むす☆こん!〜お母さん勇者は養子のエルフが愛しくていろいろヤバい⑥
出発の朝、私たちは卸したての服に袖を通して、家でミニ・ファッションショーを開催している。
「ふむ、悪くないの」
「ツアラちゃん、似合ってます」
「天使も、の。秋っぽさが出とるぞ」
うきうきしている二人を見ると、私まで幸せな気分になる。そしてほんとうに、二人ともよく似合っていると思う。
ツアラの身を包むのは、麻でできたロイヤルブルーのワンピース。その上に肌ざわりのよさそうな薄いウール素材のカーディガンを羽織っている。アリーナが追加で用意してくれた麦わら帽子にかわいいサンダルも、ツアラの輝く金色の髪と白い肌によく映えていて、牧歌的な雰囲気。……腰の剣さえなければ。
天使ちゃんには、栗色のオーバーサイズのハイネックセーターと黒いすっきりしたパンツ。強化綿の動きやすい運動靴も相まって、普段よりもアクティブな印象を抱かせる。
そして私は……
「これ……いつもと変わらないんじゃ?」
「い、いえ、ユーノさん、しゅてきです……」
カシミア生地のセーターに、ワイドめなコーデュロイパンツ、それから革靴。全身真っ黒、オールブラックだ。私は普段から黒いローブを着ているから、目新しさはないように思えるのだけれど。
でも天使ちゃんによれば黒の中にもいろいろあって、普段のローブは賢者が身に着ける荘厳な黒、今日の私はやわらかい黒、だそうだ。それから全体のシルエットも重要、らしい。
それにしても。私のトレードマークにもなっている漆黒のローブ、これまで守ってくれた戦友とも言える魔法のローブをクローゼットに掛けた時、妙な感慨深さに襲われた。
「(そういえば、君を着ないで遠出するなんて初めてだね。明日には帰って来るけど、それまで、君もお休み)」
旅行は一泊二日。遠征クエストよりも荷物は少なく、私たちは足取りも軽く集合場所へと向かった。
◇◇◇◇
「いいのですか、私も。家を守っていてもよかったのですが」
「いいのいいの、皆で行こうよ。それに君、最近影が薄くなってきちゃって。このままだと天使ちゃんに忘れられちゃうよ?」
「主様が幸せなら、私としてはそれでもいいのですが……」
「忘れるなんて、そんなことありませんよ。あっ、エリアさんにルカ君、来たみたいですよ」
家を離れることを最後まで渋った竜樹を無理やり連れ出して街の停車場で待っていると、エリアさんとルカ君がやってきた。
エリアさんは、一目で高価なものと分かるおしゃれでエレガントなドレスなんて着ている。それに大量の荷物まで。一泊二日の旅行で、そんなに必要なのかな。
「おはようございます、エリアさん。今日と明日、よろしくお願いします」
「は?」
私がそう挨拶すると、エリアさんが怪訝な表情を浮かべた。あれ?どうしたのかな。
「ユーノさん、素敵です。それに天使さんとツアラさんも、可愛いですね」
ルカ君のその言葉を聞いて余計不機嫌そうになったエリアさんとは対照的に、ルカ君は楽しみで仕方がないといった表情。
「ふふ、そうかの」
「ありがと。今日のために、みんなで新調したんだ」
そんなことを話していると、呆けた表情のまま、エリアさんが口を開いた。
「え?ちょっと、ちょっと待って。なんでユーノ達が?」
「え?今日と明日、みんなで旅行するんですよね?」
「え?」
「え?」
エリアさんぽかんんとしたままが聞き返し、私がまた聞き返していると。
「あっ!」
ルカ君がぽん、と手を叩いた。
「母様に言うのを、すっかり忘れていました。お従姉ちゃんにエルフの里を見せたかったので、今回の旅行に誘ったのですが……」
「え?てっきりルカと二人で行くのだと……」
あ、エリアさんが目に見えてがっくりしている。それも大きな失望の表情。報告連絡相談が、うまく行ってなかったみたい。もしかしてお邪魔だったのだろうか。
私は、勇者であるエリアさんがこの異世界でどんなに辛い思いをしてきたかを知っている。地球で暮らす唯の少女だったエリアさん。ある日突然異世界に召喚され、魔人を討伐するために血反吐を吐きながら前へ前へと進んできたのだ。
傍から見れば唯の変態にしか見えないエリアさんの(主にルカ君に対する)行動も、人並みの恋愛や友情を経験出来なかった事からの反動なのだ。一緒に冒険をした私は、そのことを知っていた。私は、エリアさんの幸せな日々だけは邪魔したくなかった。
「あっ、やっぱり、家族の時間もたいせ」
「でも、いいですよね。ねえ!母様!!」
自然に、そうナチュラルにお暇しようと機転を利かせた私の言葉は、しかしウキウキなルカ君にかき消されてしまった。そんなルカ君の視線に当てられて、エリアさんが断れるはずもなかった。
「そうね、みんなで、行きましょうか……」
「やったー!」
「(エリアさん、でも私は、あなたの味方ですよ)」
私は心に深く誓った。




