イセカイ・シンドローム①
本編6話です。とある転移者の視点から始まります
前回のあらすじ:最近ネウンベルグ周辺の街や村を襲っていた魔物達の住処、それは引退魔術講師ルーイッヒが育てた世界樹の家だった。ベテラン冒険者リレイの助けもあり、ダンジョンと化した世界樹の家を攻略したユーノパーティは、ペットのうーちゃんを仲間に加えて一歩前進したのだった。そしてその裏では、ユーノに異世界平和の使命を与えた謎のまじない師がその正体を表し、行動を始めた。
「異世界症候群」をご存知だろうか。
いや、これを読むあなたが知るはずはない。僕がさっき作った言葉だからだ。でも、一度異世界へ来た者ならば、似たような症状に襲われたことがあるのではないだろうか。
それは、普通に生活していては得ることのできないスキルや魔道具、大量の経験値と共に異世界に転移してきたはいいものの、新天地で何かしらの失敗をしでかし(多くの場合は対人関係である)、この世界に受け入れらていないという感覚に陥いってしまう症状。
最終的には、ここは自分の思い描いた異世界じゃないと幻滅し、場合によっては失望の反動から異世界そのものへと破壊衝動を向けてしまう、恐ろしい精神病のことである。
「こんなはずじゃなかった」、「本当ならもっと活躍しているはずなのに」、「恋人も友人もできないなんて」、又は「偶然できた亜人の恋人や、理由もなく僕を好いてくれる転生先のチョーカワイイ妹、幼女魔王やお姉さん勇者に依存しきって、自分では何もしなくなってしまう」……
そのようなネガティブな現状を自覚しつつ、自分からは積極的に行動を起こそうとはしない。これはもはや、一種の適応障害である。
そう、あの有名なパリ症候群に似ている。パリ症候群の方は主に20代から30代の女性がかかるそうだが、こっちの異世界症候群にかかるのは主に同年代の男性、どうもそんな気がする。
僕がそれを発症するまで、少し時間は遡る。
━━それは2か月くらい前のこと━━
最強スキル「時止め」と共にこの異世界に転移してきた僕は、一時的に僕を保護してくれた教会の勧めで異世界職業案内所に向かい、手に職をつけるための研修を受けることにした。選んだ職業は、あえての精肉職人。
最強のスキルを持っているにもかかわらず、僕がすぐに冒険者にならなかったのには理由がある。冒険者以外の、「街の住人」の職業を持つ男が実は最強のスキルを使う勇者、というのがなんだかカッコイイと思ったからだ。
━━━そして1か月が経った━━━
職業研修は滞りなく進み、あとは現場での経験を積めば、晴れて精肉職人の免許を取得して独り立ちすることができるようになった。
しかし、僕にとって大事なのはそこじゃあなかった。「隠れた最強の冒険者」として認知され、周りの人間から「おおあなたは伝説の勇者に違いない。どうかこの世界を救ってくれ」と頼み込まれるイベントが必要なのだ。
本当のところは、偶然魔王の配下とかに街が襲われて、そこを僕が解決すればいいのだけれど、そのような事件、そう起こるものではない。
そこで僕は街の冒険者組合に行き、受付のお姉さんに聞いてみることにした。
「精肉職人兼勇者になりたいんですけど、どうすればいいですか?」
「えっと……精肉職人兼、勇者さん……ですか……?」
「はい、その通りです」
受付のお姉さんは少し驚いたようだった。それもそうだ。無理はない。精肉職人が実は最強の冒険者。このような斬新かつ先進的な考えを持つのは、この世界でも僕くらいなものだろう。
それでも受付のお姉さんは、親切にこの世界の冒険者職について説明してくれた。
「ええ、精肉職人の方が勇者になることは、可能といえば可能です。しかし勇者を名乗るには、勇者番付の序列1位にならなければいけません。これは長い道のりですよ」
聞けば、この世界には1位から100位までの勇者番付というものが存在するという。ランク入りする者の多くは上級冒険者であったり、亜人の族長や聖騎士、軍人であったり、とにかく戦闘に長けた猛者揃いだそうだ。
細かいレーティングシステムは分からないけれど、上位の者を倒せばより多くのポイントが入り、1位の勇者の称号に近づく、ということらしい。
そしてこのネウンベルグという街には序列12位の「若き炎の賢者」が定住しているという。まずは小手調べ。その「若き炎の賢者」についての情報を聞いていると、
「あっ、ちょうどいらっしゃいまいたよ」
銀髪の少女、黒髪の幼女と金髪の幼女が三人、こちらに歩いてくる。一番年上らしい銀髪の少女は僕を無視して、受付のお姉さんに挨拶する。
「どうも、受付のお姉さん。魔物退治のクエストがあれば、受けたいんだけれども」
「お久しぶりです、ユーノさん。あ、後ろのお二人が、例の……」
それはエピソード「異世界転移したらレベルマックスじゃった⑤」の時の事でした。




