引退魔法士ルーイッヒの半農半ダンジョン生活⑭
そんなこんなで、ダンジョン「世界樹の家」の攻略は無事完了。
依頼内容は世界樹の核を持ち帰ること、又は破壊することだったので、私たちは核と一体化した竜樹、もとい「うーちゃん」をルーイッヒ先生のもとに連れて行った。
そこで天使ちゃんに懐いてしまったミニ竜樹をルーイッヒ先生に見せると、先生はこのミニ竜樹が私たちと一緒に住むことを快く許してくれた。
ドラゴンの死骸を取り込むことで成長する竜樹が世界樹の核を取り込むとどうなるのか、先生が経過を時折観察することが条件、だけども。その竜樹が世界樹の力でダンジョン自体を消し去ってくれたので、今後ここが魔物の住処になることもないだろう。
事の発端となったルーイッヒ先生は今回の件を深く反省したようだ。憧れの隠遁生活はもう少し先へ延ばして魔術学校の講師に戻り、教師として後進の育成に携わりつつ、世界樹とその変異種とも言える天使ちゃんの竜樹の研究を続けるそうだ。「次は失敗しない」と意気込んでいたけれど、さてどうなることやら……
◇◇◇◇
ここは日本のとある空港。ドラド・イム・ツンデラ貴族制連合国の出入国管理官が、出張のため日本の地を訪れている。仕事とはいっても、彼は時間をかけて空港から都市部へ向かう必要はない。なにせ彼の目的は、この空港の中で自営業を営むある男との面会なのだから。
「ほほ、お久しぶりです。お変わりないようで」
「ええ、私の方は変わりませんが、『世界』の方は、思いがけずなかなかいい方向へ変化しているようです」
旧知の仲である二人は、軽く挨拶を交わす。
「ほほ、その通りです。先ほど、怠惰の属性が浄化されました。これで停滞していた世界も再び動き出すでしょう。彼らによって『異』にされ、滅びに向かっていたあの地が、愛すべき平和な『世界』に戻る日も、本当に来るかもしれません」
この出入国管理官は、まさにそのことで「ふしぎな免税店」の店主に会いに来たのだ。そして彼は早速本題に入る。
「ええ、それで今日は、あなた様の世界への帰還をお願いするために来たのです」
「ほほ、いよいよ私が懐かしきあの地へ戻る時が来ましたか。でも、急には無理ですよ?」
「無理、ですか?」
「ええ、私もこちらに移ってもう15年。アパートや携帯電話などの契約もありますし、滞在ビザなどの書類も片付けないと。それからもちろん、『彼女』へのお土産の用意も。まったく、そんな急に帰れるわけないじゃないですか」
「魔王様……すっかり日本の生活に溶け込まれて……」
「ほほ、今は唯の変なおじさん、ですよ」
元魔王軍副将、現ドラド・イム・ツンデラ貴族制連合国文官、世界間出入国管理員は、かつての自分の上司の変わりように驚いた様子だった。
そして元・世界の魔王とその部下は、来たる異世界平和の日のため、粛々と引っ越しの準備を始めるのだった。
ここまで本編5話です。謎の店主・世界の魔王が出入国管理官と行動を開始しました。




