むす☆こん!〜お母さん勇者は養子のエルフが愛しくていろいろヤバい⑤
そしてさらにその翌日。私、天使ちゃんとツアラの3人はアリーナに連れ出されて、モルマ商会御用達の仕立て屋さんに来ている。半ば天使ちゃんとアリーナに押し切られたかたちだけど、「お泊りデート」のために服を新調するためだ。
「うわ……なんかいいね、この雰囲気。『ザ・仕事場』って感じ」
「職人のアトリエ、といった感じじゃの」
ツアラが洩らした感想に、私は同意した。
少し古ぼけた、装飾のない店内には、年季の入った無骨な机が三台。その上には重厚な金属製のミシンが置かれ、それぞれの机で仕立て職人さん達が黙々と作業に没頭している。そしてお店の壁一面を覆うほどの大きな棚には、色とりどりの、種類も様々な生地や糸がきれいに整頓され、そこからも仕立て屋さんの仕事への真摯な態度が見て取れる。
「やっぱり、シックっていうよりも、もっとこう……ひと時の休暇を楽しむお嬢様、みたいな、そんなコンセプトで。動きやすくて、でもそこはかとなく清楚で……」
「では、そちらの金髪の女の子にはシンプルなワンピースにカーディガンを合わせて、素朴な感じで……」
「いいですね!ツアラちゃんらしさが出ると思います。それからユーノさんは、カッコイイ面もあるから、そこを推していきたいっていうか……」
「賢者様はきれいな銀髪をお持ちですし、モノトーン調でちょっと男性っぽくなるかもですが、じゃあ……」
「……」
「……」
これまで出来合いの服しか買ったことがなく、ファッションのことはよく分からない私。そして「戦乙女は質実剛健、過度に自分を飾ることはせん」と言うツアラを置いてきぼりにして、天使ちゃん、アリーナと仕立て屋さんのお姉さんが何か熱い議論をしている。
20分くらい、待っただろうか。
「ではっ」
仕立て屋さんのお姉さんが笑顔でぱんっ、と両手を叩いた。どうやら話がまとまったみたいだ。
「みなさんの体のサイズを測らせていただきますね」
「え?測るって、どこをですか?」
仕立て屋さんの言葉に、天使ちゃんがやけに高い声で反応する。
「みなさんの身体に合った作品に仕上げますので、身長と、バスト、肩幅、袖丈、ウエスト、ヒップ、股下、ですね」
「バ、バスト、ウエスト、ヒップに、股下まで?!」
天使ちゃん、なぜか驚きに打たれている。どうしたんだろう。
「はい、そうなりますね」
「ふ、服は?服は着たままですか?」
「ふふっ、大丈夫です。服は着たままで、大丈夫ですよ」
天使ちゃんの質問に、仕立て屋のお姉さんは微笑みながら答えた。天使ちゃん、仕立て屋さんの前で服を脱ぐのは恥ずかしかったのか。やっぱり、大胆になったとは言っても天使ちゃんは天使ちゃんのままだ。
しかし安心する私をよそに、天使ちゃんはちょっと何かを考えて、続けた。
「そうですか。でも、ユーノさんのサイズは私が測りますね」
「「へ?」」
さも当然のことのように言うので、今度は私とお姉さんが面食らってしまう。「でも」って何だろう。というか天使ちゃん、自分が恥ずかしくて仕立て屋さんに質問をしていたんじゃあ……
答えに窮している仕立て屋さんに、天使ちゃんは、ぐいっと前に出た。
「ユーノさんのサイズは、私が!私が測らせていただきます」
「えっと……」
たじろいでしまっている仕立て屋さんに、もう一押し。
「いいですよねぇ!?」
「あ、はい、どうぞ……」
そんなこんなで、私の身体の寸法は天使ちゃんが測ることになってしまった。
◇◇◇◇
「ユ、ユーノさんのバスト……し、失礼します……」
「えっと、お願い……」
もちろん私は服を着たままなのだけれど、なぜか天使ちゃんの息が荒い。ほんと、大丈夫かな。バンザイをする私の後ろから、天使ちゃんがきつめにメジャーを巻きつける。
ぎゅ。
「て、天使ちゃん、ちょっと、痛いかな……」
「ふぇっ、す、すいません。人前でユーノさんに紐を巻きつけているかと思うと、つい力が……」
ついって、何だろう。心配する私をよそに、天使ちゃんはどんどん私を測っていく。
「じゃあ、ウエストを……」
「ヒ、ヒップ……」
「ま、股下も……」
天使ちゃん、私の身体を触るなんて、一昨日も昨日もさんざん……おっと、これ以上は言えないのだった。
「終わりました。それで、ユーノさん……」
変に強張りながらも私を測り終えた天使ちゃんは、何かをお願いするように私を見つめてくる。
……しょうがないなあ。
「じゃあ、天使ちゃんとツアラの分は私が測るよ」
「あ、あの、賢者様……?」
仕立て屋さんのお姉さんが何か言いたげだけど、
「いいよね?」
「あ、はい、どうぞ……」
この「メジャーの件」でまた街に噂が広まってしまうのだけど、それはもう仕方のないことだと自分を納得させることにした。仕立て屋さんであっても、天使ちゃんとツアラを他人の手を触れさせたくないのは私もおんなじだったのだ。それにほら、戦乙女は他人に肌を触らせないから。
そうして、「お泊りデート」の前日には仕立てが出来上がったのだった。




