕の方に飛び始めた。


 初めは信じられないような景色に驚いたが、自分の手のひらから体を見まわし、手で体を確かめるように探ると、自由になったような体の軽さに気が付き、「ああ…」と自分が死んだんだとやっとわかった。


 「そっか」と次に呟いたら、羽の生えた女性が目の前までにたどり着き、その微笑みに目を奪われた。天使か女神かのようなその優しい笑顔と眩しくない後光の温かさに、ここは確かに天国なのだと悟った。


 「おはようございます。お加減はいかがですか?」


 彼女の優しい声が心を温める。その温かさに触れた心に悲しさが襲う。たまらず目が涙であふれそうになり、目の前に立つこの綺麗な女性に見られなようにと顔を伏せる。だが彼女の温かい腕が僕を包み、その瞬間に我慢が解かれ、小さいしゃっくりのような泣き声を彼女の腕の中で上げた。


 「人生、お疲れ様でした…」


 陽だまりのような温かな声。やっぱり僕の人生は終わったんだとまた悲しみが胸に刺さる。僕の泣き声が聞こえなくなった頃に、彼女は包んでいた腕をほどいた。そして、僕は着ていたシミ一つない純白服の袖に涙を拭くと改めて彼女の顔をしっかりと見ることが出来た。


 「僕、頑張ったかな?」


 彼女は少し驚いて、また優しく微笑んだ。


 「はい、もちろんです」


 「そっか…」


 ここから天国の案内があるのだろうかと立ち上がり、彼女の次の言葉を待った。しかし、彼女の口からは意外な言葉が飛び出た。


 「また、新たに人生を頑張ってみたいと思いますか?」


 「...え?」


 輪廻転生の話なのかと思った。でも、少し早い気がした。


 「いえ、少し干渉に浸ってからでも…」


 「お気持ちをお察しいたします。ですが、大変申し訳ございませんが、次の方もいらっしゃいますので、先に目覚めたあなたに次の世界のお話しをしたいと思います。お話が終わってからでも時間は与えられますので、よろしいでしょうか?」


 普通の人ならその気にはならないのでだろうが、でも「次の方」と言っているあたり、きっと彼女には忙しい使命が与えられているのだろう。何分に何人が亡くなっているとよく耳にすることも思い出し、聞くことにした。


 (干渉に浸る時間は与えられると言っているし、いいか...いや、ちょっと待って)


 「”次の世界”の説明ですか?」


 「はい」


 何故彼女はここでもこの温かい笑みを浮かべられるんだろう。


 「輪廻転生は僕の知っている地球じゃないのですか?」


 「そういう方もいらっしゃいますね」


 また変わらない笑顔。聞きたいことが増える。


 「パラレルワールド…ですか?」


 「そうですね…あなた方の世界ではそうお呼びすることがご理解がお早いのでしょう」


 少し考えるように彼女は言った。


 そういえば、僕は死んでいるのに何故前世の記憶がよみがえっていないのだろう。スピリチュアルな本を読んだことあるが、亡くなると前世の記憶がよみがえると聞いた。迷信?なら、転生の都度に魂がリセットされるのか?いや、でもそれなら次の世界に行くのにここで”説明”は必要ないはずだ。そして今の僕は...


 「あなたはとても賢い方なのですね」


 頭の中を読まれている気がして驚いた。しかし、彼女は話が早いと言わんばかりに笑顔は朗らかだった。聞きたいことはたくさんあったが、彼女のその曇りない笑顔がきっと不思議と怪しいと思う気持ちが飛ぶのだろう。気持ちを持ち直して素直に聞いた。


 「次の世界にいくことに今世の記憶を保持した状態なのが大事なのですか?」


 「はい。私もここに転送されてくる魂は予想ができません。ですが、ここに転送されてきた方々はとても大きな意味があるのです。そして、あなたもそうなのでしょう。」


 僕は胸が熱くなった。


 「改めて聞いてもよろしいでしょうか。あなたはこれから行かれる世界で、また人生を頑張ってみたいと思いますか?」


 僕は少し考えた。死んだあとは、本当はずっと我慢してきた感情を開放したかった。




 でも、【次の世界】...




 本の世界が楽しかったしか思い出のない人生だった。そして本の中にあったような、僕が住んでいた世界にとって普通じゃないことがたくさん起こる世界なのだろうか。悲しむ暇もないことに後ろめたさを感じたが、不思議と心が躍った。




 「はい!」




 お父さん、お母さん、健二。ごめんね。きっと沢山たくさん僕のベッドの上で泣いていると思う。そしてとても疲れていると思う。僕だって、必死で生きた人生だったし、本当は僕だって一緒に泣きたいよ。でも、僕は天国に寄り道できなくなっちゃったよ。ごめんね、僕、異世界で生きてるから、お父さん、お母さん、健二。




 女神からの次の世界の話が終わった。そして、そのまま僕をその世界に転送しようとした最中、女神を見ていた僕の目の端に起き上がってきた黒い髪の人が映り込んだ。彼を見ていると、女神がそれに気づいてまた僕を見た。


 「そうでしたか…」


 その一言を最後に彼女の陽だまりのような微笑みが僕の視界から真っ白に消え、決して眩しいからというわけではなかったが、何となく目を閉じた。次に目を開いた時には、僕は大聖堂の女神像が祭られている足元で目を覚ました。

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