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イセカイ・シンドローム⑦

「で、時を止めたのはあなたですか、エリアさん」


 このままエリアさんのペースで話していては埒が明かないので、私は率直に聞いた。


「はあー?そんなわけ、ないでしょう?私だって仮にも勇者なんだから、力の使いどころっていうのはわきまえてるつもりよ?今回は、たまたま誰かが時を止めたから、その間にちょっといたずらをしちゃおうかな、って思っただけなの」


 ……あれ、時を止めた犯人はエリアさんじゃないのか。


 じゃあ、二つある反応の内の、もう一つの方が犯人、ということか。どうやら不運にも外れを引いてしまったらしい。


「そうだったんですか。それは失礼しました。では、私たちは他をあたるので、これで」


 時間は止まっているけど時間はないので、そそくさと立ち去ろうとすると、


「ちょーっと、ユーノ!ちょっと、冷たいんじゃない?時間が止まった元凶を探っているのでしよう?私も行くわよ。仮にも、勇者ですもの」


 エリアさんも付いてくるみたいだ。心強いといえばそうなのだけれど。


「……じゃあせめて服着てくださいね」


◇◇◇◇


 天使ちゃんが感知した、もう一つの反応へと向かう道中、エリアさんに聞いてみた。


「ところで、エリアさんはなんで動いていられるんですか?」


「あー、これは勇者の加護ってやつね。私よりレベルの低い術者の攻撃とかスキルとか、特殊効果とか諸々全部、キャンセルできるのよ。今回『も』、レベルの足りない誰かが時を止めたのでしょうね。それでユーノ、そっちの方は見たところ、その面白い世界樹の魔物の加護、かしら。ルーイッヒさんから話は聞いてるわ」


 勇者は強力な加護によって守られているとは聞いていたけど、まさかそんな能力まであったなんて。エリアさんからすれば、聞かれなかったから言わなかっただけみたいだけど、冒険を共にした私でも驚きの新情報だった。


 それにしても、「世界樹の加護」に「ルーイッヒ先生」……。そうだ、エリアさんの予想外の行動で言いそびれていたけど、ルーイッヒ先生のダンジョンも、ルカ君の神童の件も、元々はエリアさんが作る魔道具が原因なのだ。そのことについては、今度落ち着いて話さなければならない。


「お目にかかることができ、光栄です。勇者様」


 さっきの痴態を後ろから全部見ていたというのに、竜樹のうーちゃんがうやうやしく挨拶をしている。人の欲望にまみれたあのような営みなど、竜樹にとっては些細なことだのだろう。


「そう。ユーノ、いい仲間を持ったわね、うれしいわ」


 そう言って、エリアさんは私を真っ直ぐ見つめた。今度は変態ではなくて、私の知る先輩冒険者の顔を見せてくれた。まったく、この人は。


◇◇◇◇


「ここのようですね」


 天使ちゃんが私たちを案内したのは、教会が運営する宿泊施設の一つだった。こうした施設には、主に恵まれない子どもたち、保護を必要とする大人たち、それから、この世界にやってきてしまった「異世界人」などが暮らしている。私もこの世界に取り残されてしまった時、この種の宿泊施設のお世話になったのだ。


 中は共同のキッチン、トイレ、バスルーム、それから入居者それぞれに寝室があてがわれている。反応があるのは、どうやらその中の一室、らしい。


 相手は時を止める程の能力の持ち主。この先何が起こるかわからない。エリアさんは勇者らしく、私たちを守るように先頭に立ち、その部屋のドアを空けた。


 そこにいたのは。

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